生ヵ縫 凜

岡山県に住まう素人の物書き.無料・有料、記事内容は同じです(あとからサポート機能を知り…

生ヵ縫 凜

岡山県に住まう素人の物書き.無料・有料、記事内容は同じです(あとからサポート機能を知りました).   ♪***♪**♪  ひとが好き.いのちが好き. 世界が好き.

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生カ縫 凜 (いかぬい りん)

岡山県出身. 創作活動が趣味. 実力はないです. ただ、書いたり描いたり、表現するのが好きなんよねぇ……. ひとが好きで、いのちが好きで、世界が好き. 性善説をもとに…

生ヵ縫 凜
1か月前
3

小豆色の寂寥(1)

小豆色の寂寥  大学受験までもう数ヶ月を切っていて、しかも成績が全然上がらなくて内心すごく落ち込んでいるところ、遺品の片付けに行きたいなんてどうして思えるだろう…

生ヵ縫 凜
14時間前
1

小豆色の寂寥(2)

 コウという名前の女性が主人公だ。  物語は、彼女が望まれない生を受けたところから始まる。  コウの親は、くにに出生を届ける気はなく、かといってコウを手にかける…

生ヵ縫 凜
14時間前
1

小豆色の寂寥(3)

 突然遭遇した怪奇現象。それでも本を取り落とすことはなかった。目を疑ったが、怖くはなかった。 「今の言葉、全部、私に?」 「そうよ」  絵の女性の口が動いたこと…

生ヵ縫 凜
14時間前

小豆色の寂寥(4)

「この頁の挿絵のあなたに、さわってもいいですか?」  返事も聞かず、本の頁に指をそわせる。紙面のコウさんの身体に、私は体温がしっかり行き届いた人差し指でふれ…

生ヵ縫 凜
14時間前

小豆色の寂寥(5)

 老人は、とコウさんが口にする。 「樫老人は、ひとりきりで死んで、さびしくなかったんだろうか」  小豆色の部屋の天井を見つめ、コウさんはふと言った。 「ふしぎだ…

生ヵ縫 凜
14時間前
1

小豆色の寂寥(6)

「最後にもうひとつ教えてほしいのだけれど」と、一度言葉を切って、「現在進行中の、きみの悩みは?」  意表を突かれる。 「それは……」  はっとする。コウさんの瞳…

生ヵ縫 凜
14時間前

あなたのために言わない

 スアーは、心のどこかで気付いていた。  ただ一人愛した彼、ルインとはもう会えないのだと。  前世の記憶を持って、この世に生まれてくる可能性など、決して高くはない…

生ヵ縫 凜
1か月前

滴る雫

 冷えた地酒の瓶の蓋をぷしゅっと開けたとき、久世由真は、胸の中に蓄積していた今日一日分の鬱屈がほんの少しだけ外に出ていった気がした。八月末の夜風が部屋に吹きこむ…

生ヵ縫 凜
1か月前
1

バニラアイスが溶けるころ

 お願いです、と声をかけられたのは、偶然だったのだろうか。立ち止まると、紺色のセーラー服の女の子と目が合った。 「お願いします」  その子は真剣な目で言った。 「…

生ヵ縫 凜
1か月前
5

バニラアイスが溶けるころ(同一文章・有料設定)

 お願いです、と声をかけられたのは、偶然だったのだろうか。立ち止まると、紺色のセーラー服の女の子と目が合った。 「お願いします」  その子は真剣な目で言った。 「…

150
生ヵ縫 凜
1か月前
2

描く人(同一文章・有料設定)

 後藤友美は聞いた。  はっとして、踏み出そうとしていた足を止めた。瞬間、腹に響くごおっという振動と、枕木を超えていくがたんがたんという音とともに貨物列車が友美…

150
生ヵ縫 凜
1か月前
2

満月

 電車がゆっくり減速して止まりました。車掌さんが駅名を告げると同時にドアが開いて生ぬるい空気が車内に入ってきます。  妹尾りえは、リュックサックを背負い直して、…

生ヵ縫 凜
1か月前
1

描く人

 後藤友美は聞いた。  はっとして、踏み出そうとしていた足を止めた。瞬間、腹に響くごおっという振動と、枕木を超えていくがたんがたんという音とともに貨物列車が友美…

生ヵ縫 凜
1か月前
3
生カ縫 凜 (いかぬい りん)

生カ縫 凜 (いかぬい りん)

岡山県出身.
創作活動が趣味.

