キッツ

英日翻訳者兼ライター。朝日新聞社主催Reライフ文学賞入賞。埼玉文芸賞エッセイ部門入賞。…

キッツ

英日翻訳者兼ライター。朝日新聞社主催Reライフ文学賞入賞。埼玉文芸賞エッセイ部門入賞。プロレス翻訳、メルマガ作成を中心に活動中。NY10年在住を経て現在は埼玉在住。尊敬する作家は森博嗣。死ぬまでに会いたいレスラーはケニー・オメガ。

マガジン

  • 現代イランの絵本に触れる

    東京都板橋区成増駅にある「Cafe & Gallery Patina」で開かれた、「アリババと40人の盗賊」原画展の様子を紹介しています。普段なかなかお目にかかることのないイランの絵本。普段とは一味違った絵本の世界を覗いてみませんか?!

  • コロナ禍の黄色いバスの運転手・インタビューfrom USA

    コロナパンデミックの中、アメリカはNY州でスクールバスの運転手になったボリス・クルシンさんにオンラインインタビューを行いました。数回に渡り、インタビュー記事を掲載していきます。

  • 森博嗣【スカイ・クロラシリーズ考察】

    森博嗣『スカイ・クロラシリーズ』の考察です。 僕は誰か?世界観など、10項目に渡り考察しています。ご意見・感想、お待ちしております!

記事一覧

固定された記事

埼玉文芸賞入賞エッセイ「仕事と尊厳」

先日、埼玉文芸賞のエッセイ部門で入賞しました。その作品を掲載します。 ***  アメリカンドリームを叶えるために家族を連れて移住したが、期待していた職には就けず…

キッツ
1か月前
10

異国情緒を味わう ~優しい味のイラン料理専門店・ぺドラム~

「イラン料理の専門店」というのはとても珍しい。 ざくっとまるまるアラブ料理として、ペルシャ料理、トルコ料理、モロッコ料理あたりを一緒に出す店はときどき見かける。…

キッツ
1年前
7

絵本でイランの今に触れる~「ノホディとかいぶつ」(イランの昔話)

ひよこ豆から生まれた女の子(ノホディ)が、自分たちを食べようとした怪物(ディーヴ)を退治するーー。 それが「ノホディとかいぶつ」だ。 再話・翻訳の家愛甲恵子さん…

キッツ
1年前
9

絵本でイランの今に触れる~「2ひきのジャッカル」1000年以上前に生まれたおはなし

これは、1000年以上むかしに作られた話である。 西暦8世紀なかばに生まれた物語集「カリーラとディムナ」におさめられている「ライオンと牛」という話をベースに書き上げ…

キッツ
1年前
6

絵本でイランの今に触れる~「アリババと40人の盗賊」アラビアンナイトのおとぎ話

「ひらけ、ゴマ!」 誰しも一度は聞いたことのあるこのフレーズ。 英語では「Open sesame!」。 ズバリそのものだ。 この有名なフレーズが出てくるおとぎ話が「アリババと4…

キッツ
1年前
11

絵本でイランの今に触れる~4「ボクサー」ブラチスラバ世界絵本原画展グランプリ受賞作品

その絵本のタイトルは「ボクサー」。 絵本の、しかもイラン人が描いた物のタイトルが、「ボクサー」? 正直どういうストーリーなのか想像がつかない。 まずもって「イラン…

キッツ
1年前
3

絵本でイランの今に触れる~3. ペルシャ語翻訳家「愛甲恵子」さん~

どんなマイナーな言語にも、翻訳家がいらっしゃる。イランで話す言語はペルシャ語。そのペルシャ語を専門に絵本の翻訳をされているのが「愛甲恵子(あいこう けいこ)」さ…

キッツ
1年前
8

絵本でイランの今に触れる~ 2.「アリババと40人の盗賊」原画展~

白い壁に「アリババと40人の盗賊」の原画が並ぶ。 ナイゲス・モハンマディ(Narges Mohammadi)さんというイラン人女性が描いた作品だ。 1978年(僕と同じ年!)イランは…

