聞き鞄(キキカバン)

かばんを作って売っています

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かばんを作って売っています

    記事一覧

    道具の話

    父は建築士だった。 小さい頃、家にはいろいろな種類のシャープペンシルが並び、三角や直角やカーブのための定規があった。 100色以上の色鉛筆から好きな色を選んで大きな…

    どこまでが「かばん」か問題

    倉谷滋先生の「新版 動物進化形態学」を読んでいる。 元々は個人的な趣味(キリンが大好き)で、その分類について調べていたら行き着いた本。 読んでいる、というのは、まだ…

    北海道の農家さんの話

    北海道は10月から猟期に入り、シカが獲れるとスマホに通知をいただくようになった。 猟師さん、毎日山に入ってバンバン銃を撃っている訳ではない。 銃の弾は高いし、何よ…

    A4サイズのかばんの話

    かばん選びの基準で最もポピュラーなもののひとつ、A4サイズの書類を折らずに入れられるサイズかどうか。でも、どうしてA4なのか、考えたことはありますか? ドイツのDIN…

    消えてしまった職人の話

    日本の職人が消えてしまった、と聞く事があります。 消えてしまった日本の職人とは、誰でしょうか。職人とは、誰でしょうか。 「工業製品」と「手作り品」の間に、「職人…

    3ステップ ヌメ革のお手入れの話

    Step1:守る ヌメ革は、手入れをしながら長く使っていただくと、全体にツヤが出て、飴色になります。古くからあるシンプルな仕上げですので、通好みの、育て甲斐のある素…

    糊を使わないで作るかばんの話

    糊を使わないで作るかばん、そんなものはありません。 普通は、殆どあり得ない手法なんです。古い手縫いの技術を教えてもらったドイツでも、出会った鞄職人たちは全員、糊…

    椅子とかばんの話

    「私はかばん屋で、祖父が椅子屋です。」 そう言うと多くのひとが、「え、かばんて、あの、持つ?それで、いすって?あの、こう、座る?」と聞く。 組み合わせが珍しいの…

    ミツロウと鞄

    聞き鞄のカバンを縫うときに欠かせない、ミツロウのお話。 東京に養蜂場がある、と言ったら、自然の多い、都心から遠く離れた場所、例えば八王子や青梅、奥多摩あたりを想…

    エゾシカの肉をいただいた話4

    とても美味しかった。 エゾシカ肉のコンフィ、サラダ風 柔らかく食べるため、米油、塩、胡椒に漬け込み、湯煎 エゾシカ肉パイ 赤ワインと野菜で煮込んだシカ肉とマッシ…

    エゾシカの肉をいただいた話3

    シカ肉の調理法が特別である事も、よく解ってはいなかった。 他の肉と比べて脂質が少なく、高たんぱく低カロリーのシカ肉。ヘルシーではあるけれど、食べるために育てられ…

    エゾシカの肉をいただいた話2

    シカ一頭分のお肉(可食部と言うらしい)がどの位になるか、私は知らなかった。 7月後半、関東は気温が高く、はっきりとしない頭でカレーのレシピを検索。「カレーを持って…

    エゾシカの肉をいただいた話1

    「シカが獲れました」 7月のある朝、旭川からのお知らせ。 春にお願いしてからずっと待っていた、シカ革がやっと手に入る。私はすぐにスマホを開き、染め色等の確認連絡…

    旅するかばん屋 エゾシカレザーについて

    2014年初夏、エゾシカの革を使って鞄を作り始めてまだ日が浅い頃、北海道の旭川への旅 2016年より、いまも旭川で害獣として駆除対象となっているエゾシカの革を鞄の素材と…

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    冬、リッチな革のお手入れの話

    エゾシカの革に空いた穴から、生きていた頃の物語を想像します。

    道具の話

    道具の話

    父は建築士だった。
    小さい頃、家にはいろいろな種類のシャープペンシルが並び、三角や直角やカーブのための定規があった。
    100色以上の色鉛筆から好きな色を選んで大きな青焼きの紙を塗って良かった。

