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カットオーバー時のトラブル発生要因の検証(5)~ 開発ベンダーとの関係性について ~

第5回は、もっとも重要となるシステム構築の委託企業(開発ベンダー)との関係性における検討・検証ポイントについて考察したいと思います。

今回対象のシステムは、これまで紹介したように「4つのサブシステム」のうち、3つのサブシステムを「大手ベンダー」3社を選定し開発にあたっています。 


【ベンダー対応サブシステム】
・現場売上管理・タブレット型POSシステム(D社)
・現場タブレット型顧客サービスシステム(C社)
・既存基幹システムにおける「新現場システム」連携開発、運用(B社)

本稿では、今回のような複数ベンダーによるシステム開発における統制面という観点を中心に、検討・検証ポイントについて考察しています。


1.開発ベンダーとの関係性について

何といっても、システム開発において、その中核を担うのが開発ベンダーであることは言うまでもありません。一社だけでも統制が難しい中、複数のベンダーを同時に統制することの難しさは想像に難くありません。
それだけに、情シスはもちろん、開発ベンダー関係者への「当事者意識の醸成」が非常に重要になってくると考えています。「言われた通りに作るだけ」「自社分だけ対応していれば」という意識に陥らせないように、常に「全体感を持って行動する」ように働きかけてきたかという視点で見ていくことが必要でしょう。

■メイン開発ベンダー3社を統制する体制、行動様式は、十分であったか
・コンサルタントの役割は、期待通りであったか。(構想案から外れない)
・PMOの役割は、期待通りであったか。(ベンダー進捗統制)
・ベンダー各社とそのベンダー間に関わる統制は、期待通りであったか。
・取り組み方、行動様式について、意識醸成を図ったか。
・「SLA *1 」について、明確に取り交わしたか。
・SLAは、第三者検証(弁護士、コンサル、PMOなど)は受けたか。
・逆に、ベンダー各社がSLAや契約条項に拘りすぎていなかったか。
・ベンダー各社の対応は、杓子定規ではなかったか。
・「そんなはずではなかった」「このレベルはやってくれて当然だ」といった思いは無かったか。

■プロジェクト推進において、ベンダー各社の調整はスムーズに行われたか
・ベンダー各社は、協力的・協調的であったか。
・ベンダー間の調整役(調整機能)は、明確であったか。
・コンサル、PMOは、調整役として十分機能したか。
・ベンダーの位置付け、立場は明確だったか。(自主的だったか)
・ベンダーの行動にモノ足りなさは無かったか。(能動的だったか)
・ベンダーの実効性は、担保されていたか。(対処の確実性)
・打ち合わせ時に、必ずドキュメントがともなっていたか。(3現主義)
・議事録は、双方(ベンダーと情シス)常に「承認」を取っていたか。
   
■ベンダーに対する統制は、十分出来ていたか
・定例会におけるイニシアチブは取っていたか。(議事進行、対応明確化)
・コンサルタント、PMOの役割を、事前にベンダーに理解させていたか。
・コンサルタント、PMOに任せっぱなしにしていなかったか。
・コンサルタント、PMOとのコミュニケーションは、十分であったか。
・ベンダーの報告書は「3現主義」が遵守されていたか、求めたか。 
・実効性を担保させるためのベンダーサイドの統制は、機能していたか。
・実効性を担保させるための申し入れは、タイムリーに行ったか。
・指摘した事項、発生した課題は、確実に管理、実行確認していたか。

■ベンダーとの「人的なつながり」が、形成できていたか
・ベンダー各社のリーダー、責任者は、人として信頼できる人物だったか。(この人なら、話に信頼感がある等々、納得感が得られていたか)
・会社名(大手・実績など)に、期待していなかったか。
・ベンダー各社のリーダー、責任者は「自社」を理解しようとしていたか。
・理解しているような行動、発言をしていたか。(実感できたか)

2.システム開発における行動様式について

特に、「行動規範」と言う視点での検討・検証観点について示します。

■完遂するために、どこまで「踏み込むか」の認識は出来ていたか
・これくらいは「やってくれるハズ」との思いはなかったか。
・「組織間」「チーム間(タスク間)」の枠(役割・責務)を超えたか。
 意識しすぎなかったか
・「言うべきこと」「やるべきこと」の実効性を、担保したか。
・「言いっぱなし」にしていなかったか。(結果まで追わず)
・確認は、必ず「3現主義」を実践していたか。

■実効性に疑念を感じた(認識した)時、どのような行動を取ったか
・「仕方がない」と思うことはなかったか。(とことん突っ込んだか)
・「枠を超えることはすべきで無い」と思わなかったか。
・相手の立場を考えて、発言を思いとどまったことはなかったか。
・情報シスとして「おかしい」と思ったことは、ハッキリ発言したか。

■ベンダー各社の取るべき行動は、十分であったか
・ベンダー各社の取り組み方、特に開発統制、トラブル対応などについての実態について、取りまとめたか。(ベンダー評価)
・今後の自社の取り組み方、統制などに関する「継承性担保」のための取り組みを行ったか。(情シス、現場統括、経営層の行動実態取りまとめ)
・その他、次回以降に活かすため(トラブらない為)の活動を行ったか。

3.自社開発分への対応について

自社開発分についても触れておきたいと思います。当然のことながら、ベンダー開発分と独立して存在するものではないので、平行した統制が必要になることは言うまでもありません。

■自社開発分の推進体制は十分だったか
・自社開発分に関する「全体での位置づけ」を掌握していたか。
・自社開発責任者(統制者)は、兼務ではなかったか。(責任優先度)
・自社開発要員は、現業務との兼務ではなかったか。(優先度認識)
・兼務に対して、新規開発または修正するだけの十分な余裕(タスク量、スケジュール)が与えられていたか。(事前負荷認識)
・指摘した事項、発生した課題は、確実に実行されたか、確認したか。

■情報システム部門としての行動は、十分であったか
・妥協した部分、コトは無かったか。(しょうがない感)
・要員の性格、行動様式を理解していたか。(資質、考え方の把握)
・会議などで、全体の空気感を読んだりしなかったか。
・空気感を読ませるような雰囲気を、醸し出していなかったか。
・現業の負荷を考えて、突っ込みを控えたりしなかったか。
・報告は、「3現主義」を徹底したか。

■開発ベンダー対応分との関係性を、自社要員は理解していたか
・社内担当分との関係性は十分説明されていたか。(認識共有)
・推進責任者は、理解していたか。(自社分に拘泥)

*1 SLA: Service Level Agreement 
提供(契約)するサービスの内容、品質等について規定したもの。 


以上、開発ベンダーとの関係性軸に、社内開発分も含め、その検討、検証ポイントについて考察しました。
システム開発における関係者の取り組み実態について改めて検証し、次回以降に活かし、同じ轍を踏まないために、是非、「ドキュメント化」を図るように努めて欲しいと思います。

次回は、これまでの開発当事者(情シス、経営・現場統括、コンサルタントとPMO、開発ベンダー、自社開発担当)に関する検証観点を踏まえ、開発に臨むにあたっての対応施策について「2回にわたり」考察したいと思います。

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