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A piece of rum raisin - 第二ユニバース第9話 第一ユニバース、2010年

A piece of rum raisin - 第二ユニバース
第9話 第一ユニバース、2010年

登場人物:

●フランス、洋子関連
島津洋子(第二): 仏モンペリエ大学の法学教授、1952年生まれ、1986年34歳
ピエール:仏モンペリエ大学の洋子の同僚
ジョン :ピエールの友人の米国人。フランス外人部隊の退役軍人。
●アメリカ、ハワード&ニック探偵事務所(ジョンの紹介の探偵事務所)
ハワード:アイリッシュ系白人男性、身長180センチ
ニック :黒人男性、身長200センチ
マリー :秘書、白人金髪女性、日本語を話す、捜査情報収集
●アメリカ、NYPD、監察医務局
ノーマン  :NYPDの警視、森絵美の捜査担当
マーガレット:ニューヨーク市監察医務局監察医、医学博士、森絵美の捜査担当
●ビル・ゲイツ(第一、第二):マイクロソフト創始者
ビル・ゲイツ(第二):第一、第二での洋子たちの資金源。1955年生まれ、1986年31歳
●日本
森絵美  (第二ユニ):1979年21歳転移、1985年27歳の時NYで射殺、死亡
神宮寺奈々(第二ユニ):1979年21歳転移、1986年28歳の時絵美の記憶が転移、二つの人格
宮部明彦(第二ユニ):1970年12歳転移、1986年28歳
加藤恵美(第二ユニ):1978年20歳転移、1986年28歳

第1話
  誘惑、1986年10月10日(金)第ニユニバース
→ 森絵美殺害(1985年12月7日)の1年後
第2話
  転移、1986年10月11日(土)第ニユニバース
→ 森絵美殺害(1985年12月7日)の1年後
 第一ユニバース、2010年
第3話
  交代、1986年10月11日(土)第ニユニバース
→ 森絵美殺害(1985年12月7日)の1年後
 第一ユニバース、2010年
第4話
  デート、1986年10月11日(土)第ニユニバース
→ 森絵美殺害(1985年12月7日)の1年後
 第一ユニバース、2010年
第5話
  神岡鉱山、2025年9月8日(月)、第三ユニバース
  高エネルギー加速器研究機構、2010年5月11日(火)、第三ユニバース
第6話
  買い物、1986年10月11日(土)第ニユニバース
→ 森絵美殺害(1985年12月7日)の1年後
  第一ユニバース、2010年
第7話
  融合、1986年10月11日(土)第ニユニバース
→ 森絵美殺害(1985年12月7日)の1年後
第8話
  渡航、1986年10月12日(日)第ニユニバース
→ 森絵美殺害(1985年12月7日)の1年後
第9話
 第一ユニバース、2010年
第10話
  洋子、1986年10月20日(月)、モンペリエ、フランス、第ニユニバース
→ 森絵美殺害(1985年12月7日)の1年後

第一ユニバース Ⅰ、2010年

 ブラックホールに飲み込まれたものがホワイトホールへ向かって移動する際に通るトンネルのような領域のことをワームホールと言うが、実際に物質がブラックホールに飲み込まれたら、ブラックホールの潮汐力によって引き伸ばされる。ブラックホールに近づきすぎた恒星でさえ、その強大な潮汐力によって引き裂かれてバラバラになり、ブラックホールに呑み込まれてしまう。もちろん、生物が生き延びられることはない。その生物のデータを除いては。

 ブラックホールに飲み込まれたものが、同じ宇宙(ユニバース)にあるホワイトホールから出てくることもあるが、多元宇宙(マルチバース)世界の別の宇宙(ユニバース)にあるホワイトホールからも出てくるものがある。なぜか、多元宇宙(マルチバース)は、ブラックホールとホワイトホールの物質のやり取りによって、物質の総和を保ち、均衡しているようだ。そして、やり取りされるものは、物質だけではない。データもやり取りされているのだ。生物のデータすらも。

