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雨の日の美術館 XIII

雨の日の美術館 XIII

2017年11月18日(土)、ミノルと早紀江Ⅵ

 私たちは東京メトロ日比谷線で上野まで行った。それで普通に京浜東北線に乗り換えればいいんだけど、今日はミノルと一緒なので別の路線を使いたくなった。無駄遣いだって怒られるだろうか?「ねえ、ミノル、無駄使いだって怒らない?」「何が?何を買うの?」「一人880円の無駄遣い。私が出すから許して。お願い」「一人880円?」「うん」

 私は券売機でJR北陸新幹線のキップを2枚買う。上野―大宮、自由席。「新幹線かぁ」とミノルが言う。「金沢まで行くってわけじゃないのよ。大宮まで。だって、ミノルが初めて私の部屋に来る特別な日だから、京浜東北線で普通に行きたくないの。このくらいはお金持ってるの。借りた5万円は大事にしないと」「ぼくが出すのに」「ダメ。私が出します」

 1階の中央改札を入って、右手の新幹線乗換口を通り、エスカレーターで地下4階の19番線ホームまで下りた。エレベーターもあるけど、ゆっくりとミノルとホームまで行きたかった。「ね?発車時間までまだ余裕だし、エレベーターよりもいいでしょ?」と前後に誰もいなかったからミノルの腕にしがみつく。「ねえねえ、私がさ、卒業する3月に金沢まで婚前旅行に行かない?私、頑張ってお金を貯めちゃうから。授業もあまりなくなるんでバイト増やせるんだよ。まず、ミノルの5万円を返すけど」「何を言ってるの。5万円は気にしなくていいよ。結納金の手付ってことでいいじゃないか」
 
「え?結納金?」
「だって、キミ、ずっとうめいていたじゃないか?結婚、結婚って。だから、結婚には結納金ってのがいるんだろ?それの一部の手付だよ」
「ほんっとに結婚してくれるの?」
「さっきも言っただろ。もう早紀江は誰にも渡したくないって。そうするには結婚しかありません」
「昨日会ったばかりの女子高校生とだよ?」
「昨日も今日もありません!って言ったのはキミだよ。昨日会ったばかりで今日処女を奪った女子高校生と結婚します」

「遠藤実さん、それは遠藤早紀江に対するプロポーズと思っていいのでしょうか?」
「いいんじゃないですか?エスカレーターに乗っている途中でいうのもおかしいけど、遠藤早紀江さん、ぼくと結婚していただけませんか?」
「ハイ、お受けいたします・・・ねえ、ミノル、泣いちゃって良い?」
「泣くのは新幹線の車内かキミのアパートの部屋でしてくれない?会社員姿の男性がだよ、泣いている制服姿の女子高校生と一緒にエスカレーターに乗っているというのは誤解を産みます」

「私、幸せすぎて死んじゃうかもしれない」
「ぼくをおいて勝手に死なれちゃ困る。まだ籍も入れていないんだよ」
「そうよね、まだ死ぬには早いわよね。準国家公務員に犯され足りませんもん」
「キミ、まだそれを考えているの?」
「言ったでしょ?女子高校生は1日中頭の中はセックスのことばかりって」
「ぼくが先に死んじゃうよぉ」

「そっか。あまりミノルを酷使してもいけないんだね。そうね、毎日1日5回までにしよっか?」
「それ多すぎる!月水金土くらいにして欲しい」
「あれぇ?ミノル、火木日曜日は我慢できるの?」
「・・・難しいかもしれないな?」
「そうでしょ?そうでしょ?早紀江ちゃん、火木日曜日には裸エプロンで誘惑しちゃうんだからね!」

 19番線についた。まだ新幹線は来ていない。私はミノルの腕にしがみついたまま。ああ、どうしよう。え~、私、結婚しちゃうの?18歳で!おおお!どうしよう!