キッツ
1年前
7

絵本でイランの今に触れる~1. Cafe & Gallery Patina in 成増~

東京の最高気温39度を記録する8/2の午後、「アリババと40人のとうぞく原画展」に行ってきた。場所は都内某所で開催されているという。 東武東上線と地下鉄有楽町線が乗り…

キッツ
1年前
6

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<歴史と車体>from USA

NY州在住・スクールバスドライバー・ボリスさんのオンラインインタビュー記事の最終回です。今回はスクールバスの歴史、車体の色の意味などに迫ります! ――日本では、学…

キッツ
2年前
2

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<男女平等社会>from USA

――前回のインタビューで、スクールバスは子供が学ぶ権利のために存在するのだということを改めて認識しました。そのためにスクールバス会社は地区(District)に所属し、…

キッツ
2年前
8

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<ドライバーの給料>from USA

NYのスクールバスドライバー、ボリス・クルシンさんのオンラインインタビュー第3段です。前回(子供の置き去り事故)と前々回(パンデミック禍での大型免許取得)の記事も…

キッツ
2年前
7

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<真夏の置き去り事故>from USA

NY州でスクールバスの運転手をされているボリス・クルシンさんのインタビューNo.2です。前回のインタビューはこちら。ボリスさんのプロフィールはこちら。 ――アメリカの…

キッツ
2年前
2

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<パンデミック下での大型免許取得>from USA

アメリカ、NY州在住のボリス・クルシンさんにオンラインインタビューを行いました。(ボリスさんのプロフィールは前回の記事をご参照ください) コロナ禍のアメリカで、黄…

キッツ
2年前
4

森博嗣、スカイ・クロラシリーズ考察  =おまけ=

最後に、細かな部分の解釈について、僕の考えをまとめます。 「猫が三匹」(スカイ・クロラ)という表現 トキノとササクラの間での暗号。「今のクサナギはカンナミ人格だ…

キッツ
2年前
7

森博嗣、スカイ・クロラシリーズ考察(10)何故難解なのか

スカイ・クロラシリーズは、何故難解なのだろう。 Amazonなどのレビューにも、よくわからない、淡々としているだけ、だからなに?といった類の書評が上がっている。せっか…

キッツ
2年前
3
埼玉文芸賞入賞エッセイ「仕事と尊厳」

埼玉文芸賞入賞エッセイ「仕事と尊厳」

先日、埼玉文芸賞のエッセイ部門で入賞しました。その作品を掲載します。

***

 アメリカンドリームを叶えるために家族を連れて移住したが、期待していた職には就けず、三年間無職であった。その間に妻と十八歳の娘、十五歳の息子はバイトを見つけ働き始めた。

 旧ソ連出身のパイロットでいくつもの学位を持つエリート。アメリカに移住すれば、より大きな飛行機を操縦し、家族全員で豊かになるはずだった。

 

もっとみる
異国情緒を味わう ~優しい味のイラン料理専門店・ぺドラム~

異国情緒を味わう ~優しい味のイラン料理専門店・ぺドラム~

「イラン料理の専門店」というのはとても珍しい。

ざくっとまるまるアラブ料理として、ペルシャ料理、トルコ料理、モロッコ料理あたりを一緒に出す店はときどき見かける。しかし江古田駅にある「ぺドラム」は、イラン料理だけを扱うレストランなのだ。

最近イランの絵本のレビューをいくつか書いてみた。イランという日本ではあまり馴染みの薄い国で書かれた絵本を読んでみて、イランの面白さを再発見した。同時に、ニッチな

もっとみる
絵本でイランの今に触れる~「ノホディとかいぶつ」(イランの昔話)

絵本でイランの今に触れる~「ノホディとかいぶつ」(イランの昔話)

ひよこ豆から生まれた女の子(ノホディ)が、自分たちを食べようとした怪物(ディーヴ)を退治するーー。

それが「ノホディとかいぶつ」だ。
再話・翻訳の家愛甲恵子さんの解説によると、「ノホディ」は小さい者の代表のような存在で、話によって男の子にも女の子にもなるとのこと。一方「ディーヴ」はペルシャ語で言うところの怪物で、物語によって姿かたちを変えつつ悪役を担う者であるらしい。日本の「鬼」のような存在だろ