    CADが普及して、父がその製図道具を一式誰かに譲ってもいいと考えるようになった頃、後輩たちは図面を手描きしなくなり、娘は設計図を使わないかばん屋になった。
    道具は、若かった頃の父にとって高価で、ひとつひと

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    どこまでが「かばん」か問題

    どこまでが「かばん」か問題

    倉谷滋先生の「新版 動物進化形態学」を読んでいる。
    元々は個人的な趣味(キリンが大好き)で、その分類について調べていたら行き着いた本。
    読んでいる、というのは、まだ読み終わっていないという事だ。
    本好きな子どもだった方、「はてしない物語」を覚えてるだろうか。
    文字は黒一色だけれど、ボリュームとしてはあの位の本で、そこに難しい言葉で面白い事が無限に書いてある。無限に。ずっと読み終わらなければ書いてあ

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    北海道の農家さんの話

    北海道の農家さんの話

    北海道は10月から猟期に入り、シカが獲れるとスマホに通知をいただくようになった。

    猟師さん、毎日山に入ってバンバン銃を撃っている訳ではない。
    銃の弾は高いし、何より彼らの多くは生活のための仕事を持っている。
    猟師になるのに対してシンプルに最も因果関係が深いのは、農家さんだと思う。
    ジビエとかそんなお洒落な名前が浸透する前から、不作の年に農作物を狙って山から下りてきてしまった野生動物を捕獲し、食べ

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    A4サイズのかばんの話

    A4サイズのかばんの話

    かばん選びの基準で最もポピュラーなもののひとつ、A4サイズの書類を折らずに入れられるサイズかどうか。でも、どうしてA4なのか、考えたことはありますか?

    ドイツのDINという規格が元となって定められたA4サイズは、A3のちょうど半分、A3はA2のちょうど半分。確かに気持ちいい単位です。

    ところでかばん屋の身長は高くありません。ドイツ人の師匠は長身なので、ハグしてくれるときは毎度、体を2つに折って

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    消えてしまった職人の話

    消えてしまった職人の話

    日本の職人が消えてしまった、と聞く事があります。

    消えてしまった日本の職人とは、誰でしょうか。職人とは、誰でしょうか。

    「工業製品」と「手作り品」の間に、「職人の手仕事」を入れて並べてみます。同じように感じませんか?でもこの中で、動詞に変化させる事が出来るのは、手仕事という言葉だけです。

    工業製品では、専門家でなければ見たことの無いような機械を使ったり、大量に早く作ったりするため、出来上がり

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    3ステップ ヌメ革のお手入れの話

    3ステップ ヌメ革のお手入れの話

    Step1:守る

    ヌメ革は、手入れをしながら長く使っていただくと、全体にツヤが出て、飴色になります。古くからあるシンプルな仕上げですので、通好みの、育て甲斐のある素材と言えます。

    しかし反面、革の中でも特に水に弱く、雨や、机の上のお飲みものの滴、また汗などで染みができてしまうこともあります。

    もしも水が掛かってしまったら、できるだけ早く乾いた布で拭けばシミを防ぐことが出来るかも。防水スプレー

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    糊を使わないで作るかばんの話

    糊を使わないで作るかばんの話

    糊を使わないで作るかばん、そんなものはありません。

    普通は、殆どあり得ない手法なんです。古い手縫いの技術を教えてもらったドイツでも、出会った鞄職人たちは全員、糊を使っていました。昔は膠と呼ばれるゼラチン由来の糊を。現代では殆どの職人が、ゴム糊と呼ばれる合成糊を使います。

    日本には、糊をべた塗するとても高い技術があって、こんなに湿気の多い国で、曲げても、時間がたっても、浮いて来たり剥がれたりしな

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    椅子とかばんの話

    椅子とかばんの話

    「私はかばん屋で、祖父が椅子屋です。」

    そう言うと多くのひとが、「え、かばんて、あの、持つ?それで、いすって?あの、こう、座る?」と聞く。

    組み合わせが珍しいのか、すぐにイメージと結びつかないのだと思うけれど、どちらも道具で、どちらも人間の大きさに合わせて出来ていて、どちらも欧米から日本に輸入されて生活の中に溶け込んだものたち。