「おおお!どうしよう!ミノル、もう幸せで胸が張り裂けそうだよぉ」
「早紀江、結婚って、してからが大変なんだよ?性格の不一致とかもあるんだから」
「体の一致は確認しました!」
「それにまず同棲の許可をキミの叔母さん、叔父さんから了解を取って、キミのご両親にも承認いただいて。明日にでも静岡に行くか?」
「ミノルも私と同じでフットワークいいじゃん?」
「ああ、18歳の女子高校生の体に溺れた公務員だからね。了解を取ったら来週にでも引っ越ししよう」
「おおお!おおお!すごい!実感がわいてきたぞ!」
「ねえ、早紀江、実感はいいけど、キミの叔母さんと叔父さん、ご在宅なの?」
「え?あ!連絡するの忘れてた!」

 私はあわててスマホをカバンから出して叔母様に電話した。「愛子叔母様、こんにちわぁ~。あのですね、今日折り入ってお話したいことがあるのですが、叔母様、叔父様は今日ご在宅でしょうか?ハイ?え?4時には家におられる。ええ、ええ、あのぉ、叔母様、叔父様にご紹介したい方がおりまして・・・ええ、ええ、男性です。え?両親?まだです。まず、叔母様、叔父様にご紹介してですね・・・ハイ、わかりました・・・ええ・・・では、4時頃にお伺いいたします。休みの日にお手間を取らせて申し訳ありません・・・ええ、ええ?彼氏・・・いえ、もっとです。もっと・・・いや、お会いしてから説明させて下さい。ありがとうございます。では、後ほど」

 会話を聞いていたミノルが「もっと?もっとって?」「だってさ、結婚を前提のお付き合いでこれから同棲するのよ、私たち。単なる彼氏じゃなくて『もっと』じゃないの!」「早紀江は表現がユニークだよ」「まあ、4時だから、まだ3時間あるから」「大宮駅で何か買っていこうね。何が良いかな?果物とかさ。マンゴーなんかの詰め合わせなんてどうかな?」「え?なになに?マンコー?」「キミ、すごくベタなこと言ったよ、今」「女子高校生は1日中頭の中はセックスのことばかり考えているんですもの」

 新幹線がホームに入ってきた。「ねえねえ、私が車内にいて、ミノルはホームに残って、ギリギリまで待って、ドアが閉まりかけたらミノルが飛び乗って『ダメだ!別れたくないんだ!』って私をハグするのはどう?」「やれやれ。するの?」「うん、したい!」「ドアが閉まっちゃったらどうするんだ?」「そうしたら、私が車内でシクシク泣くのよ」「ぼくはどうする?」「次の新幹線で大宮まで来て頂戴。待ってるから」「それ、すごくバカじゃないか?」「いいから、いいから。やってね」

 ミノルが本当にやってくれた。ドアが閉まって、車内で抱きしめてくれた。私、もう死んじゃう!耳元で『早紀江、行っちゃダメだ!別れたくないんだ!』と囁いてくれた。おおお!おおお!ダメだ、死ぬ!私たち、バカなの?

「あのさ、女子高校生ってみんなこうなの?」とミノルが言う。私はハグされたのでまたジンジンしている。「さぁ、私がおかしいのかもしれない。他の子はもっとまともかも。それよりね、ミノル、私、抱きしめられてまたジンジンしてるんだけど、私の部屋で1回だけ・・・」「ねえ、夜まで待ってくれない?」「待てるかな?」

 自由席はガラガラだった。大宮まで十八分。もっと乗っていたい。「ねえ、金沢行くときはグランクラスに乗ろうよ」「あの特等みたいな?」「そうそう。ちょっとした軽食が出て、飲み物は注文し放題なの。それでね、二人でワインと日本酒をいっぱい飲んでへべれけで金沢に到着するんだよ」「・・・まあ、リストを作ろう。早紀江の発想は突飛すぎて忘れそうだよ」

 JR大宮駅で降りた。エキュート大宮のフルーツショップでマンゴーを探したんだけど冬だしそれはなかった。マンコーならついてるんだけど、流石にミノルに下品なジョーク連発はダメだよね?嫌われちゃうわよね?