 そういった無数にあるマルチバースの中に、非常に近接した(つまり、その世界の様相が似通った)三つのユニバースが存在した。それらを仮に第一、第二、第三ユニバースと呼ぼう。無限に伸びる三つの時間線で、極小の地球という世界、その中で、西暦と人類が呼んでいる時間の1970年代後半から2025年頃までにさまざまなことが地球に起こる。

 第三と呼ばれる世界の2008年頃の日本で、東京大学宇宙線研究所主任研究員の小平一平博士と彼の助手の加藤恵美博士は、ニュートリノの研究に従事していた。彼らが気づき始めたのは、ある方向からのニュートリノの漸次的増大だ。その方向には、地球から150光年の距離を隔てて、ペガスス座IK星Aがあった。ペガスス座IK星Aの自転軸は観測によると地球を向いている。その角度のズレは0.5度である。

 ペガスス座IK星Aは、いつ極超新星爆発を起こしてもおかしくない恒星である。爆発が起こった時は、致命的な電磁波が発生する。その流出は自転軸に沿って、円錐状に角度二度でライフルの弾丸のように打ち出される。電磁波の中には、ガンマ線も含まれている。それらの電磁波が飛来する前に、爆発によって発生したニュートリノが飛来するという研究結果がある。

 小平と加藤は、ニュートリノの漸次的増大の統計データにより、ペガスス座IK星Aが極超新星爆発する可能性が第三の時間線の2021年から2025年の間と予測した。

 第三ユニバースの2008年9月、小平と加藤は、スイスとフランスの国境にある世界最大のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を有するセルン(欧州原子核研究機構)を訪問していた。そこには、偶然、日本のKEK(高エネルギー加速器研究機構)とJAXA(宇宙航空研究開発機構)から派遣された宮部明彦博士、森絵美博士、湯澤研一博士も滞在していた。広報担当として、日経サイエンス契約ジャーナリストの岬麗子も同道していた。セルンで彼らを迎えたのは、主任研究員の島津洋子博士とアイーシャ・ジャヤワルダナ博士だった。

 彼ら八人がセルンの島津のオフィスで、LHCの始動に祝杯をあげていたその時、溶接漏れからのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)のヘリウム流出事故が発生した。超伝導状態が維持できなくなり、クエンチが起こった。制御不能の大量のガンマ線と陽電子が流出した。既に、5TeVエネルギー(5兆電子ボルト)相当まで電流を上げていたLHCがニュートリノ、陽電子、ガンマ線をどの程度が放出してしまったのか、放射線検出器が飽和状態になってしまったので、未だにわからない

 その時、偶発的に第三と第一を結ぶワームホールを通って、彼らの部分的な記憶データが、第三から第一へと、逆に、第一から第三へと移動した。この奇妙な現象に興味を持った湯澤とアイーシャは、人為的に記憶データを他のユニバースに送信する方法を研究し始めた。

 その研究で、第一と第三の時間線は、第三が二十五年先行している(つまり、第三が2025年の時、第一はまだ2000年)こと、第一と第二はほぼ同じ時間線であることが判明した。つまり、彼ら八人の記憶データを第一の彼ら(類似体と呼ぼう)に送信できれば、第三よりも二十五年遅れている第一で、極超新星爆発によるガンマ線バーストでの種の大量絶滅を防ぐ対策を立てられるのではないか?と小平は考えた。

 2015年、不完全ながらも湯澤とアイーシャの記憶転移装置は完成し、密かにKEK(高エネルギー加速器研究機構)に設置された。まだ、ガンマ線と陽電子のエネルギーが必要なために、KEKの加速器が必要だったのだ。

 ワームホールの特性として、記憶データは未来には送信できないのがわかった。タイムパラドックスを防止する何らかのロジックが宇宙にはあるのだろう。しかし、未来にデータを送信する必要はない。ただ、不完全な記憶転移装置は、過去のどの時点への送信かの制御はできない。

