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雨の日の美術館 XIV

雨の日の美術館 XIV

2017年11月18日(土)、ミノルと早紀江Ⅷ

 私の部屋でミノルと二人で叔父様の電話を待っていた。7時にスマホの着信が。「もしもし、早紀江ちゃん?」と叔父様。「叔父様、スピーカーフォンにしていい?ミノルもここにいるんで」「おお、いいぞ」

「ひどい目にあったよ」と叔父様。
「え~、やっぱり反対されたのでしょうか?」
「違う、違う。兄貴に電話して、早紀江ちゃんと遠藤さんから聞いた話を一通りしたんだ。正直に。初体験の話もした」
「あら!」
「それで、兄貴はうんうんと聞いていて何もコメントしないんで、こりゃ怒ってるのかなと思って、遠藤さんもしっかりした方だし、ご実家だってちゃんとした家なんだから許してやってくれ、って言ったんだ。俺と愛子も迷惑かけたが、今はちゃんとやっているだろうって。そうしたらな」

 兄貴が言うのは、昨日も新聞や雑誌、ネットで最近の若者が結婚しないとか、草食系でレスだと言われているのを見て、気にはしてたんだと言うんだ。俺がそうだろう?そう思うだろう?と言うと、兄貴は、農業をやっている家の一人娘なんてもらってくれる男性も少ないだろうし、姉貴にも早紀江をそんなに厳しくするなって説教されたんだと。

「それで、もう愛子と俺みたいな昭和の時代でもあるまいし、このご時世でしっかりした男性がもらってくれるなら、俺は構わん、許すっていうんだよ」
「え?許してくれるの?あのお父さんが?」

「そうだ。お前のお母さんなんか、今晩でも連れてくればいいのに、って言っていた」
「じゃあ、何がひどい目にあったのよ?叔父様?」
「それがな、俺と愛子の話になってな。今の時代は良いが、お前の時代、女子大生の妹を孕ませやがって、大学も休学、あんなことになるなら、早めに言えば良いものを。バカモノ!とか今度は俺と愛子に攻撃が向いてきて、さんざん数十年前のことで説教を食らったんだ。まあ、いいんだ。いつもの話だ。だから、良かったな、早紀江。早速明日行ってやれ」

「叔父様、ありがとうございます」
「もしもし、遠藤です。私たちのことでご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありません」
「いいよ、いいよ。なあ、遠藤さん、親戚になるんだから、今度ゆっくりウチに来て話でもしようよ」
「わかりました。ありがとうございます。お伺いさせていただきます」

 あなた代わってと叔母様がでた。「サキちゃん、良かったね」「ハイ、お父さんがそんな簡単に許してくれるなんて思いませんでした」
「私も意外だったわ。ああ、それでね、明日は何時か連絡するのよ。静岡駅まで迎えに行くって言ってたわ」
「あ、スミマセン。遠藤です。朝の08:03発のひかり503号で09:02静岡着があるみたいですが、この時間でよろしいでしょうか?」
「ああ、ちょうどいいわよ。私もいつもそれを使うの。え~っとね、サキちゃん?」

「ハイ、叔母様」
「あのさ、どうせ、今晩泊まるんでしょ?」
「え?叔母様、何のお話でしょうか?」
「何をとぼけて。遠藤さんのマンションにあなたは泊まるんでしょ?泊まるのはいいけど、遠藤さんのご住所、聞きそびれたのでメッセしておいてね」
「あれ、泊まるのバレました?」
「何言ってんの。私だって、女子高生、女子大生の頃があったのよ。サキちゃんの行動パターンなんてお見通しよ。だから、泊まってもいいし、もう同棲でもなんでもしちゃってもいいけど、避妊だけはちゃんとしなさい。大学生で赤ん坊が産まれる苦労はあなたにして欲しくないから」
「ハ、ハイ。わ、わかりました。叔母様、わかるんですね?」

「あなたの血を分けた叔母よ。女子高校生なんて1日中、とんでもないことを考えているんだから。それも1ヶ月前からなら、もう毎日でも、って。わかるわよね?」
「ハ、ハイ。仰っしゃられるとおりです」

