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雨の日の美術館XⅤ

雨の日の美術館XⅤ

2017年11月18日(土)、ミノルと早紀江Ⅹ

 ミノルがスーツの内ポケットを探って部屋の鍵を出してドアを開けた。スーツケースをドアの脇に置いている。う~んと唸っている。なに?

「ミノル、部屋、入ろうよ」
「いや、ちょっとね」と言って急にお姫様抱っこをされた。
「え?なに?」
「なにって、やっぱり、最初にしなかったからしてみただけ。新婚さんがよくやるやつ」
「うっれしい!」とミノルにキスした。思いっきり舌を突っ込んでやった。ウググとか言っている。ふん、ツバをいっぱい飲ませてやった。ハハハ。

「なあ、ぼくらはバカップルだぜ」
「証明書、どこかで発行してくれるかな?」
「まあ、バカだよな」と私をそっと床におろした。なんだ、このままベッドになだれ込むんじゃないのね?

 外のスーツケースを部屋内に入れた。映画じゃあこういう細かい動作って映さないのは時間がないからかしら?と思う。キョロキョロしていると、ミノルが「クローゼットにしまえるんじゃないか?」と言う。うん。

 とりあえず後でアンパックすればいいや、と思ってクローゼットの前に立てかけた。ミノルがスーツのジャケットを脱いでいるので「ミノル、あなた、スーツ、ブラッシングしてアイロンかけておこうよ。そのスーツと私もこの格好で明日はいいでしょ?アイロン、ある?」と聞いた。

「あるよ。これこれ」とアイロン台とアイロンをクローゼットから引き出す。私もジャケットとシャツ、ボトムを脱いだ。それを見てミノルが「早紀江、キミ、その下着で叔母さんの家に行ったの?」という。下着はゴスロリの下に着ていたままの格好。上下黒のブラとパンティー、ガーターベルト。

「そぉだよ。面倒くさかったの。どう?襲いたくなった?」
「あのさ、それ着ていると、襲いたくなって何もできなくなるんだけど」
「オホホ、そぉでしょ?そぉでしょ?マンガの『自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』のロゥリィ・マーキュリーみたいでしょう?化粧をするとああなります」
「制服を着ていると水川あさみでロリっぽくないけど、その格好だとほんとにロゥリィ・マーキュリーに見えてくる」
「そぉでしょ?高校3年生は仮の姿。実は962歳なのでしたぁ」

 スーツをサッサとブラシがけした。あまりシワが寄っていなので、気になるところだけアイロンをかけた。二人のスーツをクローゼットにしまう。それから、スーツケースをアンパックした。あれ?コンサート衣装、持ってきちゃったよ。これもクローゼットにかけてっと。

「早紀江、キミ、コンサート衣装、持ってきたの?」
「うん。放り込んでたみたい」
「あのさ、誰かがクローゼットを開けてそれ見たらどう思われるだろう?」
「ミノル、あなた、あなたのクローゼットを開く女性でもいるの?え?いるんですか?」
「違うよ。ぼくの母とかだよ」
「ふ~ん・・・いいじゃない?私のコンサート衣装なんだから」
「まあ、いいかあ。え~っとどうしよう?」

 ミノルはクローゼットの中をゴゾゴゾやって、中に収納されているチェストの棚から衣類を移動し始める。「とりあえず二段は使える」と言う。

「え?何?」
「後で家具を買い足したりするけど、とりあえず、ここに早紀江の衣類をしまおうね」
「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「なんだ?今度は?」
「うん、またまた、ジーンとなったの。だってさ、だってさ、ミノルの部屋のチェストに私の衣類がしまわれる、なんて。ああ、同棲ってこういう細かい動作が発生するのね、って。早紀江、幸せ」
「早くしまえ!」
「ハイハイ」

「ところで、キミ、お腹へってるだろ?」
「なぜ、わかる?」
「聞こえたから、腹の虫」
「また?お腹に防音処置しないといけませんね。うん、そうなの。分銅屋でお酒ばっかり飲んでお話してたんで、あまり食べてなかった!」
「簡単になんか軽く食べるか?」