実力はないです.
ただ、書いたり描いたり、表現するのが好きなんよねぇ…….
ひとが好きで、いのちが好きで、世界が好き.
性善説をもとに考えよるよ.

記事・文章を見てくださって、ありがとうございます.
とてもうれしいです.

追記
サポートっていう機能があるんですね.
無理に有料記事を作らなくてもよかった、ということですね;;
……ということで、わたしのnoteで

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小豆色の寂寥(1)

小豆色の寂寥(1)

小豆色の寂寥

 大学受験までもう数ヶ月を切っていて、しかも成績が全然上がらなくて内心すごく落ち込んでいるところ、遺品の片付けに行きたいなんてどうして思えるだろう。それも、お父さんのお兄さんのお嫁さんのお父さんの叔父さんという、縁の遠い、普段全く関わりがなかったひとの。

「亜芽、ここじゃわ。さ、降りて」

 お父さんが車を停めて、私に促した。

 ふきんしんだ、と言われても、気が進まないものはし

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小豆色の寂寥(2)

小豆色の寂寥(2)

 コウという名前の女性が主人公だ。

 物語は、彼女が望まれない生を受けたところから始まる。
 コウの親は、くにに出生を届ける気はなく、かといってコウを手にかけるでもなく、死なない程度に栄養を与えていた。ある豊作の年、鳥の神さまが人間界の視察に来た。鳥の神さまは様様な境遇の人間を哀れむ。綱渡りのような生活をしていたコウにも涙を寄せ、真っ白な翼をふるって人間の行動にほんの少し介入し、コウは、くにの保

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小豆色の寂寥(3)

小豆色の寂寥(3)

 突然遭遇した怪奇現象。それでも本を取り落とすことはなかった。目を疑ったが、怖くはなかった。

「今の言葉、全部、私に?」

「そうよ」
 絵の女性の口が動いたことで声の主を確信する。

「私は創作物。平面。非現実。なのに、動いたり話しかけたりされても、えらく落ち着いているのね」

「いえ、落ち着いてはいないんですが」

「全然そう見えないわ」

「そう見えんでも、混乱しとるんです。これって、本当

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小豆色の寂寥(4)

小豆色の寂寥(4)



「この頁の挿絵のあなたに、さわってもいいですか?」

 返事も聞かず、本の頁に指をそわせる。紙面のコウさんの身体に、私は体温がしっかり行き届いた人差し指でふれた。

「私の手がコウさんの身体にさわっとるの、わかりますか」

 ゆっくりと指を動かした。そのままコウさんの背中の線に沿って、紙に指をすべらせる。

 くっ、と笑う声がした。

「くすぐられているようだが、ぬるま湯が身体をつたっていく

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小豆色の寂寥(5)

小豆色の寂寥(5)

 老人は、とコウさんが口にする。

「樫老人は、ひとりきりで死んで、さびしくなかったんだろうか」

 小豆色の部屋の天井を見つめ、コウさんはふと言った。

「ふしぎだわね。こんなこと、本当は私を創り出した者が書かない限り、感じ得ない考えだというのに」

 コウさんの表情の変化に気付くとともに、私も、樫のおじいさんの死に、気持ちが及んだ。

 樫のおじいさんに友人や知り合いはいたのか。いたとしたら連

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小豆色の寂寥(6)

小豆色の寂寥(6)

「最後にもうひとつ教えてほしいのだけれど」と、一度言葉を切って、「現在進行中の、きみの悩みは?」

 意表を突かれる。

「それは……」

 はっとする。コウさんの瞳の中にやさしさを見た。

「本を閉じられている間はなにも見えないわ。でも、さっきちらりと言ったが、音も空気も聞こえるの。きみの鞄の中で運ばれている間、聞こえていたのは、淀んだ沼に下水がぽたぽた落ちるような重苦しい音だった」

