マガジンのカバー画像

Beyond The Reading

134
本を読む先にあるものって、なんだろう。
運営しているクリエイター

#本

デス・ゾーン、を読んだ。

デス・ゾーン、を読んだ。

角幡唯介さんの「書くことの不純」でも栗城氏の一連の活動について相応の紙幅を充てられていた。誰かに見せる(栗城氏は共感と表現していた)ための行動は内面から湧き出るものではないから、あらゆる外圧に対して非常に脆く、壊れてしまう。実際に栗城氏は壊れて(亡くなって)しまった。

神々の山嶺で羽生丈二は言った。「それは、ここに俺がいるからだ」と。何かをやり遂げるにあたり、これ以上に強くブレない理由はないだろ

もっとみる
高熱隧道、を読んだ。

高熱隧道、を読んだ。

黒部第三発電所は昭和11年8月に着工し15年11月に完工。嶮岨な峡谷は岩盤の最高温度がなんと165度という高熱地帯に隧道(トンネル)を掘鑿するという前代未聞の難工事で、延べの犠牲者は300人を超えた。工事が難航するだけではなく、黒部という特殊な地理的条件も相俟って発生する予測不可能な大自然の猛威。様々な困難と対峙し極限状態で闘う男たちの記録文学。

先日の現場撮影を終えて急に読みたくなり再読3回目

もっとみる
思考の整理学、を読んだ。

思考の整理学、を読んだ。

40年にわたり我々の知の開発の一助となり続けた名作。

アウトプットする、まずは手を動かし書き出してみる、あえて忘却する、アイデアを一晩寝かす、読書の方法などなど...嬉しいことに自分自身の行動や考え方を肯定してくれるような話題が多く、なぜか一安心。東大京大で多く読まれたという喧伝コピーが今回だけは微笑ましく思えた(権威主義ではないので念のため申し添えます)。

ハイライトは第一次現実と第二次現実

もっとみる
ヘッドハンター、を読んだ。

ヘッドハンター、を読んだ。

巻末解説を我らの角幡唯介さんが担当。雪男探しの際にザックに持ち込んだ文庫本が、このヘッドハンターだったそう。空白の五マイルで停滞時に読んだ月と六ペンスと同じく、角幡作品に登場する作品はもれなく読むようにしている。

元傭兵の男が、世界の荒野や山岳地帯でハードなハンティングに勤しむ姿がひたすら続くのだが、特筆すべきは異常ともいえる精緻な状況描写である。ハンティングに用いる武器や装備類の材質やサイズな

もっとみる
偶然完全勝新太郎伝、を読んだ。

偶然完全勝新太郎伝、を読んだ。

素晴らしかった。本当に素晴らしかった。

先日、著者の田崎さんが手がけられた、真説・長州力を拝読。おおいに感動し、立て続けに田崎ワールドに触れる。

***

勝新太郎と聞いて何を思い出すだろうか。もうパンツは履かないという、あの記者会見。それとも中村珠緒の夫、というイメージがあるのかもしれない。ご多聞にもれず、自分も同じ印象を抱いていた。

過去に一度だけ、勝新ルポを読んだことがある。

ただ、

もっとみる
真説・長州力、を読んだ。

真説・長州力、を読んだ。

\長州力ここにあり/

長州力というプロレスラーを知ったのは、芸人の長州小力のモノマネを見た時。それから神奈月のモノマネで妙に滑舌が悪い人という印象を植え付けられ、興味を強くもつ決定的な契機は、武藤敬司とのオンライン飲み会のyouyube動画。

絶妙な間合いとユーモラスな話術と、二人の歴史をそれとなく示唆する業界の裏話。長州力というキャラクターと、プロレスがどのような世界であるのか、深く知りたい

もっとみる
歌舞伎町アンダーグラウンド、を読んだ。

歌舞伎町アンダーグラウンド、を読んだ。

45年の人生で最も縁遠い街のひとつ、それが新宿。

幼少期はもちろん、学生時代も通過駅のひとつでしかなく、遊んだり飲食したりする機会はほぼゼロ。ただメディアを通じた怖い街というイメージしか持ち合わせていなかった。

怖い街というイメージは間違いのないものだが、その中身を知るか知らぬかで、新宿そして歌舞伎町の息遣いは容易に語れない。これからの人生においても変わらず縁遠い街であり続ける可能性が高い。た