 2015年、彼らは前回の偶発的な部分記憶転移ではなく、彼らの類似体への全記憶転移を実行した。宮部の転送は、彼が十二才の1970年に、加藤は二十才の1978年に、森と島津は、彼女らが二十一才、二十八才の1979年に、小平、湯澤、アイーシャは、彼らの三十三才、二十二才の1981年に起こった。第三と第一では、生年月日が異なっていたのだ。しかし、80年代から数えて、極超新星爆発が起こるであろう2025年頃まで四十年以上の時間がある。問題は、80年代、90年代では、加速器や転移装置を製造する半導体技術が成熟していないことだった。

 宮部は、第三の歴史を元に、米国株式市場でグループの資金を稼ぐために株投資を行った。90年代から2000年代にかけて、株が最も高騰するのは米国IT市場である。マイクロソフトやデルは株式公開時の株価から六百倍から千倍にもなった。株式分割などのデータを利用して、第一のグループは、2000年代には数兆円の資産を持つことができた。もちろん、この資産は、第三や第二には送れないのだが。

 第一では、1986年のマイクロソフトの株式公開時から、創業者のビル・ゲイツに接触していた。記憶転移という理由は明かさなかったが、彼らの指摘により、マイクロソフトは驚異的な成長をしていった。そして、ビル・ゲイツとの交流で、彼らは、彼らのガンマ線バーストを阻止するという計画を妨害する組織の存在を知った。太古の昔から、偶発的な記憶転移で組織化されたその集団を仮に『NWO(新世界秩序)』と呼ぼう。

 その頃、湯澤は、改良型の記憶転移装置のデータを解析していた。そして、第二はどうなっているんだろう?と思い、記憶データが同調できる個体、類似体を探っていた。すると、宮部、森らしい個体も発見できた。第二の1986年頃だ。

 しかし、第二の時間軸でいくと、絵美はこの時点では死亡しているはずだった。死んでいるはずの森が生きている。そして、第二の森は、ニューヨークで『NWO(新世界秩序)』をFBIのアシスタントという立場で調査していたのだ。第二の森がNWOの実態を調べ上げることができる、という可能性に賭けて、森、加藤、湯澤は、第一から第二への記憶転移を実行した。

 第一では、森絵美博士、加藤恵美博士、宮部明彦博士が羽田空港にビル・ゲイツの出迎えに来ていた。ビルのプライベートジェットは、19人乗りのボンバルディア、BD-700グローバル・エクスプレスである。航続距離が11,130kmあり、地球の裏側へでも1回の燃料補給で到達できる。彼の自宅のあるワシントン州から東京まで八千キロ弱だが、ハワイに立ち寄ってきたようだ。

 ケチ(いい意味で質素)のビル・ゲイツは、プライベートジェットの購入について『後ろめたい喜び』であり『大きな散財』と言っている。まあ、あのケチが四千万ドル払って買ったのだから、確かに散財だわね、と絵美は思った。

 ビル・ゲイツは長身のような印象を持たれるが、それは細身のためであって、身長は178センチだ。日本との縁は深い。株式公開前、㈱角川アスキー総合研究所、通称ASCII社との提携も行っていた。旭日大綬章、立教大学と早稲田大学より名誉博士を贈られている。

 80年代のパソコン草創時の日本市場の重みは2000年代以降と比べ物にならなかった。彼の初期資産のかなりの部分は、日本市場からの売上で形成されている。ケチであるが、若い頃からアフリカなどの新興国の貧困化対策にかなりの寄付をしている。大小便から飲料水を製造する、などというプロジェクトに億円の出資もしている。

 そういった彼が。若い頃から密かに興味を持っていたのが、コンピューター部門ではなく、生まれ変わりとか、輪廻転生だった。その密かな研究の過程で、彼は太古から生まれ変わり、転生で続いている集団があることに気づいたのだ。それは、一般に流布されているイルミナティーとかフリーメイソンとは毛色が違っていた。