「うん。何かある?」
「冷やし中華風で、そうめんにキュウリ、錦糸卵、トマト、ハムってどうだろ?」
「なぜ、『簡単になんか軽く食べる』食品でそんなものが作れるの?」
「だって、簡単じゃないか?」
「う~ん、料理はミノルのほうが私よりも上かも」
「今度、二人の料理できるメニューをリストして1週間の献立を考えてみようよ」

「・・・」
「なに?」
「ジーーーーンとしてます」
「ジーンとしてなくていいからさ、キミ、お願いだから普通の下着に着替えてくれない?」

「なぜ?どうして?なんで?」
「あのね、そのゴスロリの下着姿で、立ったりしゃがんだりされてみなさい!ぼくは押し倒したくなります!」
「押し倒して良いんだよ?」
「じゃあ、そうめんは?」
「・・・そうね、まず、食欲ですね。性欲はその後にしてあげよう!着替えるから見ないでね!」
「1日中、もう見慣れてるって」
「ねえねえ、レースが良い?花柄にする?Tバックもあるよ?」
「なんでもいいです!」

 仕方ない。普通の下着に着替えた。あれ?寝巻き忘れた。「ミノル、寝間着、忘れた」キッチンでトントンやっているミノルが「チェストの三段目にぼくのTシャツがある。ジャージもあるだろ?」と言う。彼の長袖のTシャツ、でかいじゃん?裾も長い。これだけでいいね。

 ミノルに聞いて、箸とかリネンのランチョンマットをテーブルにセットした。飲み物わぁ・・・「ねえ、ミノル、飲み物」「ああ、冷蔵庫に諏訪泉があるからそれ飲もう」「え?分銅屋の?」「うん、分けてもらった」「分銅屋は便利でいいねえ。お客さんは変だけど」「キミも相当変だよ」「・・・それは認める」

 あれ?冷やし中華風そうめんっておいしいじゃん!「ね、ミノル、これ美味しい」「簡単に作れるからな。ゴマ油が大事なんだよ。小瓶を買うんだ。酸化しないように、早く使い切るために」「ほぉほぉ、勉強になります」

 ミノルの正面に座っていたけど、長年、男の子と付き合ったらやってみたいことをした。「早紀江、脚を伸ばして股間をグリグリしないでくれない?」「これさ、彼氏ができたらやってみたかったんだ。早紀江、18年間の夢がかなった!ほほぉ、おっきくなった!マンガみたいだね?」「ぼくは一生キミにこうして振り回されるんだね」「いいでしょう?可愛いでしょう?いい奥さんになれるよう努力いたしますって!」「やれやれ」

「ところで、早紀江のベッド、あれどこで買った?」
「大宮駅のルミネのニトリで買ったよ」
「じゃあ、そこで同じベッドを買おう。パイプベッドのサイズとデザインも合わせないと見た目が悪いからな。ああ、ニトリなら同じものが北千住の近くにもあるだろうから、そこで見てみよう。それから、来週、昼間、時間があったら銀行に行ってクレカの家族カードを作ろう。あれ?入籍してなくても家族カードってできるのかな?・・・って早紀江、なに?泣いてんの?」

「だってさ、だってさ、昨日今日会った女の子にだよ、ベッド買おう、家族カード作ろうなんて言われたら泣くでしょ?うぇーん」
「だって、早紀江、ここまで来たらもうぼくらは夫婦だろ?」
「夫婦だって。夫婦なんて言われちゃったよ。うぇーん」

「まあ、いいから、いいから。え~っとね」とスマホをいじっている。「ほぉ、『住所が同じであれば、戸籍上では家族でなくても家族カードは作成できる』ってさ。なるほど。住民票を移さないといけないな。おっと『姓が違っていても家族カードを発行できる』って、こりゃあ便利だ。名字が同じじゃないか!これは可能ですね?」

「こんなにミノルに親切に扱ってもらって、私には提供できるものが私の体しかない!うぇーん」
「それだけでも十分です!」
「ミノルは私の体が目当てなのね!」
「ほら、お芝居楽しんでないで、早く食べよう!明日は早いんだから」
「ハイ、わかりました!ねえねえ?」
「なに?もう泣きやんだの?」
「あのさ、あのベタな『あなた、お帰りなさいませ。お風呂にしますか?お食事?それともわたくし?』というのをいつかやりたい」
「やれやれ」

「ところでね」
「うん?」
「直子ちゃん」
「ああ、直子ちゃん」
「わかっちゃったのよ」
「なにが?」
「私が女に今日なったのが」
「ゲホゲホ」さすがにむせたね?