もっとみる
絵本でイランの今に触れる~「2ひきのジャッカル」1000年以上前に生まれたおはなし

絵本でイランの今に触れる~「2ひきのジャッカル」1000年以上前に生まれたおはなし

これは、1000年以上むかしに作られた話である。
西暦8世紀なかばに生まれた物語集「カリーラとディムナ」におさめられている「ライオンと牛」という話をベースに書き上げられたそうだ。

8世紀というと、日本は奈良時代。聖武天皇が大仏を作り、国内初の法令文章「大宝律令」が完成した頃。中国は唐と呼ばれ、かの有名な楊貴妃がやりたい放題やっていた。

西アジアではイスラムが勢力を拡大し、ヨーロッパではフランク

もっとみる
絵本でイランの今に触れる~「アリババと40人の盗賊」アラビアンナイトのおとぎ話

絵本でイランの今に触れる~「アリババと40人の盗賊」アラビアンナイトのおとぎ話

「ひらけ、ゴマ!」
誰しも一度は聞いたことのあるこのフレーズ。
英語では「Open sesame!」。
ズバリそのものだ。

この有名なフレーズが出てくるおとぎ話が「アリババと40人の盗賊」。アラビアンナイト、いわゆる千夜一夜物語の話のひとつである。

現存するアラビアンナイトの最古の写本の断片は800年代のもので、その後徐々に追加・拡充され1400後期に現在のような形式のものが確立したと考えられ

もっとみる
絵本でイランの今に触れる~4「ボクサー」ブラチスラバ世界絵本原画展グランプリ受賞作品

絵本でイランの今に触れる~4「ボクサー」ブラチスラバ世界絵本原画展グランプリ受賞作品

その絵本のタイトルは「ボクサー」。
絵本の、しかもイラン人が描いた物のタイトルが、「ボクサー」?

正直どういうストーリーなのか想像がつかない。
まずもって「イラン」とはどういう国だ?
イスラムの国。
頭にはスカーフを巻く女性。
そしてペルシャ絨毯。
おそらく一般的にはこんなイメージがあるだろう。

じゃあさ、イラン出身の有名なボクサーっていたっけ?
そもそもイランって、ボクシングやっていいの?

もっとみる
絵本でイランの今に触れる~3. ペルシャ語翻訳家「愛甲恵子」さん~

絵本でイランの今に触れる~3. ペルシャ語翻訳家「愛甲恵子」さん~

どんなマイナーな言語にも、翻訳家がいらっしゃる。イランで話す言語はペルシャ語。そのペルシャ語を専門に絵本の翻訳をされているのが「愛甲恵子(あいこう けいこ)」さんだ。

愛甲さんとの面識など全くない僕であったが、一緒に行った友人のずば抜けたコミュニケーション能力のおかげで、愛甲さんと直接お話することができた。

待ち合わせ時間にカフェに辿り着くと、友人が知らない人と話し込んでいる。ショートカットに

もっとみる
絵本でイランの今に触れる~ 2.「アリババと40人の盗賊」原画展~

絵本でイランの今に触れる~ 2.「アリババと40人の盗賊」原画展~

白い壁に「アリババと40人の盗賊」の原画が並ぶ。
ナイゲス・モハンマディ(Narges Mohammadi)さんというイラン人女性が描いた作品だ。

1978年(僕と同じ年!)イランはアラークという中西部出身で現在テヘラン(イランの首都)在住のこのイラストレーターは、世界に名だたる数々の賞を受賞し、児童書イラストレーター協会の会長もなさっている、凄い方なのだ。

絵のタッチを見ると、「やはり外国の

もっとみる
絵本でイランの今に触れる~1. Cafe & Gallery Patina in 成増~

絵本でイランの今に触れる~1. Cafe & Gallery Patina in 成増~

東京の最高気温39度を記録する8/2の午後、「アリババと40人のとうぞく原画展」に行ってきた。場所は都内某所で開催されているという。

東武東上線と地下鉄有楽町線が乗り入れた東京の西の端、板橋区・成増駅。住宅街を7分ほどテクテクと進んだ先にある古い団地を改装した部屋の一角に、カフェ「Cafe & Gallery Patina」があった。

Cafe & Gallery Patina

日本にあるま

もっとみる
コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<歴史と車体>from USA

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<歴史と車体>from USA

NY州在住・スクールバスドライバー・ボリスさんのオンラインインタビュー記事の最終回です。今回はスクールバスの歴史、車体の色の意味などに迫ります!