 ある時、絵美たちはビルと雑談をしていて、彼のこの密かな興味の内容を知ったのだ。一般に流布されている『新世界秩序』とは異なるが、彼の言う『NWO(新世界秩序)』は、絵美たちのガンマ線バースト防止計画に干渉する可能性が高いということだった。

 そして、この『NWO(新世界秩序)』の調査をしていたのが、なんと80年代に殺害されてしまった第二の森絵美だったのだ。そして、第二の森絵美は、赤の他人の脳に偶発的に記憶転移してしまったのだ。

 ビルを絵美たちの研究所に案内した。絵美たちは、ネット通話では話せなかった内容だったので、この依頼の経緯を詳しくビルに説明した。第二のビルに絵美(実際は奈々)やメグミたちに資金提供をして欲しいという依頼だ。その代わりに、ビルに記憶転移装置を見せよう、という条件だ。

 ビルは快諾した。自分の密かな興味の対象である生まれ変わりや輪廻転生の謎が、絵美たちの記憶転移装置で明らかになるかもしれないし、『NWO(新世界秩序)』の調査も進むだろう。三百万ドルなど安いものだ、とビルは思った。こういう時はケチじゃないわね、と絵美は思ったが、まあ、第一の自分ではなく、支払うのは第二のビルなのだ。

「この機械は、危険だな。同一ユニバースでの転移は試みたことがないのかい?」とビルが聞いた。
「ビル、そんな危険なことを。いくら、記憶だけの転送だと言っても、未来の知識を過去の誰かに送信する、或いは自分自身に送信することで、タイムパラドックスでも起こったらどうするの?世界はムチャクチャになるわよ。別のユニバースだから、パラドックスの危険性は低く、極超新星爆発という全地球的な事件の防止だから、止むなく記憶転移をしているのであって、そうでなければ、ユニバースの改変なんてしないわよ」と絵美が奮然と答えた。
「確かにそうだな」
「だから、奥さんのメリンダにも内緒よ。ゲイツ財団とかマイクロソフトにも明かせないし、技術開示もできないのよ」
「しかし、これをいつまでも秘密にはできないだろう?NWOが嗅ぎつけたらどうする?」
「そこが頭の痛い所なのよね」

第一ユニバース Ⅱ、2010年

 絵美は前から疑問に思っていたことをビル・ゲイツに聞いた。「ねえ、ビル、私、前々から理解できないのが、私たちは、ガンマ線バーストによる地球の生物種の滅亡をどうにか阻止しようとしているでしょう?それは、あなたの言うNWO(新世界秩序)だって、地球の生物種が滅亡したら問題じゃない?なぜ、NWOは私たちの行動を妨害しなければならないの?」

「それは、絵美、NWOがイルミナティーとかフリーメイソンとかの組織のようだったら、確かにそうだ。しかし、ぼくの言うNWO(新世界秩序)は、そういう陰謀組織などとは違うんだ。彼らの本部はどこにあると思うかね?」
「どこなの?国連ビルとか?」

「違う。王立ベスレム病院 (Bethlem Royal Hospital)にあるんだ」
王立ベスレム病院 (Bethlem Royal Hospital)

「王立ベスレム病院?」
「ああ、王立ベスレム病院だ。通称はベドラム(Bedlam)。イギリスにある世界で最も古い精神病院の一つだ。ベツレヘム病院 (Bethlehem Hospital)とも呼ばれている。宗教的な名前だろう?英語では『bedlam』という単語は精神障害者の保護施設一般を指す言葉として使われていて、『騒ぎ』や『混乱』を意味するようになった」
もちろん、王立ベスレム病院の経営陣はNWOのことなど知りはしない。英国王室もほぼ無関係だ。しかし、この病院を隠れ蓑として、NWOは活動している。それから、英国の次の拠点はどこだと思う?」