「どうして?早紀江、なんか話したの?」
「違うわよ。超能力よ!彼女はね『下腹の子宮のあたり、丹田のあたりの放つ光がクッキリして見えます』って言うのよ。女になるとそうなるんだって」
「まさか?」
「本当よ!それで純子ちゃんが処女をなくしたその日にわかったって女将さんが言ってたわ。それだけじゃないのよ。美香さんもそうなの。美香さんも昨日、今日で尾崎さんに処女をあげちゃったんだって!信じらんない!でも、当たったのよ!」
「おいおい、尾崎さん、何やってんだ?でも、美香さんて、25歳だろ?それで処女だったんだ。まったく。でも、なんで?そんなことが?」
「女将さんが直子ちゃんと純子ちゃんは、代々の神社の娘だから、遺伝的なそういう能力が受け継がれているのかもしれないって言ってた」
「う~ん。この世界のすべてを人類が解明しているわけじゃないから、解明されていない現象の部分を、科学の常識で無碍に否定することはできないな」
「ミノル、女将さんも同じようなことを言ってたわ」
「彼女は偏見のない科学者だからな。当然そういうだろう」

「分銅屋、面白いね?」
「まあなあ、あの店、もっと変な人がいっぱい来るんだよ」
「まだ?」
「ああ、スーパーカミオカンデって知ってる?」
「ニュートリノの観測装置?」
「そうそう。その研究をしている小平教授とか。女将さんの指導をしてくれている森教授とか。自衛隊の少佐とか。順子と節子の親分の美久とか」
「順子さんと節子さんの親分って、ヤンキー?」
「ああ、元ヤンキーだけど、お茶大の理学部物理科3年生で理論物理を勉強しているよ」
「なんなの?あの店?」
「さあ。なんだろ?ぼくが尾崎さんに連れてもらって行った時にはぼくも面食らった」
「う~~~~~~、理解できない・・・・」

 ミノルのスマホが鳴った。「ミノル、電話だよ」「違うよ。タイマー」「まだ、なにか作っているの?」

「違うよ。今、午後11時51分。ぼくと早紀江が出会って、24時間経過しましたって音」
「あ!」
「早紀江、キミに出会えてうれしい」
「・・・ダメだあ。24時間、たくさんありすぎて頭がパンクしました!・・・ミノル、愛してます」
「ぼくも早紀江を愛してます」
「・・・寝ましょ?」

2017年11月19日(日)、ミノルと早紀江XI

 目を開けた。う~ん、見慣れない天井だよね。あ!ミノルの部屋だ!なんだなんだ!私はベッドの横を叩いた。いないね?いません。って、コーヒーの匂いがした。

「早紀江、起きた?おはよう」と向こうのキッチンからミノルが声をかけた。
「あなた、おはよう。おはようございます。え~、私、寝ちゃったの?」
「ああ、シャワーも浴びずにバッタリ。ちょっと飲みすぎちゃったかな?」
「大丈夫!バッチリ元気です。何時なの?」
「6時だよ」
「あら?新幹線、8時だっけ?」
「ああ、ここを7時にでようね」

 私は顔をゴシゴシこすってキッチンに行った。コーヒーメーカーにコーヒーがたっぷりできている。「クリーマーは冷蔵庫。砂糖はテーブルの上。キミのマグカップはこれだ」とマグカップを渡される。う~ん、大人になったんだからブラックかな?・・・まずいね。やっぱり、ミルクと砂糖を入れましょ。