    祖父の工房に興味を持ってくださるひとも多いのだけれど、皆さん知

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    ミツロウと鞄

    ミツロウと鞄

    聞き鞄のカバンを縫うときに欠かせない、ミツロウのお話。

    東京に養蜂場がある、と言ったら、自然の多い、都心から遠く離れた場所、例えば八王子や青梅、奥多摩あたりを想像するひとも多いのではないだろうか。だけどあるのだ、世田谷区内に。

    手縫い作業の主役は、針と、糸と、ミツロウ。ミツロウは糸の滑りを良くし、擦り切れから守り、革の切り口を塞ぎ、工房をいい匂いに包んでくれる。先日のワークショップでは、床革(

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    エゾシカの肉をいただいた話4

    エゾシカの肉をいただいた話4

    とても美味しかった。

    エゾシカ肉のコンフィ、サラダ風

    柔らかく食べるため、米油、塩、胡椒に漬け込み、湯煎

    エゾシカ肉パイ

    赤ワインと野菜で煮込んだシカ肉とマッシュポテト

    エゾシカスープのドルマ

    イスタンブールの市場で見つけたドライ野菜の中に米を詰めシカのスープで煮込む

    エゾシカの骨付きリブ BBQ風

    前夜2時間以上煮込んで柔らかさを保ったお肉をグリル

    エゾシカステーキ

    コンフィ

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    エゾシカの肉をいただいた話3

    エゾシカの肉をいただいた話3

    シカ肉の調理法が特別である事も、よく解ってはいなかった。

    他の肉と比べて脂質が少なく、高たんぱく低カロリーのシカ肉。ヘルシーではあるけれど、食べるために育てられた肉とは、当然、性質も違う。野生のシカは一頭一頭の筋肉の発達も違う上、多くの部位が調理法によっては堅くなり易い。加熱も十分にしなくてはいけない。

    初めてシカ肉を食べるひとに「美味しい」と思ってもらいたい。最初の印象を大事にしたい。革も肉

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    エゾシカの肉をいただいた話2

    エゾシカの肉をいただいた話2

    シカ一頭分のお肉(可食部と言うらしい)がどの位になるか、私は知らなかった。

    7月後半、関東は気温が高く、はっきりとしない頭でカレーのレシピを検索。「カレーを持って遊びに行って良いですか?」とお友だちにメッセージを送った。

    肉と言っても、2、3キロはあるのかな、何人かで集まって食べよう。革は、なめすと、その動物が生きていたときよりもずっと小さくなる。だから、肉もずっと少ない量になるだろう。

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    エゾシカの肉をいただいた話1

    エゾシカの肉をいただいた話1

    「シカが獲れました」

    7月のある朝、旭川からのお知らせ。

    春にお願いしてからずっと待っていた、シカ革がやっと手に入る。私はすぐにスマホを開き、染め色等の確認連絡のためメッセージアプリを立ち上げる。

    「革は購入したいです。肉もお送りください。」その場で返信。

    自治体によって期間や規模は違うだろうけれど、旭川では3月末に狩猟期間が終わると、6月には有害鳥獣駆除の許可が出るらしい。以前から、次に

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    旅するかばん屋 エゾシカレザーについて

    旅するかばん屋 エゾシカレザーについて

    2014年初夏、エゾシカの革を使って鞄を作り始めてまだ日が浅い頃、北海道の旭川への旅

    2016年より、いまも旭川で害獣として駆除対象となっているエゾシカの革を鞄の素材として使用させていただくことが決まり、先日、農家であり、猟師でもある野良処てくてくの浅野さまが、聞き鞄の工房にも足を運んでくださった

    当時アメブロにて公開していた記事をまとめる

    エゾシカのエコバッグに使っているエゾシカの革

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