「面倒だから、産婦人科に行って、低用量ピルをもらってきなさい」
「わ、わかりましたです、ハイ」
「フフフ、私、昔を思い出しちゃって、姪っ子もそうかもねえ、なんて思ったらうれしくなっちゃったの。あなたのお母さんが赤飯炊いとくってさ。じゃあ、早速電話おかけなさい。遠藤さん、またね」
「わ、わかりました」
「遠藤さん、サキちゃんに振り回されないようにね。じゃあ」

 あれ?叔母様、私がミノルを振り回しているのがわかるの?叔母様は叔父様も振り回したのかしら?デキ婚って、叔母様から叔父様に迫ったのかもね?ありえる、ありえる。

 さっきも「あなた?私たちも人のことが言えませんものねえ」とか「そうでしょう?私たちなんか7歳差ですわよ?私が大学3年生の時にあなたが28歳だったじゃないですか?」とか、叔父様をチクチクして、叔父様からお父さんに説明させるように誘導していた節がある。お~、女は怖いわ。って、私もそうだ。

 しっかし、焦ったなあ。叔母様、ズケズケ言うなあ。お見通しなんだなあ。叔母様の時代でも女子高校生は1日中頭の中はセックスのことばかりだったんだ。だけど、1ヶ月前からじゃないですよ。今朝からですよ。

 ん?まあ、毎日ミノルに求めることになるのに変わりはないわね。低用量ピルってなにかしら?後で調べておこう。
 
「早紀江、叔母さんが『もう同棲でもなんでもしちゃってもいい』って、いやあ、もうぼくたち、別れられないぞ」
「ハイ、ミノル、その通りです。外堀も内堀も埋まってしまった大坂夏の陣の大阪城状態になりました。もう逃げられません。後悔してる?」
「フン、キミこそもうぼくのものだからね。気が変わってももう遅いよ」

「やったね!ミノル!」と私は彼に抱きついた。「早紀江、腰を押し付けてスリスリしないの!それよりぼくの住所を叔母さんに送って、静岡に電話をかけないと」
「了解!まずは静岡だね」

 実家のお父さんの携帯に電話すると、待っていたように即電話に出た。まずミノルに電話を代わったら、ハイ、ハイ言っている。私が代わると、話は愛子と叔父さんから聞いた。電話じゃ面倒だ、明日来るんだね?と言われる。ひかり503号で09:02静岡着?わかった。お母さんと一緒に駅まで迎えに行くから。みやげいらんから気を使わず金を使わず体一つで来なさいと言われた。じゃあな、ガチャン。いつもながら気が短い。

「ひぇ~、終わったぁ~」
「早紀江、叔母さんのスマホ番号教えて。連絡先のメッセ書いといたから」
「早いね。これよ」と私のスマホを見せた。
「よし、これでホントに終わった。新幹線予約しておいたから。キミのはこれだ」と専用ICカードを渡された。
「え~?なんでなんで?私のICカード?」
「いや、それは予備だから。ぼくは別のICカードを使う。職場は出張が多いんだよ。新幹線もよく使うんだ」
「ふ~ん、なんか私たち、考える前に行動してるね?」
「確かに。行動パターンでの相性はバッチリってことだな?」
「体の相性もね」

「ねえねえ、知ってる?知ってる?」
「知らない」
「あのさ、あのさ、今、7時半でしょ?私たちって出会ってからまだ19.5時間しか経ってないんだよ」
「信じられないな、1日経ってないのか?もう数週間一緒にいるようだぞ」
「でしょう?でしょう?」

「よし、じゃあ、行こう」とミノルは立ち上がって私のスーツケースを持った。「マンションに寄るより先に分銅屋に行って食事しよう。面倒だ。タクシーで行こう」

「え?ほんとに分銅屋に行くの?」
「うん、料理がおいしいよ。でも、言っておくけど、分銅屋は女子大生と女子高生、自衛隊と学者の巣窟だからな」
「え?誰だっけ?純子ちゃんと直子ちゃんと順子さんと節子さんと?」
「よく覚えているね?」
「ライバルになるような名前は女の子は記憶するのよ!スパコン並みに!」