「ミノル、シャワー、もう浴びたの?」とミノルの濡れた髪の毛を見て言った。
「ああ。二千年前に。あのね、ペストリーがレンジに入ってるよ」
「起こしてくれれば作ったのに」
「スヤスヤ寝ているお嫁さんを無理に起こせますか」
「・・・朝からね、ミノル、そういうジーンとすることをいうもんじゃないよ」
「キミは一日何回ジーンとくるんだろうね?それよりコーヒー飲んだらシャワー浴びなよ」
「チェッ!寝ちゃったんだ。しなかった」
「え?」
「1日5回だもん」
「朝からへんなことを言ってないで、ほら、あと1時間だからね」
「ハーイ、わかりました!」

 私はコーヒーをマグカップに注いだ。ミノルのカップが置いてあったのでテーブルに運ぶ。レンジからペストリーを皿に移してテーブルに持っていった。ミノルがプレーンオムレツを持ってきた。

「さ、食べて食べて」
「新婚さんだぁ・・・いや、違うな。普通、女性が朝食、準備するもんだろ?」
「どっちが準備してもいいじゃないか」
「ハイ、わかりました。いただきます」

 それからミノルにお土産はなにが良いと聞かれた。お父さんは何もいらない、体一つでおいでと言ったよと答えると「それはいけない。ちゃんと何かを買うんだ」と言い張る。この人、お土産マニアなのかしら?

「早紀江の家はシュウマイ好きかな?」
「うん、いつも買って帰るよ」
「じゃあ、崎陽軒のシュウマイを買おう。ベタだけど。東京駅で常温の『昔ながらのシウマイ』を買おう。冷蔵と真空パックはうまくない。賞味期限は当日だけどね。シュウマイ弁当買って新幹線の中で食べよう。早紀江、弁当食べる?」
「うん、新幹線に乗ると駅弁が無性に食べたくなるの」
「じゃあ、中央コンコースの祭りで選べばいいな。後は羊羹でも買うかな」
「ねえ、ミノルはお土産マニア?」
「なんで?」
「昨日も叔母様の家に持っていくお土産を騒いでいたじゃない?」
「誰かに何かをあげるのが無性にうれしくなる体質なのだよ」
「変なやつ」
「早く食べて、シャワーを浴びて着替えなよ」
「ハーイ」

 私はクィックシャワーして、ざっと髪の毛を乾かした。男性用のドライヤーって強力なんだね?知らなかったよ。シャワーから出るともうミノルはスーツに着替えていた。こいつ素早いじゃん!私もスーツに着替えた。

 昨日ミノルに渡されたICカードでチケットを買う必要はない。便利な世の中なんだなあ。日曜日の朝なので、常磐線は空いている。ミノルがドアの脇に立ったので彼の腕を取って手を握った。お~、これ、恋人つなぎってやつじゃん!18年間、やって見たかったことをなんと2日で次々としてます、私。次はなんだろ?

 東京駅で、シュウマイとお弁当を買った。私は何を買おうか迷っていると、ミノルはシュウマイ弁当をカゴに放り込んでいる。『昔ながらのシウマイ』を10箱買おうとしている。おいおい。

「ミノル!止め!ダメ!賞味期限当日のシュウマイを10箱買うバカがどこにいますか!食べきれないでしょ?」
「え~、面倒じゃん」

 こいつ、この方面では絶対に頭がおかしい。私はシュウマイを4箱に減らした。ミノルはなんか少なく見えると言って5箱にする。まあ、私が食べれば良いのか。諦めた。

 ミノルと一緒だと、私、太るかもしれないと思った。といいつつ、こぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当が私にウィンクした気がしたので、思わずミノルのカゴに入れてしまった。「ひとつで足りるか?」とか彼はバカなことを言う。さっき朝食食べたばかりじゃないの?

 ひかり503号のホームに行く。ICカードなのでどの車輌かわからない。ミノルは私の手を引っ張ってスタスタと歩いていく。いつも出張とか言っていたから慣れてるんだね。そう思って、自由席と思ったら9号車だった。グリーンなの?座席は12C、D。

「ミノル、静岡まで1時間だし、自由席もガラガラなのに」
「ああ、これは無駄遣いじゃないんだ。ぼくの職業に関係する。同じ車輌、同じ席。定点観測みたいなものだよ。尾崎さんも同じ」
「え?・・・何?諜報?」と私は小声で聞いた。
「そういうこと。監視されちゃあいないだろうが、そういうしきたりになってる」
「休日でも?」
「そういう彼氏を持ったのだ。これは諦めなさい」
「ハイ、了解いたしました」

