生ヵ縫 凜

岡山県に住まう素人の物書き.無料・有料、記事内容は同じです(あとからサポート機能を知り…

生ヵ縫 凜

岡山県に住まう素人の物書き.無料・有料、記事内容は同じです(あとからサポート機能を知りました).   ♪***♪**♪  ひとが好き.いのちが好き. 世界が好き.

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生カ縫 凜 (いかぬい りん)

岡山県出身. 創作活動が趣味. 実力はないです. ただ、書いたり描いたり、表現するのが好きなんよねぇ……. ひとが好きで、いのちが好きで、世界が好き. 性善説をもとに考えよるよ. 記事・文章を見てくださって、ありがとうございます. とてもうれしいです. 追記 サポートっていう機能があるんですね. 無理に有料記事を作らなくてもよかった、ということですね;; ……ということで、わたしのnoteで有料記事が混在しているのは、無知故です. ややこしいことしてすみません.

    • 求められた存在

       六代続いたラーメン屋の看板を下ろすことになった。主人は無念でならなかった。しかし不況に勝つことはできず、融資をしてもらうことも叶わず、泣く泣く店を畳んだのだった。閉店を嘆く客は多かったものの、誰にもどうすることもできなかった。閉店を知ると、いろんな客がラーメンを食べに訪れた。男も女も子どももお年寄りも、ほかにも本当にいろんな客が主人に別れの挨拶をかけた。  店を閉め、椅子やコップなど、もう使わないであろうものたちを、主人はひとりで淡淡と片付けていく。使い古されてきたコップ一

      ¥120
      • 中和(1)

         葬送曲だ、と広史はぼんやりと思いながら、理科室に足を踏み入れた。  日曜日の徳利高校内、吹奏楽部の演奏が聞こえる。卒業式が近い。桜がテーマの楽曲といった三年生を送るための演奏曲を練習しているのだ。今聞こえているのは「蛍の光」。別れの曲にふさわしい。  広史はガラスカッターを取り出し、淡淡とした気持ちと手つきでガラスに傷をつけていった。理科準備室の棚の鍵は壊せなかったが、理科室の横の棚にあるガラスを割ることならできると踏んでいた。そのガラスの向こうには、塩酸がある。手に入れた

        • 中和(2)

          「ガラスがどうやったら切れるのか、ガラスはなにで割ることができるのか。殴るみたいに故意に破損させるのではなく、しずかに、たとえばレーザーカットみたいに割っていくならどんな音を立てて割れるのか。どのくらいの時間で、どのくらいの面積を」 「ちょっと、ちょっと待ってください」  うっとりして、たたみかける留惟に、広史は口をはさむ。  留惟は意に介さず、 「ガラスっていっても強度にはいろいろあるし、日立くんが知りたかったのは、この高校の、特にこの理科室の、このガラスの強度やもろもろの

        • 固定された記事

        生カ縫 凜 (いかぬい りん)

          中和(3)

           気付けば、吹奏楽部の演奏が途切れていた。グラウンドで活動している運動部のホイッスルや足音などが聞こえる。なんとはなしに静かな空間に、広史の声は大きく響いた。 「正しさについて語るなら、正義がどうのとか言うなら、先輩だってぼくと同じじゃないですか! なにが正しいかなんて言えないっていうのなら!」  怒りをむき出しにしていく広史に、留惟は妖艶に微笑んだ。 「飲んで苦しんでから死ぬような塩酸ちゃんを使うよりも、ここの薬品を使って死ぬもっとすてきな方法があったらどうするの?」 「え

          中和(4)

            「後輩、わたしが黙って見ているとでも?」  袖をまくる彼とは相反して、留惟には少しの緊迫感もなかった。 「わたしには、他人の生き死になんて関係ないけれど」  広史は、かみそりを引こうとしたと同時に突き飛ばされた。 「あっ」 「口を出さずにはいられないよ」  低く静かな口調には威厳と、威圧感があった。  敗北の二文字が広史の思考に浮かぶ。 「なんで」 「とことん話し尽くして、立ち会っているひとを納得できるなら止めなかったと思うけどね。後輩の今の言い分だけしか聞いていない今

          花言葉(1)

           ざわり、ゆらり、花の夢。  人に育てられた花が、月の細い夜に見た、人の世界の夢。    レスワナは絵描きです。いいえ、まだ修行中の、絵描きになりたい青年でありました。  レスワナには、大切なひとがいます。ナージという女のひとです。波打つ若草色の髪と緑色の瞳の持ち主で、明るいひとです。  ふたりは恋人でした。  春のある日、レスワナはナージに言いました。 「ぼくの絵のモデルになってくれないか」  はにかみつつナージは頷きました。  窓際に座ってもらい、レスワナは、真っ白なキ

          花言葉(2)

             雷を伴う強い雨が降る週末のことです。  どうしても外せない用事で役場に出かけなければいけなかったナージが、夕方になっても帰ってきません。一時間ほどで戻るわと言っていたのに。  雨の勢いは増すばかり。雷鳴もやむことがありません。どこかに落ちたかのようなものすごい音も、二回ほどありました。  レスワナは、買い物をして遅くなっているのかもしれないと、窓の外を眺めながら考えましたが、時計の針がいくら進んでも、ナージは帰ってきません。表に出てうろうろと、道の先にナージを見つけよう