「どこでしょう?アメリカじゃないの?」
「実は、NWOの第二の拠点は、ここ日本なんだ。その次がインド、そしてブラジル」
「なぜ、日本が?」
「日本が保有する精神科病床数は三十五万床。全世界の精神科病床数の五分の一に相当する。世界一だ。続くのは、インドとブラジルだ」
「なぜ、精神病院がNWOの拠点になるんです?」
「なぜなら、記憶転移と似たような症例が起こるのは多重人格、つまり、
解離性同一症だからだよ。解離性同一症の患者すべてではない。その患者の中に、記憶転移が起こった人間が含まれているはずだからさ」
「NWOは、記憶転移が起こった人間を集めている、ということ?」

「そうだ。この話は、キミのところの小平先生とずいぶん話し合ったことだ」

「有史以来、ガンマ線フラッシュの発生による記憶転移が起こったのは、2008年のキミらだけではない。落雷でもガンマ線フラッシュと陽電子の生成は起こるのだから、われわれが考えている以上にこの現象は頻繁に起こっているはずなんだ。ただ、それが、デジャブ(既視感)とかアプリオリ(
先験的、先天的)とかで誤解されているが、そういった小規模の記憶転移も含めて、かなりの転移が起こっているということだ。生まれ変わりとか輪廻転生という現象の一部もそうだろう」

「有史以来、類似のことがいくども起こったと仮定しよう。例えば、モーゼに記憶転移が起こったとしよう。旧約聖書の出エジプト記には、モーゼはイスラエル人たちを『雷と稲妻が走る炎と煙に包まれた山に案内する』と記述がある。その中を予言者モーゼは神から十戒を受けるために頂上まで登っていった。『雷と稲妻が走った』だろう?諸君らも『雷と稲妻が走る』中、自然現象として記憶転移が起こっただろう?モーゼがシナイ山にいた時に稲妻によるガンマ線フラッシュが起きなかったわけでもあるまい?」

「あるいは、新約聖書のマルコによる福音書にも雷の話がある。イエスは彼の使徒に言われた、『よく聞いておくがよい。神の国が力をもって来るのを見るまでは、決して死を味わわない者が、ここに立っている者の中にいる』。六日の後、イエスは、ただペテロ、ヤコブ、ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。ところが、彼らの目の前でイエスの姿が変り、その衣は真白く輝き、どんな布さらしでも、それほどに白くすることはできないくらいになった。すると、エリヤがモーセと共に彼らに現れて、イエスと語り合っていた。ペテロはイエスにむかって言った、『先生、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。それで、わたしたちは小屋を三つ建てましょう。一つはあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために』」

「そう言ったのは、みんなの者が非常に恐れていたので、ペテロは何を言ってよいか、わからなかったからである。すると、雲がわき起って彼らをおおった。そして、その雲の中から声があった、『これはわたしの愛する子である。これに聞け』。彼らは急いで見まわしたが、もはやだれも見えず、ただイエスだけが、自分たちと一緒におられた」

「どうだね?モーゼもイエスも雷、稲妻から未来記憶を得たとしたら?モーゼやイエスに限らない。悪魔崇拝者にとって、稲妻はサタンの象徴だ。秘密結社のイルミナティは『光を与える者ルシファー』を象徴するものとして稲妻を利用する。カバラの生命の樹の象徴は稲妻だ。異教の神秘宗教では、最高神が『稲妻や雷を伴って空を飛ぶ蛇』として描かれることがあった。ギリシア人とローマ人は、稲妻と雷を発する天の王座に座る、怒れる神々ゼウスとジュピターを崇拝していた。稲妻のシンボルを現代において復活させたのは、ナチスだった。ナチスの収容所で働いていた医師は、円形の中に稲妻が入ったシンボルを着用していた。秘密結社のイルミナティは、男根のシンボルを稲妻と同一視した。その起源は密教にあった。密教では、稲妻は、男根の形をした杖、宝石、リンガム(ヒンドゥー教のシバ神の象徴として崇拝される、男根をかたどった長円型の石) 、魔法の杖であると教えられた」

