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雨の日の美術館XⅨ

雨の日の美術館XⅨ

2017年11月23日(木)、ミノルと早紀江XⅥ

 彼女が板場の中に来た。「ドッペルゲンガーさん、私は兵藤楓と言います。あなたは?」ドッペルゲンガーさんだって。私の言いそうなフレーズじゃない!「兵藤楓さんというのね。私は遠藤早紀江」私は、楓さんに自己紹介した。

 女将さんが私の代わりにザッと私の紹介を楓さんにした。女将さん、私のことを遠藤さんの婚約者だって!婚約者!そうよ!私はミノルの婚約者!

「あれ?早紀江さん、遠藤さんの名字にもう変えちゃったの?」と彼女が板場の中で私の頭から爪先まで観察する。私もそうだけど。目線が同じで、背の高さも同じ?ということは170センチ?ゲゲゲ!のっぽじゃない!

「それは偶然。私、元々遠藤姓なの。だから、結婚しても便利。名字変更が不要なの」
「私は、この前、名字が変わったの。パパが早くに亡くなって、CAをやっているママが女手一つで育ててくれたんだけど、去年再婚しちゃって、兵藤になった。確かに、名字が変わると面倒よ。手続きが大変なのがよくわかった。それで3歳年上の大学生の義理の兄もできてしまった、という」

「おっと!それ、まんまのマンガのシチュエーションじゃない?血の繋がらない兄と妹が突然同じ屋根の下で暮らす!おおお!何も起こらないはずがない!ワクワク!」
「ハハハ。迫ったけどダメでした。キスまで迫ったんだけど」
「キ、キスしちゃったの?」いやいや、楓さんと会話のリズムが合うんだなあ。やっぱりドッペルゲンガー?会うと死んでしまうんじゃなかったっけ?彼女もアンアンするタイプかな?
第一章 出会い、九話 楓ちゃん、話す

「練習だ!と無理やりキスさせた。ねえ、面倒だからサキエと呼び捨てで良い?私はカエデで良いから」
「カエデとサキエ。音も似ていて、それいいわね。それで、カエデ、キスまでしか進まなかったんだ?」
「それがさあ、ごうだつされたのよ!強奪!その縁でここにいるんだけどね」
「ええ?聞きたい!聞きたい!」

「お兄がね、タケシって言うんだけど、大学2年になったから一人暮らしするって言い出して、住むのは下町、北千住だ!って、ここの不動産屋さんに来てアパートを探したの。そうしたら、そこの一人娘さんの同い年の女性と仲良くなって、会ってその日に結婚して下さい!なんて言われて。強奪されたのよ、私、お兄を!その人、田中美久さんって言って、分銅屋に昔から出入りしていたってことで、私もここに出入りするようになったの。まあ、もうさ、美貌でも性格でも負けたから。諦めたわ。今じゃあ、美久姉さんと呼んでる」

「あれ?美久さん?ミノルが、遠藤さんが言っていたのが、順子さんと節子さんの元親分のヤンキーの名前が美久さんって」

「そうです。元ヤンです。ギャル系ファッションだったらしいけど、それが今ではフレンチカジュアルのお嬢様ファッションだよ。でも、怒るとすごい。地が出るとすごいのよ。空手やっているんで、橋本真也の水面蹴りとか踵落としとか、半グレを簡単にのしちゃう。踵落としで相手にパンツ見せてる、って言うと急に恥ずかしがるけど」
「へぇ~、お会いしたいな、カエデのお姉さんに。お茶大の物理科なんでしょ?元ヤンで」
「それがね、私も同じ志望で、来年には後輩になるかもしれないの。サキエは?」
「私は今推薦の1次が通ったから、来年は駒場かもしれない。ミノルの後輩になるかも。工学部」
「あれれ。それ、お兄とも後輩じゃん?」
「なんだ。みんな理系じゃない。女将さんもそうだし。ここはリケジョの集会所なのかしら?」
「変なお店だよ、ここは」
「同感です!」

 カエデが女将さんに「女将さん、この生ひじき、作っちゃってもいい?煮物よね?」と聞く。ああ、いいわよぉ、と女将さん。

「カエデ、このひじき、ヌメヌメしてるけど?」
「これ、乾燥ひじきじゃないのよ。築地で買う産地直送の生。乾燥ひじきと違って、『無機ヒ素』が含有されているんで、7分加熱して茹でこぼすの。賞味期限は冷蔵保存でも2~3日なので、家庭用には不向き。栄養面ではほぼ同じなんだって。でも、生の方が私は食感がシャキシャキしていて好き」ほほぉ。

 カエデは、手慣れた様子で、にんじんを4cmくらいの長さの少し太めのせん切りに切った。確かに、にんじん5本使うなんて、家で作る分量じゃないわね。油抜きして下ごしらえした油あげも8枚。細めの短冊に切る。おおお!リズミカル!

 カエデは、大きなアルミの雪平鍋に米油を入れて熱してにんじんを入れてさっと炒めた。それからザルにあげてあったひじきも入れ、菜箸でさっさと混ぜた。油揚げを加えて、女将さんがさっき準備したお出汁を目分量でお玉で加える。

 醤油、砂糖、みりんも計量スプーンなんか使わない。容器、瓶から直接投入。弱火で水分を飛ばしながらグツグツ。小皿で味見してうんとうなずいて、鍋底に煮汁が少し残るくらいまで煮て、ごま油を一回し。出来上がり。大皿に盛って、カウンターに置いた。

「カエデ、すごい。目分量でさっと作った。慣れてるね」
「サキエ、ここまでくるのに4ヶ月だよ。お客さんから、やれ、女将さんが作ったのと違う、醤油の煮出しか!砂糖が足らん!みりんが多すぎる!って文句を言われてさ、大変なんだよ、ひじきの煮物でも。サキエ、食べてみて」

 お小皿にとって食べてみた。うま~!乾燥ひじきで作ったやつより、うま~!

 これはご飯が何杯でもいけるって、あれですかい?

 ぶり大根も味見!とか言われて食べた。うま~!くわいのうま煮も!うま~!これ、お母さんがおせちの時に作るやつじゃん!

 レンコンとさつま揚げの甘辛煮も!うま~!うま~!うま~!

「美味しいなあ。家庭料理のごく普通のお料理なのになんか違う」
「素材の質、作る量、何種類かの違うお出汁。それからあくまで御飯のおかずじゃない酒のおつまみだから味付けも変えていると、女将さんは言ってる。小料理屋の板前さんが奥さんの家庭料理を喜んで食べる、というのは料理の味付けがちょっと違うからなんでしょうね」
「ほほぉ」
 
 6時ぐらいからボツボツとお客さんが来た。近所の人たちや会社員。

おおお!今日はごく普通の小料理屋の雰囲気じゃないか!変な人いない!・・・変な人は、私か・・・


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