生ヵ縫 凜

岡山県に住まう素人の物書き.無料・有料、記事内容は同じです(あとからサポート機能を知り…

生ヵ縫 凜

岡山県に住まう素人の物書き.無料・有料、記事内容は同じです(あとからサポート機能を知りました).   ♪***♪**♪  ひとが好き.いのちが好き. 世界が好き.

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生カ縫 凜 (いかぬい りん)

岡山県出身. 創作活動が趣味. 実力はないです. ただ、書いたり描いたり、表現するのが好きなんよねぇ……. ひとが好きで、いのちが好きで、世界が好き. 性善説をもとに考えよるよ. 記事・文章を見てくださって、ありがとうございます. とてもうれしいです. 追記 サポートっていう機能があるんですね. 無理に有料記事を作らなくてもよかった、ということですね;; ……ということで、わたしのnoteで有料記事が混在しているのは、無知故です. ややこしいことしてすみません.

    • あなたのために言わない

       スアーは、心のどこかで気付いていた。  ただ一人愛した彼、ルインとはもう会えないのだと。  前世の記憶を持って、この世に生まれてくる可能性など、決して高くはないのだから。  それでも、待たずにはいられなかった。今日は来るかもしれない。今日は。  そう思って、過ごしてきた。  けれど、彼は来なかった。月日が過ぎ、それでいいと思うようになった。  生まれ変わりを経て、今、彼が幸せでいるとしたら。  ルインの幸せが、自分の幸せ。むざむざ彼の幸せを壊す気はない。  ただ――、 (待

      • 滴る雫

         冷えた地酒の瓶の蓋をぷしゅっと開けたとき、久世由真は、胸の中に蓄積していた今日一日分の鬱屈がほんの少しだけ外に出ていった気がした。八月末の夜風が部屋に吹きこむ。  今日また、上司のミスだのに、由真が取引先に頭を下げた。アストロ製薬に勤めて三年。新入社員が入らないため、未だに由真は下っ端のままだ。  しかも、彼女の浮気も発覚した。昼休憩にスマートフォンに届いていたメールを確認していて、彼女からのメールに気付いた。 「題:今度の日曜 本文:トシ君がくれたルビーのネックレス着けて

        • バニラアイスが溶けるころ

           お願いです、と声をかけられたのは、偶然だったのだろうか。立ち止まると、紺色のセーラー服の女の子と目が合った。 「お願いします」  その子は真剣な目で言った。 「私と一緒に死んでください」  俺は耳を疑った。言葉をなくして、突っ立った。  夜八時の飲屋街。クラブやバーが建ち並ぶこの通りを、俺はただ歩いていただけだった。どこかで、もう一杯飲もうと思っていただけだった。店やラブホテルに誘われることくらいは経験がある。なんと言ったって夜の街だ。だが、まさかこんなことを言われるとは思

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        生カ縫 凜 (いかぬい りん)

          バニラアイスが溶けるころ(同一文章・有料設定)

           お願いです、と声をかけられたのは、偶然だったのだろうか。立ち止まると、紺色のセーラー服の女の子と目が合った。 「お願いします」  その子は真剣な目で言った。 「私と一緒に死んでください」  俺は耳を疑った。言葉をなくして、突っ立った。  夜八時の飲屋街。クラブやバーが建ち並ぶこの通りを、俺はただ歩いていただけだった。どこかで、もう一杯飲もうと思っていただけだった。店やラブホテルに誘われることくらいは経験がある。なんと言ったって夜の街だ。だが、まさかこんなことを言われるとは思

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          バニラアイスが溶けるころ(同一文章・有料設定)

          描く人(同一文章・有料設定)

           後藤友美は聞いた。  はっとして、踏み出そうとしていた足を止めた。瞬間、腹に響くごおっという振動と、枕木を超えていくがたんがたんという音とともに貨物列車が友美の前を通って行った。踏切の遮断機がのろのろと上がる。  弱い秋風が、線路沿いに生える芒をふらりと揺らす。  友美は我に帰った。逃げるように歩き出した。明らかにサイズの合わない赤いパンプスに爪先が締め付けられて痛い。  どうして、私は娘の靴なんて履いてきたんだろう、友美は細い腕で体を抱くようにして歩きながら、ぼんやりと思

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          描く人(同一文章・有料設定)

          満月

           電車がゆっくり減速して止まりました。車掌さんが駅名を告げると同時にドアが開いて生ぬるい空気が車内に入ってきます。  妹尾りえは、リュックサックを背負い直して、ホームに降りました。 一年ぶりの地元です。今年はお正月もゴールデンウィークも帰省できなかったので、ちょっと遅めの夏休みを利用して、実家に帰ってきました。たった一年とはいえ、帰省するたび、つよいなつかしさでいっぱいになります。 駅のそばに立つ大銀杏の葉は、若若しい緑色から、少しずつ秋の装いになっているようです。  実家ま

          描く人

           後藤友美は聞いた。  はっとして、踏み出そうとしていた足を止めた。瞬間、腹に響くごおっという振動と、枕木を超えていくがたんがたんという音とともに貨物列車が友美の前を通って行った。踏切の遮断機がのろのろと上がる。  弱い秋風が、線路沿いに生える芒をふらりと揺らす。  友美は我に帰った。逃げるように歩き出した。明らかにサイズの合わない赤いパンプスに爪先が締め付けられて痛い。  どうして、私は娘の靴なんて履いてきたんだろう、友美は細い腕で体を抱くようにして歩きながら、ぼんやりと思