「経営者は女将さんだ。吉川さん。今、物理学の博士課程の論文を書いてる」
「はぁ~?」
「早紀江が大学合格したら彼女はキミの大先輩になる」
「えぇ~?」
「土曜日はいつの間にか、近所の常連さんとか会社員は敬遠してこなくなったんだ。変な人間がいっぱいいるから。女子高生もキャーキャー言っているし」
「想像がつきません!」
「いけばわかるよ。普通の小料理屋だよ。さあ、行こう」

 その小料理屋、絶対普通じゃないよね?

2017年11月18日(土)、ミノルと早紀江Ⅸ

 ミノルが連れて行ってくれた小料理屋さんは、間口が三間ほどの小さな店だった。葦簀の簾が窓を隠し、食事処の提灯が下がり、居酒屋「分銅屋」の紺の暖簾がかかっていた。ミノルが暖簾をくぐって木の引き戸を開けた。

「いらっしゃいませ」という女性の声が聞こえた。萌黄色の和服に割烹着をした、三十代半ばぐらいの美しい女性がカウンターの向こうの調理場?板場?に立っていた。普通、年配の板前さんがいるよね?私は面食らった。

 入口すぐ左側には畳部屋の小上がり席があった。右側はIの字の調理場と六席のカウンター。左手奥は四人がけのテーブル席が三つ。

 女将さんと呼ぶにはまだ若いなあ。彼女が吉川さんね?キレイな人。

「あら、遠藤くん、いらっしゃい。噂好きの連中がみんな待っているわよ。彼女さんが同じ名字の遠藤早紀江さんね?」とミノルに声をかけた。

「女将さん、もう情報が回っているの?純子と直子だね?」「そうよ。ここでは個人情報保護法は圏外なの。電波通じないんだなあ」「まいるよなあ」「ほら、二人共、そこの小上がり席に行きなさい」

 畳部屋に入ると今朝会った純子ちゃんと直子ちゃんがいる。若女将風の和服姿の女性二人がいて、彼女たちが順子さんと節子さん?それで丸メガネのサングラスをかけたニヒルな男性が一人。ものすごく美人の女性が一人。

「ぼく、帰ろうかなあ」と部屋にいるみんなを見回してミノルが言う。確かに私たち、法廷に引き出された被告みたいだ。

「おい、色男、さっさと座れ。同じ遠藤さんの彼女もどうぞ座って。さあ、実、紹介しろ!」
「ええっと、みんな、彼女はぼくがお付き合いしている遠藤早紀江さん、高校3年生の18歳です」
「早紀江です。みなさん、よろしくお願いします」私はお手柔らかに、と思った。怖いよぉ~。

「私と直子に目撃されたのが運の尽きでしたね?遠藤さん?」と純子ちゃんが言った。
「まいるよなあ、純子ちゃん。女子高生というのはなんでこうも噂好きなの?」

 若紫色の和服を着た女性が「実さん、高校3年生の女の子をたぶらかしてなんてこと!」という。これはたぶん20歳とかミノルが言っていた順子さん?私よりもたった2歳年上なんて思えないくらい艶っぽいじゃん?普通、こういう女性だと男性はイチロコだよなあ。「私というものがありながら。あの夜の熱い行為はなんだったのかしら?私だったら二十歳だから3歳しか違わないし、お似合いなのに?」なんて言う。私はミノルを睨みつける。

「あら?順子姐さん、高校3年生だったら、早紀江さんと同い年の私でも良かったんじゃありませんか?私だって実さんから告白されてたんですよ?この浮気者!」彼女が節子さんかな?私と同い年?和服を着ると大人っぽく見えるのだろうか?ゴスロリじゃなくて、今度は和服を着てみよう。ミノルの腿をつねり上げた。

