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なんとなくいいな、の世界
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2024年1月の記事一覧

短編小説/濡れ鼠

短編小説/濡れ鼠

 南口のバスターミナルで、名古屋行きの夜行バスを待っている。不運なことに傘はない。急に降り出した大粒の雨を五分ほど浴びた後、びしょ濡れの体でバスに乗り込んだ。
「寒いですね」
 と隣の席の女性に声をかけられる。雨で濡れた髪をタオルで拭きながら、「雨が降るとは思いませんでした」とため息と共にその人はいう。
「そうですね、予報では晴れだったと思います」
 そう言って、僕も長く息を吐く。
「実は今日、彼

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欠けたまま完全な世界

欠けたまま完全な世界

 松葉舎での授業の話です。

 塾生の方が『言語の力』という本を購入されたということでそれに関連する話題が出ました。その本では、大雑把に言うと複数言語を習得していると、世界の把握の仕方が変わってくるということが書かれているようでした。
 その本を買われた塾生の方は野口体操を通じて「身体が柔らかいとはどういうことか」を探究されている方だったので、塾長の江本さんから、「複数言語を習得することで世界の把

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姿勢を正して仕事に取り組んでいる時間がすき

姿勢を正して仕事に取り組んでいる時間がすき

最近は朝早起きして近くのコメダにパソコンを持ち込んで仕事をしたりしているのですが

朝広いデスクの上で入り込む日差しを感じながら

姿勢を正して仕事に取り組める時間が好きです。

自宅からコメダまでの道はリュックを背負いつつもランニングしているので体はあったまっています。そこでたっぷりアイスコーヒーを飲みながら背筋をピンとする。

うん、これだけでなんとなく気合が入るというか。姿勢をただすというだ

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布団から4 #布団から #シロクマ文芸部 #小説

布団から4 #布団から #シロクマ文芸部 #小説

布団からメモ用紙を置く。
それを拾い上げるのは母。

「買ってきたら、置いておくね」
そう言って部屋から出ていった。

数年前に俺は
殺人未遂を起こした。

それから、家族とも世の中とも
遮断された布団の中で過ごす。

必要な物があれば、
布団のからメモ用紙に書いて置いておく。

毎朝、母が部屋に入り
確認してから出ていく。

食事には興味がなくなった。
ただ、生きるために必要な
カロリーを取るた

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本当に求めているものが得られた時、他にも求めていたはずのものがそんなに欲しくなくなっていたことに気付いた。

本当に求めているものが得られた時、他にも求めていたはずのものがそんなに欲しくなくなっていたことに気付いた。

皆さん、こんばんは。
今日は、敢えて、抽象的に書いてみようと思います。
わかりやすい言葉を使うと書けないことも、抽象的な言葉によって書けることもあるかもしれないと、思ったからです。
意味不明な文章になると思いますので、離脱したい方はどうぞ今のうちに😉

ずっと、心がざわめいていた。
理由はわかっている。
自分の中できっと、これが理由なんだろうと、わかっている。
でも、確かめたわけじゃない。
結局

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あなたの興味はタダじゃない

あなたの興味はタダじゃない

先日、ある人から「人は興味を抱くものにしかお金を払わないよね」と、ごく当たり前だけれど、考えるきっかけになるテーマを投げかけてもらいました。逆にすると「お金になるのは人の興味」だし、もうすこし踏み込めば「人の興味はタダじゃない」とも言えるかな、と思いました。

私は昔から着物に興味がありました。着物を着ている女性は美しいなと憧れていたし、身につけることで所作が美しくなったり、それを着られる自分に自

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雪の降る日に ~ショートショート410字~

雪の降る日に ~ショートショート410字~

 雪化粧の庭は、取り澄ましたような顔をしていた。
 母は、予定が書き込まれた壁掛けのカレンダーを指でなぞり、はたと思い出したらしい美容室に電話を入れた。

「俺が切ろうか?」
 柄にもない提案をすると、母は照れ臭そうに微笑んだ。

 板の間の窓辺に新聞紙を広げ、雪見席の美容室を即席でこしらえた。遠方の山並みは、どんよりと垂れ込める雲に閉ざされていた。
 母を椅子に座らせると、痩せ細った首に大き

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思いやり

思いやり

人の心の傷なんて見えないけど

心の光り方や色具合で
なんとなく感じるような瞬間がある

僕の心の物差しが

正しいかわからないし
思い過ごしかもしれないけど

その傷を意識できると自然と
いい相性が作れるような気がする

言葉にしなくても

小さな気付きが
お互いの思いやりに育つと想う…

ヘッダーにつかってください♯3

ヘッダーにつかってください♯3

シュールなのもあります(笑)

シンプルなカウンターバー✨️

ビール3種(笑)

┏○ペコッ

昨日の星と夢の中

昨日の星と夢の中

誰かに理解されたいけれど、全員に理解されるのはシャク。
それって、みんなもそうなのかな。

光、音、文芸、美術、創造する惑星。

冬。寒さには弱いけれど好きな季節。
さむ、と思いながら顔を上げて、白い息が出るかどうかを確かめるそのときの、小さな期待感がよくて。白い息を見ると、生きている、という感じがする。
夕暮れの時間に、砂浜から続く階段を上がって、2階のカフェに来た。さむ、と思いながらアイスティ

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綿飴の空を忘れても

綿飴の空を忘れても

3階の円卓でまかないを早番のみんなで食べて、廃棄にまわったケーキも食べて、喋って、時間が来て、外していたサロンを巻いて、1階から上がってくるエレベーターを待つ、ほんのわずかな時間に、廊下の窓から空を見るのが癖だった。
制服の白いシャツと黒いスラックスに季節は関係なくて、だからだいたいの思い出と季節は連動していないけれど、あの空はとても青かったから、きっと夏だったんだと思う。
雲が巨大な綿飴みたいだ

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短編小説 | Message~私はあなたを許す~

短編小説 | Message~私はあなたを許す~

どこかの、やさしい、だれかは
わかっているよ。

あなたが、こどもをあいせなくて
くるしんだこと。
そのことを、だれにも、うちあけられずに
くるしんだこと。

こどもから、にげるように
トイレにこもったこと。
SNSにいぞんして、げんじつから
にげていたこと。

ゆうがた、なきさけぶ、こどものこえに
みみをふさいで、ないたこと。

こどもの、ねがおに
なきながらあやまった、ひび。

どこかの、だれ

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