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糊を使わないで作るかばんの話

糊を使わないで作るかばん、そんなものはありません。

普通は、殆どあり得ない手法なんです。古い手縫いの技術を教えてもらったドイツでも、出会った鞄職人たちは全員、糊を使っていました。昔は膠と呼ばれるゼラチン由来の糊を。現代では殆どの職人が、ゴム糊と呼ばれる合成糊を使います。

日本には、糊をべた塗するとても高い技術があって、こんなに湿気の多い国で、曲げても、時間がたっても、浮いて来たり剥がれたりしない。

お財布の角なんかによく使われている、皺を寄せる技術もすごい。均等で、無理なく力が分散されて、平らな面を作って薄い革の角を守ります。

しなやか、ネコのように自由な形を手に入れた職人たちが、手放すはずのない便利で形の無い道具、糊。

ミシンで真っ直ぐ縫うのにだって、糊は重要です。上と下に重ねたパーツがずれずに、早く、きれいに縫えます。糸が切れた場合にも形を保つ等、丈夫さを担保しもします。

長くて真っ直ぐなギターストラップを縫うときには、糊で固定するかしないかが、作業時間の大きな違いをもたらします。

そもそも日本でかばん作りに広く使われている糊は、使い勝手もいいのです。パーツを傷つけずに貼れたり、貼ってから剥がせたり、時間が経てば縫う必要が無い位強固になったり。

でも聞き鞄では、かばんを縫うとき糊を使っていません。

もちろん、乾いてしまえば簡単に溶けだしたりはしない糊。便利で、仕事も早くなります。でも便利な道具って、それに頼ってしまいませんか?革を縫う仕事はとてもシンプルです。少し経験があれば、知識があれば、どうやって作ったかすぐにわかります。糊に頼った形って、分かるんです。

数年前に作ったかばんと、小物の一部には、でんぷん糊を使っているものもありますが、今作っているかばんではゼロ。仕上がりは少し歪になり、柔らかなかばんでは、材料が逃げたい方向へ逃げた跡を、見ていただくことが出来ます。

型紙やパーツを切り出す段階、むしろその前の、イラストスケッチの段階から、糊を使わずに立体にする方法を選んでいます。

聞き鞄のかばんは、針と糸で縫って、それで始めて形になります。恰好良く見せるためのステッチではなく、形を保つために必要なステッチ。糸が切れたら、ばらばらの平面に戻ります。

かばんの中に何が入っているか、それは持つ人を表すと、聞き鞄は考えます。そして、どうやって出来ているか、それはそのモノだけの個性にもなり得ると思うのです。せっかく手縫いなのだから、手縫いでしか出来ない作り方を見ていただけたら、嬉しい、楽しい。

糊を使わないかばん、匂いや、皮膚に触れる化学物質に敏感な方にもおすすめです。

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