花言葉(1)
ざわり、ゆらり、花の夢。
人に育てられた花が、月の細い夜に見た、人の世界の夢。
レスワナは絵描きです。いいえ、まだ修行中の、絵描きになりたい青年でありました。
レスワナには、大切なひとがいます。ナージという女のひとです。波打つ若草色の髪と緑色の瞳の持ち主で、明るいひとです。
ふたりは恋人でした。
春のある日、レスワナはナージに言いました。
「ぼくの絵のモデルになってくれないか」
はにかみつつナージは頷きました。
窓際に座ってもらい、レスワナは、真っ白なキャンバスにナージの輪郭を描いていきます。
きらきらと、真昼の太陽の光が部屋にそそいで、空気もきらきらと光るようでした。
レスワナは、輪郭をあらかた描き終えると、本格的に絵筆を手にします。
静かに時間が流れていきました。
ナージは、絵のできぐあいを見たい気持ちをおさえて、窓際に座っていました。
ようやく、満足げな表情をレスワナが浮かべたのは、陽が傾きかけた頃です。
「よし、あとは色をつけるだけ。ナージ、ありがとう」
レスワナは絵筆を置いて立ち上がり、
「疲れたろう。今日の晩ご飯は、ぼくが作る」
「わたし、座っていただけじゃない」
「いいから、いいから」
その夜、レスワナが作ったのは、じゃがいものスープと、炒めご飯と、魚の香草焼きでした。
月と星がきれいだったので、屋根にのぼって、二人で夜空を眺めました。
「きれいね」
春めいた夜風が吹きます。
さっきのきみの絵ねぇ、とレスワナが切り出しました。
「夏のコンクールに出そうと思っている」
「えっ」
ナージは驚いて声をあげ、レスワナの背中を小突きました。
「ふふ、レスワナ、完成を待っているわ」
星たちが、ささやき声でさんざめいています。
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