もっとみる
VALE TUDO を読んだ。

VALE TUDO を読んだ。

VALE TUDOは、生き方だった。

先日読んだドキュメンタリー撮影問答の対談者のなかで「ブラジリアン柔術黒帯の肉体派写真家」という見出しのもとに、明らかに他の対談者とは異なるオーラを放つ丸刈りのイカツイ男性。それが著者の井賀さんだった。

ブラジリアン柔術黒帯で写真家...?武道や格闘技に強く興味を持つ自分、慌てて本書を購入。貪るように読み進めた。文章はもちろん、挿入されているブラジルのお写真

もっとみる
ドキュメンタリー撮影問答、を読んだ

ドキュメンタリー撮影問答、を読んだ

ドキュメンタリの構造や概念を言語化。

ひょんなことから得意先様のインナーブランディング施策として、社員さんへのインタビュー映像のご相談をいただき、情報収集もかねて色々と調べていくなかで幸運にも巡り会えた1冊。

自分と映像の最初の出合いは、小学校低学年の頃。地元横浜の神奈川テレヴィで深夜に放送されていたMTVを父親が録画してくれていて、小学校から帰ると家で録りだめてあったMVをひたすら観ていた。

もっとみる
HSPブームの功罪を問う、を読んだ

HSPブームの功罪を問う、を読んだ

ラベリングの功罪ここにあり

大昔、空の上で突如ゴロゴロと鳴り響く轟音に人々は大いに恐怖した。誰かが「これは龍の怒声である」と言い出し、雷が鳴ると「龍が怒っている」と人々はじっと身を潜めたという。

人は、得体の知れない名の知れないものに最も不安を抱き恐怖する。ネーミングやラベリングは現代にはじまったことではなく、安心したいと願う生存本能の発露なのかもしれない。

大切なのは、ときには深く考えるこ

もっとみる
テストパイロット、を読んだ。

テストパイロット、を読んだ。

トップガン・マーヴェリックの片鱗がここに!

アメリカ海軍で正式採用される前の戦闘機をテスト飛行するパイロット。民間企業でのテストは済ませてあるものの、より実戦に近い過酷な環境下や操作にも耐えうるか...身を挺して検証する死と隣り合わせの非常に危険な職業。

戦場でもデジタルテクノロジーの導入が著しく、あらゆる機械の操作が自動化されている。そのいっぽうで飛行機乗りたちは、握った操縦桿から微かに伝わ

もっとみる
水たまりで息をする、を読んだ。

水たまりで息をする、を読んだ。

久々に小説を読んだ。

instagramで知人が読んだという投稿を見て衝動買い。突然お風呂に入らなくなった夫に、戸惑いつつも受け入れようとする妻。変化してゆく二人の日常を綴ったもの。もちろん結末はネタバレになるので言及しない。

夫婦とは愛し合う関係ではあるものの、所詮は血のつながっていない他人。どちらかの肉体や精神に異常をきたしたとき、どうなるのか。離婚という選択肢もあるし、添い遂げることもで

もっとみる
日本の路地を旅する、を読んだ。

日本の路地を旅する、を読んだ。

路地とは被差別部落のことである。

差別とはなにかを考えてみる。自分の身の回り、日常生活を見渡してみると、あらゆる事由から誰かが誰かを差別的に扱っていることに気づく。総じて言えることは、そこには相手を貶めることで自分の地位が上がった「ような気がしている」という盲信や幻想があり、中毒性さえ見え隠れする。

自らの心の古傷を剥がすかのように、日本各地の路地を訪れる筆者。文化人類学的なフィールドワークの

もっとみる
テキヤの掟、を読んだ。

テキヤの掟、を読んだ。

夏祭り、神社の境内、金魚すくい。

お祭りの風物詩の露店。あの店に立つ人たちをテキヤという。ほとんどの人が誤解をしており恥ずかしくも自分のその部類だったが、テキヤとヤクザはイコールではない。たしかに反社勢力に属する一部のテキヤもいるようだが、そもそも祀る神様が違うということが、説明不要な決定的理由だろう。

古き良き日本の互助精神がそこにあった。テキヤと聞いて思い出すのは、フーテンの寅さんだろう。

もっとみる