「さあ、絵美、これらのことをどう解釈するかな?」

「う~ん、ビル、考えさせて。まず、記憶転移には四つの種類がある」

 1)同一ユニバースの同一人物に起こる場合、
 2)同一ユニバースの異なる人物に起こる場合、
 3)異なるユニバースの同一人物(類似体)に起こる場合、
 4)異なるユニバースの異なる人物に起こる場合、

「それぞれで、未来の記憶が過去に転移する、或いは、過去の記憶が未来に転移するので二倍の八パターン。私たちのやっているのは、三番目のパターンの未来の記憶が過去に転移することを人為的にしている。今回の絵美の記憶が奈々に転移したのは、ニ番目のパターンの過去の記憶が未来に転移したという偶発的な事件」

「モーゼスやイエスに起こったのは、たぶん、絵美と同じニ番目のパターンの過去の記憶が未来に転移したのかなのか、ニ番目のパターンの未来の記憶が過去に転移したのか。これは判然としない。或いは、一番目の同一ユニバースの同一人物に起こったことかもしれない。しかし、旧約聖書や新約聖書を読む限り、彼らが未来のことを知っているとは思えない。だから奈々と絵美に起こったことと同じなのだろうと思うわ」

「私も同じ意見だ。モーゼスやイエスに起こったのは、同一ユニバースの異なる人物に過去の記憶が未来に転移したのだと思う。同じような現象が多く起こったのだろう。だが、多くのそういう現象は、精神異常と片付けられた」

「奇跡的にモーゼスやイエスの事例が生き残り、新しい宗教となったのだ。それから、ユダヤに限らず、メソポタミアでもインドでも同じようなことが起こった。だんだんと、この教団は、過去から未来への記憶転移を学んでいったんだ。そうして、教団自ら記憶転移が起こった人間を探すようになった。中には、未来から来た記憶の転移もあっただろう。チベット仏教のダライ・ラマのように、記憶転移が起こった人間を探して、教団の中枢部に据えるようになった」

「彼らは、独自の宗教体型を作り上げていった。そして、輪廻転生したものを探せ、多重人格者を探せ、そのものたちを組織に迎え入れろ。育成しろ。知識を共有しろと。彼らの団体は、社会の闇深く潜伏した。科学者、神秘論者、錬金術師、ある宗教で異端とされた宗派など正統派宗教や社会などの粛清から逃れる人たち、団体と親交を結んでいった。何百年、何千年もかけて、新たなメンバーを吸収し力を蓄えていった」

「それが私の呼んでいる『NWO(新世界秩序)』なんだ。さて、それで、絵美の最初の疑問に戻ろう。『なぜ、NWOは私たちの行動を妨害しなければならないのか?』だ。彼らは、偶発的な記憶転移者からなる集団だ。偶発的な、奇跡のような記憶転移のみを信奉する」

「そこで、キミら科学者が、偶発的でない人為的な記憶転移を起こし始めた。どこで、どう知ったのか、それはわからない。セルンである可能性が高い。あそこもNWOの巣窟だからね」

「人為的な記憶転移は、彼らの宗教、彼らの信奉するものを破壊するものだ。だから、彼らの宗教にかけて、キミらの動きを排除するのだ。たとえ、それが全地球の生物種の絶滅につながろうとも。彼らの自然を乱す動きとして、絵美、キミら、そして、ぼくやぼくと同じ考えを持つ人間を排除しようと考えるのだよ。彼らは清く滅びの道につながっているなら、潔く滅びよう、と考えているのだ」


第8話 渡航、1986年10月12日(日) 第ニユニバース

第9話 第一ユニバース、2010年

第10話 洋子、1986年10月20日(月)、モンペリエ、フランス、第ニユニバース


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