 切り分けるのも面倒でしょう?というので、ベリーとかいちじくとかのゼリーのジュエルを買う。ミノルが面倒だ、こっちの端からあっちの端まで全部ください、なんて乱暴な注文をする。店員が15種類になりますが?と言ったら、ええそれで結構、なんて答えている。ミノルはケチじゃないね。

 私のアパートは駅から徒歩20分。フォルトゥーナ梅木という8階建てのビルの5階だ。普段はアパートから自転車で駅まで行く。家賃8.5万円。共益費が1万円。44平米。半分は自分で負担している。親は全額出すと言うけど、私のわがままで大宮の高校に通っているんだからと押し切った。光熱費はちょっと勘弁と出してもらっているんだけどね。居酒屋のバイトと家庭教師のバイトでそこそこは暮らせるんだ。

 アパートに行く道すがら説明したらミノルが「ほほぉ、自分でも負担しているって偉いじゃないか?」と褒めてくれた。「へへへ、親に悪いでしょ?でも、実家がお金に困っているわけじゃないけど、やっぱり自立はしないとね」

「でもさ、ぼくのマンションに住むようになったら、住居費も光熱費もいらなくなるじゃん?バイトもしなくてよくなるんだよ」
「それって、専業主婦ですか?ミノルさんに養ってもらうの?」
「早紀江のしたいようにすればいいけど、もうぼくのマンションもあるわけだし、籍を入れたら配偶者手当も申請できる」
「おおお!げ、現実的な話になってきたぞ!おおお!」
「ま、ゆっくり考えよ。結婚式は後でも籍だけさきに入れればいいかもしれない。内祝い程度はするけどね」
「あ~~~~~~、これたまらないわ!結納、入籍、内祝い、配偶者手当だって!ジーンときてきた」
「わけわかんないなあ」
「いいのよ、ミノル、もう胸がいっぱいなんだから」
「これ以上、路上で変なお芝居はさせないでくれよ」
「そうよ、さっきの新幹線のお芝居もジーンと来たわ。日記に書いておかないと」

 私の部屋は1LDK。12畳のLDKと6畳の洋室になっている。もちろんミノルの部屋に比べると狭い。ミノルの部屋は倍の広さだもんね。昨日掃除しておいて良かった。玄関でちょっと待ってて、片付けますから、なんてかっこ悪いもん。

 ミノルは部屋に入ると「お!早紀江、綺麗に片付いてるよ。エライね」という。まあ、腐女子じゃないので、私はかなり綺麗好きの方だと思う。まだ叔母様の家に行くまでに時間があるのでスイーツを冷蔵庫にしまった。

 ミノルに部屋を見せる。ふ~む、なんて唸っている。「何?どしたの?」「早紀江のベッドがシングルのパイプだろ?ぼくのはソファーベッドだから、あれはソファーとして使うとして、もうひとつシングルのパイプベッドを買ってくっつければ、幅180センチのキングサイズになる。それでキングサイズのマットレスを買えばいいんだ」

「ねえ、今度こそ、泣いて良い?」
「なんで?」
「だって、ミノルがベッドの配置まで考えてくれてるんだもん。うれしくってさ。泣けて来るのよ。うぇーん」あれ?ほんとに涙が出てきた。

 ミノルが抱きしめてくれてヨシヨシと頭をなでてくれる。私たちバカップルじゃない?おっとラブラブしている時間はないのよ。「ミノル、どんな服を着ていけばいいかしら?」と急に現実的になる私。
 
「あなたがスーツ姿でしょ?それバーニーズ?」
「ダメかな?」
「ダメどころか、かっこいいわ。とすると、私は・・・」

 クローゼットを引っ掻き回した。あった!何かのために買っておいたビジネススーツ。パンツスーツだけどこれでいいかしら?「ねえ、これじゃダメ?」と体にあてがってミノルに見せる。「いいんじゃないか?二人共ネイビーブルーで」「よし、これにします」と私はベッドにスーツをおいた。それからスーツケースを引っ張り出す。修学旅行の時に買ったやつだ。

「早紀江、今度はなんだ?」
「なんだって、叔母様の家から帰ってきたら、ミノルの部屋に行くのに1週間分くらいの制服と私服の着替えと下着を持っていかないと。歯ブラシもね。シャンプーとコンディショナー、お化粧品」
「え?もう?」
「もうじゃありません!ミノルは今晩私がいなくて我慢できるの?」
「いや、我慢できそうもないけど、じゃあ、明日はぼくの部屋から静岡に直接行くんだね?」
「そうです!」

 クローゼットの箪笥を漁っていたら、コンサート用の衣装が出てきた。これ、ミノルに見せよっかな?