 変な人生になりそうだ。興味深いね。だけど、なんで新幹線に乗るとお腹がすくの?私はこぼれイクラととろサーモンハラス焼き弁当をぱくついた。絶対、太る!明日からダイエットと運動しなきゃ。あれ?飲み物は?と思った。

 パーサーがワゴン販売でワゴンを押してきた。ふ~ん、自由席とは違ってすぐ来るのね?と思った。ミノルが呼び止めて、私にビールでいいか?と聞く。頬張っていたので私は黙ってうなずいた。

「スミマセン、彼女にプレミアモルツ。ぼくは山崎のミニチュアボトルを3本。ロックで。別のカップにウィルキンソンのソーダをお願いします」と注文した。あれ?パーサーさんが怪訝な顔をしている。

 ミノルが「えっと、聞き取れなかったかな?」と言うと彼女が、「いえ、スミマセン。この同じ席で同じご注文をされる方がおりましたので・・・珍しいご注文ですので・・・」と答えた。あれ?
 
「もしかしたら、失礼ですけど、尾崎さんのお知り合い?」と言う。胸の名札を見ると三國優子とあった。あれれ?キレイな人。なんでミノル関連は美人しかいないの!

「偶然ですね。尾崎は私の上司ですよ」
「あら?失礼いたしました」と彼女はあわてて私のビールとカップを手渡して、ミノルのウィスキーを作り出す。「そうですか。同じ食品会社の・・・」と言うとミノルが「ハイ、高砂食品です」と答えた。ふ~ん、なるほど。防衛省じゃないのね?

「ハイ、どうぞ」と言ってミノルにウィスキーロックとソーダのカップを渡した。ミノルがICカードで精算する。

「そうですか。尾崎と顔見知りの方でしたか。え~っと、三國さん。尾崎に言っておきますよ」
「よろしくお伝え下さい。また飲みましょうと言っておいて下さいね。では、失礼いたします」

 ミノルの袖を引いた。小声で「ちょっとぉ、パーサーさんもスパイなの?」と聞く。

「いや、違う。彼女は本当にパーサーで、尾崎さんと知り合いみたいだ」
「だって、尾崎さん、美香さんがいるんだよ?あんなキレイな人と知り合いで、また飲みましょうって親密じゃん!」
「尾崎さんは二股かける人じゃないよ。単なる飲み仲間じゃないの?」

「ミノル、あなた、キレイな単なる飲み仲間の女性の友達いるの?」
「ぼくはいません」
「う~、北千住に帰ったら問い詰めてやる!」
「いる証明はできるけど、いない証明はむずかしいんだぞ」

「なんか腹たってきた!イクラととろサーモンハラス焼き弁当、食べちゃうもん!」
「ぼくのシュウマイ、食べる?」
「もう!シュウマイも食べる!」
「太るよ?」
「食べ物をいっぱい女子高校生に与えておいて、太るよもないもんだわ!『動物に餌を与えないで下さい!』」
「キミ、動物?」
「女子高校生とはいえ、哺乳類の一種には違いありません!」

 時計を見るとまだ30分しか経っていなかった。う~ん。そうだ、そうだ。まだやりたいことがあった!

「ねえねえ」
「今度は何だ?」
「18年間でぇ~」
「18年間でやってみたいことがあったんでしょ?今度は何のお芝居をさせたいの?」
「あのね、二人共会社員でミノルが私の上司で新幹線で出張にいくのよ。今みたいに。それで、ミノルが私に車内でセクハラするわけ」
「やれやれ」

 私はミノルの手をとって太腿においた。「私のいやらしい上司はこうするの」「それで?」「ミノル!いやらしく手を動かさないとダメ!」「キミ、触ると発情するだろ?」「だから、私は発情しながらも拒否しようとする部下なの」「こうですか?」「もっと揉むの。それで股の付け根までいやらしく手を這わせるの」「こうだね」「そぉ。ア!ヤン!」「それで?」「『早紀江くん、感じてるのか?』ってミノルが言って、私が『人目があります。遠藤課長、お止め下さい!』と言うと『早紀江くん、人目がなければされたいと言うことなのかね?キミはイヤラシイ女なんだね』『ああ、課長、止めて!早紀江を辱めないで!』って言うけど、結局、出張先のホテルで体を奪われてしまうという」

