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東原そら
2021年11月12日 18:09
ポタリ、ぽたりと滴が落ちる。 落ちるたび滴が跳ねる。 それはまるで、子供がはしゃいでいるようだ。 くすっ、はしゃいでいるのは私か。 ドリップされる珈琲を眺めて、私はうきうきしている。 珈琲の雨にうたれたいと、一度彼に話した。 火傷しそうだなと笑った彼と、私は今日、式を挙げる。
2021年11月10日 17:13
結婚後、初の失態を犯した。 威厳ある夫であるための奮闘が、全て水泡に帰した。 処分したはずの、昔の恋人との写真が発見された。 とても、その構図は人様には言えないものだ。 妻がわなわなと震えている。「あははははは!」 怪我とはいえ、女性にお姫様抱っこされた一枚。 男の威厳が…
2021年7月26日 19:34
結婚25年、妻の思いがわかりませぬ。 長く連れ添うと、阿吽の呼吸と言いますか、お互いの心がわかるらしいのです。 どうやら、私にはその力が欠如しているようです。 今日の妻は冷麺の気分だったそうです。 私は鍋を作りました。 今日も罵声を浴びました。 嗚呼、理想の夫婦とはなんぞや。
2021年4月14日 19:43
三十になった。 1Kの部屋で、一人ミルフィーユを頬張る。 パイとクリームが幾層も積んでいる。 重なる様は、まるで人生のよう。 でも私は人生の甘味を知らない。 恋が未経験だ。 まわりはどんどんと結婚する。 けれど、焦る感情はない。 なるようになるさと、私は今日も気楽に一日を終える。
2021年4月11日 20:43
瞼が動かない。 僕の目は一瞬で固まった。 透き通ったように輝く金色の髪。 純白の真白い皮膚。 澄んだ海のような碧い瞳。 つり革で揺れる僕は、正面の女性に恋をした。 結婚してください。 僕は囁くように想いを告げた。 彼女はにこりと答えた。「あなたのランドセルが取れたら考えるわ」
2021年4月7日 20:27
「元気にしてますか?」 スマホにメッセージが浮いた。 部活の後輩。何年ぶりだろう。 俺は彼女の記憶を手繰った。 あの頃は無謀にも、彼女に惹かれていた。 でも自信がなかった俺は、無言で卒業した。「元気だよ」 気軽な思いで返信した。 これが、彼女の薬指が煌めいた、きっかけだった。
2021年4月6日 18:26
私は後輩で、あの人は先輩だった。 決して頼りになる人じゃない。 でも、なぜか気になる人だった。 気持ちは伝えず、学園生活を終えた。 社会に出たら時折、どうしているだろうと思い起こす。 LINEの友だちをスクロールする。「元気にしてますか?」 私は勇気を込めて、矢印に指を落とす。
2021年3月20日 20:39
鋭いジャブが来た。 俺は蝶のようにかわす。 この試合は敗けられない。 俺には誓いがある。 隙あり!カウンターだ。 王者がリングに倒れた。 勝った。 俺はリンクサイドの彼女に叫ぶ。「結婚しよう!」「いや。ボクサー収入安定してないし」 俺もリングに伏す。 ダブルノックダウンだ。
2021年2月7日 19:35
食器が割れる音がした。 見ると、初めて両親がケンカしていた。 理由を訊くと、二人を運命と言った占い師が詐欺で逮捕されたらしい。「私達は運命じゃなかったのよ」 母が顔を覆って泣いている。「結婚したなら運命じゃないの?」 私がそう言うと、両親は納得して抱擁した。 アホな親だ。
2021年1月1日 14:51
揺れるバスの中、俺は眠る女性に肩を貸している。 余程眠りが深いのか、肩を揺らす程度では目を開けない。 次の停留所で降りないと行けない俺は女性の頭をトントンと叩く。 バスの停車と同時に目を覚まし、女性は俺と降りてしまった。 そして二人は結婚を…… という恥ずい夢で目が覚めた。
2020年11月18日 17:58
「今日は月がきれいですね」と晶子の同僚教師である前田が呟いた。 晶子は平静を装うが心拍は通常より力がある。 単純に風景を愛でたのか、「今なら手が届きますよ」と返すか逡巡する。 晶子は意を決し後者を選ぶ。 「じゃあ翳してみましょう」 言われて翳す晶子の薬指にすっと小さな月が煌く。あとがきハロウィンの夜空に輝くブルームーンを見て頭に浮かんだ作品です。色々と手順を省略して