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出戻り小学生

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根っからの学校嫌いが大人になって、まさかの学校で働くことに…。 現場における謎と不思議、笑いと感動に溢れた日々の記録。 今でも、戻れるのなら戻りたい…。
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#仕事

学校図書館司書という仕事

 初めて赴任した時、何に何処から手を付けて良いのかわからなかった。何せ初めての職業。一人職なので指南してくれる人がいない。勤務開始前に引継ぎと称して二度呼び出しを受け、一校では校長から数時間に渡って図書に関する要望を延々と聞かされ、もう一校では授業の流れと機械の基本操作について実地演習を受けた。図書に関する熱意の凄まじい校長に脅威を覚え、始まる前から不安になった一方、授業に参加した2年生のクラスは

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ある暑い夏の日

 図書室で一人、仕事をしていると、廊下から色んな声が聞こえてくる。
 先生同士の会話、子ども同士の会話、時に何故か歌声。そしてたまには絶叫も…。
 知らない大人の話し声。誰かが出張してきたのだろう。自分に関係のない予定まで把握していないので、今日はSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)の日なのだな…と思う。一人、すごく声の通る先生がいるのだ。
 声は聴いたことがあるけれど、姿は見たことがない。

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将来何になりたいか?

 子どもに訊かれる。
「先生の夢ってなに?」
 はて、夢とな。首を傾げる。
 私を大人と思っての発言か…?と思う言葉をしょっちゅう投げ掛けられるが、夢を訊ねられたのは初めて。詳しく意図を訊いてみると、将来何になりたいか?という話らしい。
 尚のこと、『私を大人と思っての発言か?』と思う。
 学校司書は…というか、私は、どうやらあまり、小学生に〝大人〟だと認識されていないようだと度々感じる。距離が近

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学童を辞めた理由 ②

 書庫の片付けは蓄積されたゴミと埃との戦いでもあった。イベントで使ったのであろう製作物が、修理もされないままぼろぼろの状態であちこちに積み重なっている。いつか何かに使えるかも…と、捨てずにとっておいて行方さえ分からなくなったのであろう数々の空き箱や本の帯、装備本に挟まれてあったのであろうブックカバーの切れ端や広告類。見失えば何の意味もないのに、片付かない部屋がこういった物の積み重ねから生まれること

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それぞれの春 ➃

 気付いたことがあったからといって、全ての状況を一夜のうちに変えてしまえることは少ない。辞め時を測り損ねて、取り敢えず出勤しなければいけない日々を、ある日を境に百八十度変換させるのは現実的に容易ではないとわかっている。行動力の問題なのかも知れないが、時期尚早で〝後悔先に立たず〟となっては、元も子もないからだ。
 ある程度わかっているのに先に進めないでいると、一通のメールが届いた。学校図書館の広報活

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それぞれの春 ③

 Kさんが市立図書館で勤務していることを知っている司書が他にもいたかも知れなかったが、誰も何も言わなかった。知らないと考えるほうが妥当だとも思った。新年度は始まったばかりで、相互貸出を要する機会はまだ先であるようにも思える。また、勤務時間が削減されたことで、司書自ら赴いて資料を選定する時間が、どの学校でも確保出来ないのが普通になっていた。私が気軽に来られたのは、市立図書館から一番近い場所に学校があ

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それぞれの春 ①

 春が苦手だ。昔から。出会いと別れの季節…というが、先ず、そのどちらも苦手。学生時代はクラス替えなどで前後左右の景色が変わるのもストレスだった。
 進学を繰り返す度、ひたすら挫折を経験したのも原因ではある。
 就職氷河期真っ只中に社会へ出てからも、長らく毎年更新の有期雇用者だったため、翌年仕事があるのか、路頭に迷うのか、何ヶ月も前から不安で倒れそうだった。
 希望を胸いっぱいに抱いて羽ばたこうと将

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任期満了まであと一年 ③

 次年度の任用について意向調査があったのは秋も盛りのことだった。
【任用を希望しても、同じ勤務形態で雇用されるとは限りません】というような一文が添えられていた気がして、ずっと違和感があった。【希望する】に〇をして提出したが、記入するとき、心の中では『同じ勤務形態でなければ希望しません』と思っていた。○を付ける場所が二択だけで、他に意見を記入する欄などは設けられていなかったため、氏名と○以外には何も

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任期満了まであと一年 ②

 緑色の封筒から出てきた書面に書かれていたのは、4月以降の勤務時間変更についての通達であった。現行より45分間短縮され、月額報酬が2.3万円減額になると書かれてある。パニックになった。
 天職からの転職を経て4年弱、次の年度で契約満了となる。再来年度は現在の嘱託職員から、会計年度任用職員という新職種になることは既に通達があった。これが結構曲者で、フルタイムの職種であれば正規職員同様、昇給・賞与や退

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集団行動①

 以前働いていた職場で、こんなことがあった。
「誰か、これ運ぶの手伝ってー!」
 彼女の手元に置かれているのは、小学校の教室にあるような、一人用の勉強机。十人にも満たない小さな事務所に居た数人が、一斉に立ち上がる。結局、一人用の勉強机を4、5人でわいわい言いながら運んで行った。
 彼女達が立ち上がった時、私は声のする方を見はしたが、立ち上がらなかった。
「手伝ってー!」が異様だと感じたのは、『そん

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ハードル part2

 学校司書として働く。前回そう書いたが、もう既に辞めることを考えている。まだ働いてもいないのに…。
 今日、配属先の二校中、昨日とは別のもう一校へ引継ぎに行った。
〝授業〟というものに参加し、実際に仕事として行う作業の、一部を手伝う。週五日の内、三日間を通うその学校は規模が大きい。三日間、一時限目から六時限目まで、担当の時間割がびっしり入っていた。
 仕事はそれだけではない。事務的な仕事や整理業務

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ハードル

 前向き過ぎる無職生活が終わる。仕事が決まったのだ。
 一年毎の更新で、最長五年の任用期間を設けられた仕事。学校の図書館司書…図書室の先生というやつである。
 引継ぎというものに行って打ちのめされた。ハードルが高過ぎる。
 仕事はしながら覚えて行く…仕事とは私の中でそういうものだったが、想像以上の激務が待ち構えている様子だ。引継ぎに行ったが、勤務にあたって必要な持ち物など、最低限知りたいことが何

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