「二人共、遠藤さんを虐めちゃダメでしょ?早紀江さんは怯えているわよ。遠藤さん、早紀江さんにつねられてますよ?早紀江さん、二人の言うことは冗談ですから安心して下さい」と純子ちゃんが助け舟を出す。

「二人共ひでえなあ。早紀江が怖がってるじゃないか?怖がることはないからね、早紀江」とミノルが言う。

「あ!早紀江とか、呼び捨てにしてる!」と節子さん。「え?実さん、これから同棲なさるんですって?公務員が現役の高校3年生の女の子を自分の部屋に引き込んでいいわけなの?早紀江さん、実さんにいたぶられるよ。体をもてあそばれて捨てられるかもしれないんだよ。お止めなさい。でも、早紀江さんだけじゃないものね。公務員にたぶらかされるのは。美香さんだって、こんな」と丸メガネのサングラスをかけたニヒルな男性を指差す。「おっさんにたぶらかされたんだから。二人共止めたほうが良いわよ。この二人、ろくな職業じゃないんですから」

「ちょ、ちょっと、早紀江、紹介します。この人がぼくの勤務先の上司の尾崎技師。あれ?尾崎さん、この方は?」

「あ!お前会ってなかったっけ。彼女は比嘉(ひが)美香さん。25歳、建築設計事務所勤務。俺の今お付き合いをお願いしている人だよ」
「比嘉美香です。早紀江さん、私たち、新参者ですよ、ここでは」と美香さんに言われた。
「美香さんが?」

「そうそう、この前の日曜日に上野の美術館で尾崎さんに偶然お会いして、ここに連れてきてくださって、今日で2回目なんです。他の方はみんな長いお知り合いですけど」美香さんは仲間だな。優しそうだ。だけど、私とミノルがこの夏美術館で出会ったという話は嘘だけど、尾崎さんと美香さんの話はほんとうなのね?これは出来すぎているから話さないでおこう。

「早紀江、他の人の紹介を・・・」
「わかります。当てさせて。時任純子さんと直子さんは今日お会いしたでしょ?それで、えっと和服を来たこのキレイなお二人は、右が順子さん?左が節子さん?女将さんは吉川さん」

「遠藤くん、キミ、彼女に事前予習させたね?」と順子がニヤッと笑って言った。
「順子さんね、ぼくは名前と年齢をを教えただけです」
「なるほどね。さぁ。では、早紀江さんとの馴れ初めを答えたまえ」頼むからミノル、うまく説明して頂戴ね。間違っても昨日出会いました、なんて言わないでね。

 順子さんたちに虐められているミノルは放っておいて、私は優しそうな美香さんと話していた。いつの間に直子さんが飲み物を運んできた。「美香姉さん、早紀江姉さん、ほら、まずはビールでしょ?」と美香さんのグラスにビールをついで、私にグラスを押し付けてビールをついでしまう。

「直子さん、私、高校3年生。あなたのお姉さんと同じ。未成年だよ」と言うと「だって、純子ねえさんだって飲んでますよ、日本酒」と自分の姉を指差す。確かに。彼女、おいしそうに日本酒を飲んでる。そういえば同じ年の節子さんも飲んでる。う~ん。

「ヨーロッパではビールとかワインは飲料に適さない水よりも安全で、高校生だってみんな飲んでいるんだからいいじゃありませんか」と言う。なんか、この子、高校1年生のはずなのに大人びていて、私よりも年上みたいな感じだ。

「それよりも、美香姉さん、早紀江姉さん、昨日から今日にかけて人生を変えるようなことがあったでしょ?二人共。良かったですね」と恐ろしいことを言う。私だけかと思ったら美香さんもギョッとした顔をしている。

「ちょ、ちょっと美香さん、直子さん、女将さんのお手伝いしよっか?」と私は二人の手を引っ張った。二人の手を引いて、小上がり席の障子を閉めた。カウンター席に座る。女将さんがニコニコしていて、私たちを見ている。

「あの、直子さん、それわかるの?」と私は直子ちゃんに聞いた。
「見えますよぉ。下腹の子宮のあたり、丹田のあたりの放つ光がクッキリして見えます」

「美香さん、まさか、あなたも?私と同じに?」と美香さんに聞いてみる。
「・・・ええ、あの、その、昨日から今日にかけて」
「私も今日の早朝に・・・」と美香さんと目を見合わす。

 なんなの?なんでわかるの?直子ちゃん、処女の話をしてるんだよね?あてずっぽじゃなく?私一人だけじゃなくて、美香さんまで?