「それ、キミのバンドの処女グループと見たAVのシチュエーション?」
「う~ん、これはあんまりやっても面白くないわね。イヤよ、イヤよ、ってやってみたかったんだけど、イヤじゃなくて、早くベッドに連れてってと思っちゃうから臨場感が薄いわ」
「気が済んだ?」
「ううん、発情だけが早紀江の体に残った!」
「やれやれ」

 静岡駅に着くと改札口でお父さんとお母さんが待っていた。これ同じ父親?もうミノルを満面の笑みを浮かべて、遠藤くん、遠藤くんと呼ぶ。お母さんもミノルをベタベタ触る。

 なんなの?まあ、確かに背は高いし、イケメンだし、政治家の息子で大学も大学だし、『ぼうえいしょう』ならブランド物なんでしょうけど。私は彼のブランドを知らないで知り合ったんですからね!・・・一昨日・・・

 ミノルもミノルよ。昨日の叔父様の家と一緒。ベラベラと嘘を平然とつく。こいつ、防衛省の技官とか言って、実は諜報関連じゃないの?とか思えてきた。

 家について、お母さんは本当に赤飯を炊いていた。なんなの?赤飯って、あからさまに私が女になったって話なの?この夫婦、高校3年生の娘が未成年なのに結婚するってのを自覚してるの?近所の人も来て、親戚も来ていた。勘弁してよ。

 それをだよ、ミノルは平気の平左で注がれるままにお酒は飲む、お父さんとか言い出して、結納はどういたしましょうか?こちらが先と思いまして、ぼくの実家はまだ知らせてません、いいえ、ご心配なく、早紀江ならウチの家族も大満足ですとかさ。家族同士の対面はこっちでやりますか?あ~、こいつ、そつがないじゃん!私はムカついたので、シュウマイをおかずに赤飯をバクバク食ってやった。

 酔っ払いの私の父親は、4WDを運転して、ミノルにお茶畑を見せる。早紀江は一人娘だけど、遠藤くん、気にしなくていいからね。煮ようと焼こうと好きにしてよろしい、だって。呆れ果てる。

 実家に戻って、ミノルが「早紀江を私のマンションに引き取りたいのですがお許しいただけますか?」なんて聞くと、「ああ、どうぞ、どうぞ。同棲っていうのかな?結構ですよ。生活費は送りますから」とか言う。「いえ、生活費なんていただけません。お心遣いだけありがたく頂戴いたします。それから、大学は私が責任を持って通わせます。卒業までは子供も作らないつもりです。学費?夫が持つに決まってます。援助はお断りいたします」だってさ。

 あ~、こいつら、私を抜きにしてどんどん話を進める。あげくに、入籍は先に。結婚式は静岡と横浜と2回ですかね?来年の卒業後にとか言う。まあ、話がうまく行っていいんだけどさあ。いいのかね?一昨日出会ったばかりの男女なんだよ?内緒だけど。やれやれ、ってミノルの口癖が移ってしまった。

 勝手にどんちゃんやり始めたので裏庭に行く。近所の中学校の同級生のアキちゃんがいたので誘った。

「アキちゃん、なにあれ?勝手に話が進んでるんだけど」
「いいじゃない、サキちゃん。羨ましいよ。私なんか彼氏できないもん。紹介してよ」
「私だっていなかったもん」
「なんでいなかったんだろう?サキちゃん、こんなに美人さんなのにね?」
「私、美人じゃないよ。昨日、今日、美人をたくさんみたもん」
「え?」
「こっちの話。ま、つまり、神様の思し召しなのかもね」
「そうか。私も神社さんにお参りしてみようかしら?」
「それは止めたほうが。変な巫女さんに会うかもしれないし」
「え?」
「あ、こっちの話」