 無意識

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あなたのために言わない

あなたのために言わない

 スアーは、心のどこかで気付いていた。
 ただ一人愛した彼、ルインとはもう会えないのだと。
 前世の記憶を持って、この世に生まれてくる可能性など、決して高くはないのだから。
 それでも、待たずにはいられなかった。今日は来るかもしれない。今日は。
 そう思って、過ごしてきた。
 けれど、彼は来なかった。月日が過ぎ、それでいいと思うようになった。
 生まれ変わりを経て、今、彼が幸せでいるとしたら。
 

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滴る雫

滴る雫

 冷えた地酒の瓶の蓋をぷしゅっと開けたとき、久世由真は、胸の中に蓄積していた今日一日分の鬱屈がほんの少しだけ外に出ていった気がした。八月末の夜風が部屋に吹きこむ。
 今日また、上司のミスだのに、由真が取引先に頭を下げた。アストロ製薬に勤めて三年。新入社員が入らないため、未だに由真は下っ端のままだ。
 しかも、彼女の浮気も発覚した。昼休憩にスマートフォンに届いていたメールを確認していて、彼女からのメ

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バニラアイスが溶けるころ

バニラアイスが溶けるころ

 お願いです、と声をかけられたのは、偶然だったのだろうか。立ち止まると、紺色のセーラー服の女の子と目が合った。
「お願いします」
 その子は真剣な目で言った。
「私と一緒に死んでください」
 俺は耳を疑った。言葉をなくして、突っ立った。
 夜八時の飲屋街。クラブやバーが建ち並ぶこの通りを、俺はただ歩いていただけだった。どこかで、もう一杯飲もうと思っていただけだった。店やラブホテルに誘われることくら

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バニラアイスが溶けるころ(同一文章・有料設定)

バニラアイスが溶けるころ(同一文章・有料設定)

 お願いです、と声をかけられたのは、偶然だったのだろうか。立ち止まると、紺色のセーラー服の女の子と目が合った。
「お願いします」
 その子は真剣な目で言った。
「私と一緒に死んでください」
 俺は耳を疑った。言葉をなくして、突っ立った。
 夜八時の飲屋街。クラブやバーが建ち並ぶこの通りを、俺はただ歩いていただけだった。どこかで、もう一杯飲もうと思っていただけだった。店やラブホテルに誘われることくら

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描く人(同一文章・有料設定)

描く人(同一文章・有料設定)

 後藤友美は聞いた。
 はっとして、踏み出そうとしていた足を止めた。瞬間、腹に響くごおっという振動と、枕木を超えていくがたんがたんという音とともに貨物列車が友美の前を通って行った。踏切の遮断機がのろのろと上がる。
 弱い秋風が、線路沿いに生える芒をふらりと揺らす。
 友美は我に帰った。逃げるように歩き出した。明らかにサイズの合わない赤いパンプスに爪先が締め付けられて痛い。
 どうして、私は娘の靴な

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満月

満月

 電車がゆっくり減速して止まりました。車掌さんが駅名を告げると同時にドアが開いて生ぬるい空気が車内に入ってきます。
 妹尾りえは、リュックサックを背負い直して、ホームに降りました。
一年ぶりの地元です。今年はお正月もゴールデンウィークも帰省できなかったので、ちょっと遅めの夏休みを利用して、実家に帰ってきました。たった一年とはいえ、帰省するたび、つよいなつかしさでいっぱいになります。
駅のそばに立つ

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描く人

描く人

 後藤友美は聞いた。
 はっとして、踏み出そうとしていた足を止めた。瞬間、腹に響くごおっという振動と、枕木を超えていくがたんがたんという音とともに貨物列車が友美の前を通って行った。踏切の遮断機がのろのろと上がる。
 弱い秋風が、線路沿いに生える芒をふらりと揺らす。
 友美は我に帰った。逃げるように歩き出した。明らかにサイズの合わない赤いパンプスに爪先が締め付けられて痛い。
 どうして、私は娘の靴な

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