          花言葉(3)

           雲の多い空模様の日、アトリエに入ったレスワナは、呆然としました。ナージの肖像画がないのです。アトリエのどこにも。 「いったいどうして……」  呟いたとき、背後から声がしました。 「ごめんなさい」  アリリナが立っていました。 「どうしたの、アリリナ?」 「わたしなの」 「え?」 「わたし、ナージちゃんの絵を売ったの」  レスワナは青ざめます。 「なぜ、きみが絵のことを」 「見ちゃったの。あなたが、ナージちゃんの絵を見て、泣いていたところ」 「……」 「分かっているわ、あなた

          しのちゃんとなみださん(1)

           しのはね、もう少しでお姉ちゃんになるの。あと何回お日さまが出たら、お姉ちゃんになるのかは分からないけどね、ママとパパが、もう少ししたら弟が生まれてくるよって言うの。お名前はもう決まっていてね、もとあきくんっていうの。みんなで、もっくんって呼んでいるの。  もっくんが生まれたらね、しのはたくさんいっしょに遊ぶんだ。だっこもするし、ミルクもあげるよ。しのが幼稚園でミミ先生に言ったら、ミミ先生は、「すごいね」って頭をなでてくれたんだ。  ミミ先生は「じっしゅうちゅう」の先生でね、

          しのちゃんとなみださん(1)

          しのちゃんとなみださん(2)

           日曜日、ママが病院からテレビ電話をかけてきてくれたよ。 「しのちゃん、朝ごはんいっぱい食べた?」  ママにきかれて、「パンとたまごサラダを食べたよ。たくさん食べたよ」って答えた。ママはうれしそうに、うんうんって言ったあとで、 「実はね、もっくんは、ぐあいがあんまりよくなくてね、ママより長く病院にいることになったの」 「もっくん、どうしたの?」 「生まれてくるときに、いっぱい力を使ったから、もう少し病院でおやすみしたほうがいいねって、お医者さんに言われたのよ」 「ママはいつ帰

          しのちゃんとなみださん(2)

          しのちゃんとなみださん(3)

           お絵かきの時間に、おいもほりのときの絵をかきましょう、って言われたの。でも、しのはおいもほりのこと、あんまり思い出せなかった。かなちゃんも、みのるくんも、たくさんのおいもの絵をどんどんかいていくのにね。なんで、しのはかけないのかなあ。のどが、ぎゅーって痛くなる。  ミミ先生の声がした。 「しのちゃん、お絵かききらいになった?」  しのが、そんなことないよって言ったら「そっかそっか」って、しのの頭をぽんぽんしてくれた。それから片手で作ったきつねさんで、しののほっぺをつんつんし

          しのちゃんとなみださん(3)

          小豆色の寂寥(1)

          小豆色の寂寥  大学受験までもう数ヶ月を切っていて、しかも成績が全然上がらなくて内心すごく落ち込んでいるところ、遺品の片付けに行きたいなんてどうして思えるだろう。それも、お父さんのお兄さんのお嫁さんのお父さんの叔父さんという、縁の遠い、普段全く関わりがなかったひとの。 「亜芽、ここじゃわ。さ、降りて」  お父さんが車を停めて、私に促した。  ふきんしんだ、と言われても、気が進まないものはしかたがない。だけど、やらないといけないという現実も、しかたがない。私たちより関係

          小豆色の寂寥(1)

          小豆色の寂寥(2)

           コウという名前の女性が主人公だ。  物語は、彼女が望まれない生を受けたところから始まる。  コウの親は、くにに出生を届ける気はなく、かといって娘を手にかけるでもなく、死なない程度に栄養を与えていた。ある豊作の年、鳥の神さまが人間界の視察に来た。鳥の神さまは様様な境遇の人間を哀れむ。綱渡りのような生活をしていたコウにも涙を寄せ、真っ白な翼をふるって人間の行動にほんの少し介入し、コウは、くにの保護下におかれて安全な暮らしを保障された。  だが、コウは、今いる場所に自分が不要な

          小豆色の寂寥(2)

          小豆色の寂寥(3)

           突然遭遇した怪奇現象。それでも本を取り落とすことはなかった。目を疑ったが、怖くはなかった。 「今の言葉、全部、私に?」 「そうよ」  絵の女性の口が動いたことで声の主を確信する。 「私は創作物。平面。非現実。なのに、動いたり話しかけたりされても、えらく落ち着いているのね」 「いえ、落ち着いてはいないんですが」 「全然そう見えないわ」 「そう見えんでも、混乱しとるんです。これって、本当に本当のことですか。絵がしゃべっているって」  さあ、と、女性は投げやりに言う

          小豆色の寂寥(3)

          小豆色の寂寥(4)

            「この頁の挿絵のあなたに、さわってもいいですか?」  返事も聞かず、本の頁に指をそわせる。紙面のコウさんの身体に、私は体温がしっかり行き届いた人差し指でふれた。 「私の手がコウさんの身体にさわっとるの、わかりますか」  ゆっくりと指を動かした。そのままコウさんの背中の線に沿って、紙に指をすべらせる。  くっ、と笑う声がした。 「くすぐられているようだが、ぬるま湯が身体をつたっていくようにも思うわ。不快ではない」  今度は掌全体を本に優しく当てた。寒くないとい

          小豆色の寂寥(4)