「だけどなあ、あの小難しい遠藤のおじさんがはしゃいでるよ」
「なんだかなあ」
「私も東京に出ようかしら?」
「ああ、アキちゃん、大学どうした?」
「私はこっちの公立大学」
「そっか。でも、遊びに来なよ」
「行く行く。北千住なんだって?遠藤さん・・・って変だね。二人共同じ苗字で」
「それも運命なのかもねえ・・・」

「ねえねえ、彼に抱かれちゃったの?」
「ええ~、誰に聞いたの?」
「おばさんが言ってた。ウチの娘も女になったんだって」
「あ~あ。信じられない」
「ねえねえ、どうだったの?痛かったの?」
「それがさあ、最初から感じすぎて気を失った・・・」
「え~、痛くないんだ。私も誰かに抱かれたいなあ」
「確かに、癖になるかもしんない」
「そぉ?」
「うん、何度でもできちゃうよ」
「お熱いことだね。羨ましい」

 アキちゃんと座敷に戻った。ミノルの袖を引っ張って「もう、遅いよ。帰らないとダメでしょ!」と言った。日が沈んでいる。泊まっていけとか無茶苦茶言われるのを、明日、私も学校なのよ、ミノルも会社でしょ?と言ってタクシーを呼んでもらった。

 タクシーの中でミノルが新幹線を予約している。08:13発、09:09着のひかり634号だそうだ。ハイハイ、また9号車ね。12C、Dだね。

「早紀江、機嫌が悪いじゃないか?」
「別にぃ」
「ほら、なんかふくれてる」
「ミノルが調子いいし、私を抜きに話を進めるからじゃないの!」
「話がうまく進んで怒るやつがあるかい」
「なんか、ムカつくの」

 ミノルが。あ!そうだ、忘れていたとカバンをゴソゴソした。キーフォルダーを渡される「これなに?」「ぼくらの部屋の鍵に決まってるじゃないか?キミだけ早い時間に学校から帰ってきて部屋に入れないでしょ?明日から大宮の高校からぼくらのとこにもどってくるんだから。だから、部屋の鍵」

 私、急に機嫌が治った!我ながらすごく現金だ!
 
「それで、明日、また居酒屋のバイト?」とミノルが聞くので「うん、バイトしないと」と言う。なんだか気が進まない。ミノルと一緒にいたい。

「それ、休めない?」
「う~ん、どうかなあ?」
「一身上の都合があるので休みます、とか言えない?」
「なによ、一身上の都合って?」
「明日、残業しないで定時で帰るから、部屋に6時半には帰れる。それで、銀座に婚約指輪を見に行こう」
「ハ、ハイ?」

「婚約指輪を買いに行きますので、バイト休ませて下さいって言うのさ」
「早紀江、かんっぜんに機嫌が治った!休む!バイト、休む!」
「そおこなくっちゃ。じゃあ、明日は婚約指輪の日だ」

「ねえねえ、今晩、女子高生の体をを蹂躙して激しく犯してもいいからね!」
「あのさ、キミ、明日、朝、早いんじゃない?」
「あ、そっか。始業時間が08:40だからぁ、北千住から大宮だと・・・え~っと遅くても7時半には部屋を出たほうが良いね」

「ぼくは7時に出ないと」
「じゃあ、早紀江も7時に出る!」
「早すぎない?」
「ううん、途中まで一緒に行っちゃダメ?」
「問題ないよ」
「こういう具体的な話が同棲とか結婚なんだね?テレビドラマとかラブコメと違う!」
「普通、こんな細かい話は書かないよ」
「うん。でも、本当はこういうのなんだね。しみじみ感心したわ」
「変なやつ」

「でもさ、でもさ、東京駅着9時じゃん?この電車?」
「ああ」
「部屋に着くのが十時頃でしょ?だったら、6時に起きるとして、8時間あるよね?じゃあさ、じゃあさ、3回はできるじゃん?」
「え?今晩するの?火木日曜は休みじゃなかったっけ?」
「するのよ!なんか、もうジュンっとしてきた!それとも、準国家公務員は女子高生の体を貪りたくないのですか?」
「やれやれ・・・」


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雨の日の美術館 XII

雨の日の美術館 XIII

雨の日の美術館 XIV

雨の日の美術館 XⅤ

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