「ねえねえ、私のコンサート用の衣装、見たい?」
「見る見る」
「どうこれ?」
「え~、ゴスロリのメイド服?」
「だって、ベイビーメタルのカバーバンドだもん」
「ちょっときわどい!」
「フフフ、見てなさい、ミノル!」

 私は制服を脱ぎ捨てて、下着も脱いだ。「後ろ向いてなさい!覗いちゃダメよ」「おう」

 ガーターベルト、黒のストッキング、黒のセットのブラとパンティー。黒のトップと赤の超ミニを着る。「どう、ミノル?」と振り向かせる。これは私自信があるのだ。

「・・・」
「どう?」
「早紀江、ベッドに行こう!」
「さっきはしないって言ったのに!」
「いや、冗談です。しかし、似合うなあ」
「へへへ、この格好は、私、自信があるのだよ」
「いやいや、まいった」
「メイクしてないけどね。今度、コンサートの写真を見せてあげる」
「今度はぼくが発情しそうだ」
「そぉ?うれしい。そうか、この格好でミノルの部屋で料理してあげるね」
「ぼくが卒倒しちゃうよ」

2017年11月18日(土)、ミノルと早紀江Ⅶ

 バタバタしていたら、三時過ぎになってしまった。「あら、いけない。三時を過ぎちゃった」と言うとミノルが「叔母さんの家はここから遠いの?」と聞く。

「荒川沿いの農家なの。いつもはバスで行くんだけど時間がかかるな」
「タクシーで行こう。4時と言ったんだから時間厳守だ」
「うん、そうしよっか」

 私たちはタクシーを拾った。お土産のスイーツは風呂敷に包んだ。タクシーの中で「そう言えば叔母さんは早紀江の誰にあたるの?」
 
「え?あ!ゴメン。説明してなかったね。叔母様は私の父の妹なの」
「そうか。それで静岡からこっちにお嫁に来たんだ」
「そうそう」
「早紀江に厳しいのかな、叔母さんと叔父さんは?」
「あ!それは大丈夫よ。私に優しいもの。だってさ、叔母様と叔父様、デキ婚なの。大学生の時に妊娠しちゃったんだよ、愛子叔母様。だから、私たちの話は理解してもらえるわよ」
「なるほど」
「問題は私の父親。一人娘だから、うるさい、うるさい。時々、抜き打ちでこっちに出てきてチェックされてるわ」
「まあ、お父さんは出たとこ勝負だな。明日は早く出よう。今度はちゃんと連絡しておくんだよ。今日中に。お父さんは突然来られたら怒られそうだからね。明日でいいのかなあ?日をずらそうかな?」
「だから、今日、叔母様と叔父様に了解をもらって、私が連絡するでしょ?それで叔母様からもお父さんに連絡してもらうのよ」
「キミ、考えてるね?」
「女子高生をなめてはいけない!」

 叔父様の家はここいら辺りの旧家で、野菜づくりや盆栽なんかを作っている。叔父様の家についたらミノルが、ほぉ~、立派な門構えだね、なんて感心していた。
 
 呼び鈴を押すと待っていたかのように(実際、玄関で待ち構えていたのだ。後で知った)すぐ引き戸が開いた。「まあまあ、早紀江ちゃんいらっしゃい」「おう、急になんだ?」と叔母様と叔父様が玄関にいたのだ。「まあ、あいさつは奥で」と叔父様が言って、ミノルと私は応接室に通された。

 部屋に入ってミノルが座る前に「初めてお目にかかります。わたくし、遠藤実と申します。偶然ですが早紀江さんと同じ苗字でして」と45度かっきりのお辞儀をした。私の彼氏は会社員でキチンとしてますこと。ソファーセットに座った。正面に叔母様と叔父様。

「今日は突然お邪魔いたしまして誠に申し訳ございません。ええ、わたくし、こういうものでして」と叔父様に名刺を渡した。

「防衛省?遠藤さんは防衛省にご勤務されているんですか」
「ハイ、わたくし、今年で23歳になります。まだ入省したてでございます」
「ほぉほぉ。それで、今日はどのようなご用件で?」

「ハイ、わたくし、早紀江さんと今年の夏、知り合いまして。上野の西洋美術館で偶然。それからお付き合いをさせていただいております。半年ほどの間なのですが、早紀江さんのことをよく知りまして、これは中途半端に付き合うのではなく、ちゃんとご両親、ご親戚の方にもご了解をいただかないといけない、ケジメがつかないと早紀江さんと話いたしました。今日は仏滅なんですが、思い立ったら吉日なので、早紀江さんに無理を言いまして、お伺いした次第です」
「つまり、それは結婚を前提にということですか?」と叔母様が聞く。
「ハイ、結婚を前提にということでございます」とミノル。