「悪いことではありません。美香姉さん、早紀江姉さんにとって素晴らしいことです」と直子。

「あらあら、直子ちゃん、お姉さん方を困らしてはいけません」と女将さん。
「女将さん、わかるんですか?これ?」と私は聞いた。

「私はわからないけど、巫女さんの直子ちゃんや純子ちゃんにこの方面の能力がある、というのは理解できる。夏目漱石のお弟子さんの寺田寅彦という物理学者、湯川秀樹先生、朝永振一郎先生たちも、現在までわかっている物理学の範囲外での理解できない現象というものは存在しうると否定していませんもの」確かにミノルの言うように普通の居酒屋の女将さんの答えじゃないね、これは。

 おおお!なんなの?この店。私はカウンターに突っ伏した。

「早紀江ちゃん、酔ったの?」と女将さんが聞く。
「飲んでないんですけど・・・いえ、ちょっと頭がオーバーヒートして・・・」
「だったら、お酒、飲みましょ?美香さんもどう?」
「ハイ!頂きます。私も脳みそを冷却しなくてはいけません!」

 女将さんが鳥取の銘酒、諏訪泉という日本酒をぐい呑みについてくれた。え?こんなお酒ってある?女将さんが冷やさないで室温で飲むのよ、なんて説明してくれて、しかし、これは!
 
「女将さん、美味しいです」
「いいでしょう?純米吟醸。おつまみは何とあわせようかな?まずは、牡蠣と白子の天ぷら、あん肝ポン酢、ほうれん草のおひたしでどうかな?」と言うと魔法のように目の前におつまみが現れた。え?いつ作ったんだろう?天ぷらなんてあげてなかったじゃん?

 畳部屋では順子さんと節子さんが酔ったのか、多少高笑いをしているのが聞こえる。女将さんが「直子ちゃん、このおつまみ、持っていって頂戴。それで、順子と節子の頭を殴って、和服の裾が割れてる、いい加減にしろ!と言って頂戴」「和服の裾が割れているのがわかるんですか?女将さん?」「見なくてもわかるわよ、あの二人なら」「ハイ、わかりました。ゴツンとやればいいんですね?」と直子ちゃんが畳部屋に行く。

 畳部屋から「痛ってえ。直子、痛えじゃないか!何しやがる!」という順子さんと節子さんの声が聞こえた。「女将さんから『和服の裾が割れてる、いい加減にしろ!』という伝言です!」という直子ちゃんの涼しい声が聞こえた。

「まったくねえ。元ヤンだからガサツで、まだまだだわ」と女将さんがため息をついた。え~、順子さんと節子さんってヤンキーだったの?わからん、この店はまったくわからない。

 美香さんはチビチビと美味しそうに日本酒を飲んでいる。頬がピンク色ですごい可愛い。25歳に見えないなあ。私もこうなりたい。

「美香さんはどうでした?今日の?痛かったの?」と小声で彼女に聞いた。こんなことを聞くなんて。私、酔ってる。
「最初、ちょっとだけ痛かったけど、後は、普通かな?」
「私、ぜんぜん痛くなかった」

 女将さんがカウンターから身を乗り出して小声で「面白そうな話ね。私も混ぜて」と言って私たちにお酌をした。「そうなのかあ。美香さんも早紀江さんも女になったのね。おめでとう。お赤飯炊かなくっちゃ!」なんでお母さんも女将さんもお赤飯を炊くのよ!うっすらシーツがピンクに染まっただけじゃん!

