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しのちゃんとなみださん(2)

 日曜日、ママが病院からテレビ電話をかけてきてくれたよ。
「しのちゃん、朝ごはんいっぱい食べた?」
 ママにきかれて、「パンとたまごサラダを食べたよ。たくさん食べたよ」って答えた。ママはうれしそうに、うんうんって言ったあとで、
「実はね、もっくんは、ぐあいがあんまりよくなくてね、ママより長く病院にいることになったの」
「もっくん、どうしたの?」
「生まれてくるときに、いっぱい力を使ったから、もう少し病院でおやすみしたほうがいいねって、お医者さんに言われたのよ」
「ママはいつ帰ってくるの?」
「ママは、明後日には退院できるから、それまで待っていてね」
 ママが手をふった。しのも、ばいばいって手をふった。
 電話が切れた。
 しのは、わかったような気がしたけど、やっぱりよくわからなくて、のどがぎゅーって痛かった。でもね、でもね、泣かなかった。

 ママが病院から帰ってきた。もっくんは、病院でおるすばん。ちょっとずつ元気になっているよって、ママもパパも言っていた。はやく会いたいなぁ。
 ひさしぶりにママが、しのをだっこして、たかいたかいしてくれたよ。しのは、とってもとっても、うれしかった。
 ママといっしょに幼稚園に行って、ママといっしょにおうちに帰った。
 だけどね、もっくんはまだ病院でおるすばん。おふろもハンバーグも、まだだめなんだって。かわいそうだなって思って、なみださんがやってきそうになったけど、しのは泣かなかったよ。
 おうちでママが、おちちをコップにしぼったあとね、冷凍庫にしまっていたのがすごくふしぎだったの。どうするのって、しのがきいたら、病院にいるもっくんのところに持っていくのよ、って言っていた。
「アイスクリームは食べられるの?」
 ふしぎだったから、ママにきいてみた。ママは、しのをひざにのせて、笑った。
「ううん、凍ったおちちを、とかして、あっためてからあげるのよ」
「ふうん」
 ママがひざの上で、しのをゆらゆらゆすってくれる。
 ママ、今日ね、おにごっこしていたときに転んだけど、泣かなかったよ。 
 園長先生と、ひまわり組の山本先生がね、えらいねってほめてくれたから、しょうどくのお薬がしみても泣かなかったよ。

 ママ、パパ、今日ね、おともだちのじゅんくんがお引っこしするって聞いてさみしかったけど、泣かなかったよ。
 ママ、パパ、今日ね、ミルミルのしっぽがちぎれちゃったけど、泣かなかったよ。
 ママ、パパ、今日ね、発表会のとき、もっくんのおみまいに行っていて、しののお歌の出番にいなかったけど、泣かなかったよ。
 ママ、パパ、まよなかにね、ママとパパが、もっくんのおはなししていて泣いていたの見たけど、しのは泣かなかったよ。


 なみださんは、ちゃんと、いなくなってくれたんだよ。

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