「早紀江ちゃん、あなた、今まで遠藤さんとのお付き合いを一度もしてくれたことがなかったじゃない?」
「愛子叔母様、これは遠藤さん、いえ、ミノルとさんざん話したことなんです。私が高校3年生で、まだ結婚なんて早いと言われるのがちょっと怖かったの。それでミノルがちゃんと話そうというのを私が止めてました。だから叔母様にも内緒にしていたんです。でもね、叔母様、もう、私、ミノルが好きで好きで、この気持が止められなくなったんです。叔母様だって、そういうご経験がお有りでしょう?」あ~、私はずる賢い女!

「う~ん、なるほどなあ」と叔父様。「遠藤さん、立ち入ったことをお聞きするが、もう既に早紀江ちゃんとは男女の仲になっているってことかね?」
「ハイ、正直に申し上げます。実は1ヶ月前に早紀江とそういう関係になりました」
「まあ!」と叔母様。
「叔父様、叔母様、まだ学業も途中なのにスミマセン。だけど、私、もうダメなんです。気持ちが抑えられなくて、ミノルに迫ってしまいました」
「う~ん・・・」と腕組みして叔父様が唸る。

「早紀江と相談したのですが、まず、こちらに報告いたしまして、急ではありますが、早紀江のご両親のご都合次第ですが、明日静岡にご挨拶に伺いたいと思っております。明日は・・・大安だったな?早紀江」
「そうそう、明日は大安吉日なのよ!」

「ねえ、あなた方、これ奇襲戦法でしょう?」と叔母様。
「とんでもない!愛子叔母様、今日は急に参りましたが、これは二人で考えてもう先延ばしは止めようと思った結果なんです!許して下さいませんか?叔父様、叔母様」

「まいったわね。外堀埋められちゃってるじゃありませんか?あなた?私たちも人のことが言えませんものねえ」と叔母様が叔父様に言う。
「・・・そ、そうだな・・・遠藤さんも公務員で堅実な御職業なんだし、年齢だってたった5歳違っているだけだ」
「そうでしょう?私たちなんか7歳差ですわよ?私が大学3年生の時にあなたが28歳だったじゃないですか?」
「・・・そ、そうだな・・・」

「叔父様、ご了承いただきましたら、私、これからアパートに帰って、夕方、父に電話を・・・」
「早紀江ちゃん、ちょっと待て。兄貴はちょっとむずかしいからな。俺のときもさんざんしぼられたんだよ」
「そうですわね。既成事実を突きつけてなんだこの野郎、俺の妹に手を出しやがってって言われましたよね」と叔母様。

「早紀江ちゃん、まさか妊娠しているとかじゃないだろうね?」
「いいえ、それはありません。避妊してますから」
「おぅおぅ、俺の姪っ子が避妊とか言うのか・・・」
「あの、恥ずかしい・・・叔父様、叔母様、ミノルは私の初めての男性なんです!」

「そ、そうなのか・・・わかった。俺がな、後で兄貴に電話して、事情を説明する。その後、早紀江ちゃんに電話するから、それで兄貴に電話しなさい。俺からよく言っておく。愛子、それでいいんだな?」
「もちろんですわ。私の大事な姪っ子が・・・いいのよ、サキちゃん、こういうのにまだ早いとかないわよ。でも、大学は行くんでしょうね?」

「それはもちろんです。私が責任を持って大学に通わせます。彼女がやりたいロボット工学とAI方面は実は私の専門でもあります。卒業したら私の勤務先の研究所に就職できたらいいね、なんていつも話しているんです」
「あら、そこまで話をしているのね。いいじゃない、将来の旦那さんが同じ専門で同じ職場なんて」
「そうでしょ?叔母様。早紀江だって高校生ですけど将来を考えていますのよ。もちろん、大学に合格しないといけませんけど。これから二次面接とか試験とかありますから。お付き合いも受験を考えていたします」