「純子がね、直子に言ったのよ。女になるって『オモチャ使ってもオ◯ンチンが入ったと同じようになるじゃないの?何が特別なの?』って。これ、あなたがたと同じ、純子が女になった時の話なの。直子、姉のもわかっちゃったのよ」

 そうしたら直子は『お姉さま、もしかして、避妊なさらず、生でやられました?精液が子宮に入ったとか?え?生でやられたんですね?はしたない!妊娠されたらどうなさるおつもりですか?』って。きわどい話ね。

 それで、直子曰くは、『処女を失くすの本当の意味は、精液があそこに入って、子宮がアクチベーションされたってことかもしれません』なんだって。

 あの子、高校1年生なのにどうしたらそういうことがわかるのかしらね?純子よりも直子の方がその方面の能力が高いみたい。バイトの巫女さんと違って、彼女たちは代々の神社の娘さんだから、そういう遺伝子みたいなものが伝わっているのかもしれないわ。

「だけど私は生物学はよく知らないけど、ありうる話かもしれないと思うのよ。処女の子宮に精液が入った時、何らかの相変化が起こって、それが神経系を刺激して脳に伝達されて、シナプスの構成が変わるとかありえる話かもって」

 これ、絶対、小料理屋さんの女将さんがスラスラ話す内容じゃないじゃん。大学の講師が話しているみたいだ。

「あの、女将さんは、吉川さんは、今、博士号取得中とミノルが言っていましたが?」と私は聞いた。
「うん、ここは順子と節子に任せて、いったんは諦めたんだけどね、研究職も悪くないかと思って」
「ミノルが言ってましたが。私、推薦入学の1次は通ってこれからなんですが、合格したら女将さんは私の先輩になるって」
「あら、そうなの?じゃあ、ここに居る三人はみんなリケジョなんだ」

「いや、私、建築学科なのでリケジョなのかな?」と美香さん。
「リケジョでしょ、美香さん」と私は言う。美香さんはおしとやかなんだよなあ。私と違う。
「そうかな・・・」

「早紀江さんは専攻はなんなのかしら?」と女将さんが聞くので「ロボット工学とAIを研究したいと思っています。ミノルの研究対象と同じみたいで、卒業したら私も防衛省に入るか?なんて言われてます」
「あら、面白そう。工学系ね」
「女将さんの専攻はなんですか?」

「私?私は天文学。宇宙物理の方面。理論物理で実験物理じゃないのよ」
「おおお!それって、シュワルツシルト半径とか研究しちゃうヤツですか?」と私。

「早紀江さん、よく知ってるわね。シュワルツシルト半径もいち分野かな。範囲が広いんだけど、私が研究したいのは、超新星爆発の際に発生するガンマ線バースト。超大質量の恒星が一生を終える時に、超新星になって爆発して、これによってブラックホールが形成され、ガンマ線バーストが発生するの。その仕組を知りたいなあって」なんなの?専門過ぎて、早紀江にはわかんないや。

「女将さん、ナショジオかなにかで読んだ記憶があるんですけど、超新星爆発だけではなくて、落雷、雷が発生する時に高エネルギーのガンマ線が生み出されていて、ガンマ線が崩壊する時に陽電子とニュートリノが発生するってありました。電子・陽電子の対消滅現象?それで、陽電子は反物質だから時間を逆行するのですよね?面白いなあと思って」と美香さん。

 え~、雷でも超新星爆発と同じ現象が起こる?そんなことに興味を持つ美香さんも変な人なのね?そうか。だから尾崎さんがお付き合いしようと思ったのか。あれ?私も人のことは言えないか?

 ミノルの部屋に私が転がり込んで同棲すると、ここのお店にもよく来るようになるんだろうなあ。そうなると、私ももっとどんどん変な人になっちゃうのかしら?

 手品みたいに料理が出てきて、その人がガンマ線バーストとか言っていて、美人の和服姿の二十歳と高校生の若女将がいて、高校1年生の真性巫女さんがおヘソの下の丹田のあたりの放つ光がクッキリ見えて・・・

 あれ?明日は静岡に行くんだったわね?ミノルを紹介に。来週はミノルの実家に。それで、私は婚約?同棲?結婚?・・・おおお!ちょっと、ちょっと!今、何時?十時?ミノルと出会って、まだ22時間?!こりゃ、ダメだ。もう、私、容量オーバーだよ。

 私はまたカウンターに突っ伏した。「ダメだあ。もう、私、容量オーバーだあ」

「あら、早紀江ちゃん、どうしたの?」と女将さん。
「あの、私とミノル、明日の朝、静岡の私の実家に行って、私の両親に会うんですよ。お付き合いと将来結婚をする了解をもらいに」
「え~、早紀江さん、いいなあ、いいなあ、それ」と美香さん。

「私の叔父様と叔母様が助けてくれたので、電話ではもう構わんと言われたんですが、いろんな事情で、話の展開が早すぎて、それでここにお邪魔したら、キレイな女性がいっぱいいるし、高校1年の女の子に見抜かれるし、それでガンマ線バーストで陽電子で脳を撃ち抜かれて、早紀江、容量オーバーです・・・」

「あらあら、じゃあ、こんな所でお酒を飲んでないで、早く帰りなさい。帰るって、もちろん遠藤くんのマンションよね?」と女将さんがスタスタと畳部屋の小上がり席のふすまを開けて「こらぁ!遠藤くん!明日は早紀江ちゃんの実家に行くんでしょ!こんなところで順子と節子に虐められて喜んでないで、さっさと早紀江ちゃんと家に帰りなさい!」と怒鳴った。

 美香さんが「早紀江さん、今度、私にその、あの、婚約とか同棲とか結婚の話を教えてください」と小声で言う。

「美香さん、連絡先交換しておきましょうか?」
「ええ、お願い。私、早紀江さんと違って小心者なの」
「美香さん、私もドキドキものなの。美香さんだけに教えちゃうけど、私とミノル、出会ってまだ22時間しか経ってないの」
「えええ?」
「今度、私も美香さんにご相談します」
「うん、そうしましょ。これも何かの縁です」
「まったく。人生、何が起こるかわからないですね」
「フフフ、だから面白いの。私もね、尾崎さんと出会って、まだ1週間経ってないんだもん」

 畳部屋の小上がり席からミノルが出てきた。私は部屋の中のみなさんに「今日は帰ります。あの、ミノルの部屋に転がり込むので、これからはちょくちょくこちらにお邪魔すると思いますので、よろしくお願い致します」と挨拶した。

 順子さんと節子さんが「いいなあ~、いいなあ~、私も同棲したいよぉ~。尾崎さん、今晩、尾崎さんの部屋にお邪魔してもよろしい?」とか言っている。美香さんが急に私の横に来て「順子さん!節子さん!それはいけません!」と言った。おおお!美香さん、本気で嫉妬してる!

 順子さんと節子さんに飲まされすぎてヘロヘロになったミノルがお勘定をして私のスーツケースを持ってくれた。

 お店を出てちょっと歩いたところで、私はミノルの腕をつねってやった。「痛い!早紀江、何するんだ!」

「ミノル、あなた、順子さんと節子さんにお酌されていっぱい飲んでデレデレしちゃって!本当に彼女たちと何もなかったんでしょうね?」
「ないです。ありません」
「ほんとに?」
「早紀江、ヤキモチやいてくれてるんだ?」
「もう、悔しい!今晩はあなたの過去の女性関係をすべて白状してもらいます!」

「え~?何もしないの?」
「白状して、私が納得すれば、女子高生の体をもてあそんでもよろしいです」
「わかった、わかりました。ちゃんと説明いたします」

「う~、まあ、いいや。そんなんで束縛してもしょうがない。じゃあさ、じゃあさ、今晩、ものすっごく愛してくださる?」
「わかりました。誠心誠意、ものすっごく愛させていただきます」
「何回?」
「5回?」
「足んないな・・・」
「やれやれ・・・」


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