「よし、わかった!俺に任せておけ!俺たちだって、なあ、愛子、結果オーライだったじゃないか?」
「あなた、頑張ってね。妹のみならず娘も同じか!って来るから」
「負けるもんか・・・おお!遠藤さん、今日は車で?」
「いえ、タクシーで参りました」
「そうか、そうか。愛子、酒だ。酒を持って来い」
「ハイハイ」
「祝いの酒だ。遠藤さん、酒は飲めるよね?」
「ハイ、大丈夫です」
「早紀江も飲め!」
「叔父様、未成年です」
「俺が許す。第一、未成年といっても、もうおまえは女になったじゃないか!おっと恥ずかしいことを・・・」

 叔母様が応接間に酒とつまみを持ってきた。ミノルと私にぐい呑みが渡され、日本酒で一同乾杯。うまくいったわ、と心のなかで舌をだした。悪い女だねええ、私も。

 それから、叔父様が、遠藤さんのお住まいは?ほぉお父さんの所有マンションに住んでいるの?北千住?あそこは日光街道の始点で下町のいい街だよとか、お父さんのご職業は?え?政治家?横浜の市会議員?なるほど、とか話した。ちょっと、私、ミノルのお父さんの職業って聞いてなかった。う~ん、これからちゃんとお互いの話をしないと、嘘がバレるわよね?

 2時間ほどお邪魔をして、タクシーを呼んでもらってひとまず私のアパートに戻った。タクシーの中で私は笑いが止まらなくなった。

「何、笑ってんの?」とミノルが聞く。
「だってさ、だってさ、ミノル、真面目くさった顔でよくもまあベラベラと。いつの間に今日が仏滅で明日が大安吉日なんて調べたの?」
「さっき検索したんだよ」
「さすが、私の彼氏は違う!」
「キミに言われたくないね。あのすがりつくような目で叔母さんを見てさ、それで叔父さんには『それはありません。避妊してますから』とかよく言うぜ」
「まあ、これで第1段階終了。同棲の話はお父さんの話が済んだあとで、なし崩しにしてしまいましょう」
「まあ、今のキミのアパートとぼくのマンションを行ったり来たりすればいいさ」

 私はミノルに耳打ちした。「あのさ、私、知らなかったんだけど、私たちの初体験って、1ヶ月前の11月だったんだね?」「あ~、夏に会って、しばらく付き合ってとなると、だいたい3ヶ月後の11月って計算した」「これ、忘れちゃダメだよ」「思わず忘れて言いそうだよな」「メモしとこうよ」「そうだな。でも、将来、絶対にバレるよ?」「その時はその時です!」

「ところで、ミノル、『私が責任を持って大学に通わせます』って?」
「だって、そうだろ?ぼくの嫁の学費を夫が払うのは当たり前でしょ?」
「おおお!ジーンと来た!ねえ、泣いて良い?」
「タクシーの中で泣くのはお止め」
「うん、さて、どうしよう?」
「キミの部屋で叔父さんの連絡を待って、それでお父さんに電話したら北千住に帰ろうか」

「あ!ミノル!」
「何?」
「私、北千住に行くんじゃなくて、北千住に帰るんだね?ミノルの家に?」
「ぼくたちの家だよ」
「あ~、また泣きたくなってきた。ところで、ミノルのお父さん、政治家なの?」
「言わなかったっけ?これはもっとお互いのことを話さないとマズイね?」
「ミノルのご両親の説得はどうなの?」
「え?ウチ?ウチは問題ないよ。来週にでも行ってみようか」
「だって、私、高校3年生の未成年だよ?」
「母が喜ぶよ。兄貴がいるけど、本当はぼくは女の子が良かったのに、っていつもぼやく。娘ができたらうれしがるさ」
「ねえ、全然、お互いを知らないね?」
「ゆっくりゆっくり。相性はあってそうだから、それで十分だよ」
「ミノル、いい加減だね?」
「早紀江に言われたくないです!」


雨の日の美術館Ⅹ

雨の日の美術館 XI

雨の日の美術館 XII

雨の日の美術館 XIII

雨の日の美術館 XIV

雨の日の美術館 XⅤ

雨の日の美術館 XⅥ

雨の日の美術館XⅦ

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シリーズ「北千住物語」


フランク・ロイドの作品ポータル

複数のシリーズでの投稿数が増えてきましたので、目次代わりに作成しました。


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フランク・ロイドの随筆 Essay、バックデータ

弥呼と邪馬臺國、前史(BC19,000~BC.4C)


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