――日本では、学校に行くとなると徒歩か自転車、もしくは電車や市バスなどに乗っていくというスタイルが一般的です。一方でアメリカはスクールバスが主流ですね。

ボリスさん:アメリカ全土では、毎日48万台のスクールバスが、2,600万人を超える子供を学校へ運

もっとみる
コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<男女平等社会>from USA

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<男女平等社会>from USA

――前回のインタビューで、スクールバスは子供が学ぶ権利のために存在するのだということを改めて認識しました。そのためにスクールバス会社は地区(District)に所属し、税金で運営されているということでした。しかしながら全てが公営ではなく民間(Private Business)が運営しているバス会社もあるということですよね?

ボリスさん:はい、もちろんです。

――その違いは何でしょうか?

ボリ

もっとみる
コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<ドライバーの給料>from USA

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<ドライバーの給料>from USA

NYのスクールバスドライバー、ボリス・クルシンさんのオンラインインタビュー第3段です。前回(子供の置き去り事故)と前々回(パンデミック禍での大型免許取得)の記事もあります。

――今回は気になるお金事情についてうかがっていきたいと思います。

ボリスさん:給料についてですか?

――はい。ダイレクトで恐縮です。

ボリスさん:いえいえ、別に隠すようなことでもないので、どんどんいきましょう。

――

もっとみる
コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<真夏の置き去り事故>from USA

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<真夏の置き去り事故>from USA

NY州でスクールバスの運転手をされているボリス・クルシンさんのインタビューNo.2です。前回のインタビューはこちら。ボリスさんのプロフィールはこちら。

――アメリカのバス会社の組織体制についていろいろと伺いたいところなのですが、その前に少しシリアスなトピックを。先日幼稚園のスクールバスの中に子供が置き去りになり、残念ながら亡くなってしまうという痛ましい事故が起きました。真夏の炎天下の中では毎年の

もっとみる
コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<パンデミック下での大型免許取得>from USA

コロナ禍の黄色いバスの運転手・オンラインインタビュー<パンデミック下での大型免許取得>from USA

アメリカ、NY州在住のボリス・クルシンさんにオンラインインタビューを行いました。(ボリスさんのプロフィールは前回の記事をご参照ください)

コロナ禍のアメリカで、黄色いスクールバスの運転手になったボリスさん。大型免許取得にコロナはどう影響したのでしょうか?

――それではボリスさん、早速ですが本日はよろしくお願いします!

ボリスさん:はい、よろしくお願いします!

――黄色いスクールバスの運転手

もっとみる
森博嗣、スカイ・クロラシリーズ考察  =おまけ=

森博嗣、スカイ・クロラシリーズ考察  =おまけ=

最後に、細かな部分の解釈について、僕の考えをまとめます。

「猫が三匹」(スカイ・クロラ)という表現
トキノとササクラの間での暗号。「今のクサナギはカンナミ人格だ」と知らせるためのもの。

クサナギミズキ
クサナギの妹。クサナギの子供ではない。
もしクサナギの子だとすると、『ナ・バ・テア』から『スカイ・イクリプス/ドール・グローリィ』まで20年前後経っていることになってしまう。何よりも、ティーチャ

もっとみる
森博嗣、スカイ・クロラシリーズ考察(10)何故難解なのか

森博嗣、スカイ・クロラシリーズ考察(10)何故難解なのか

スカイ・クロラシリーズは、何故難解なのだろう。
Amazonなどのレビューにも、よくわからない、淡々としているだけ、だからなに?といった類の書評が上がっている。せっかくこのシリーズを手にした読書に、この本の何がそう思わせてしまうのだろう。

それは「一人の人間の中で人格の共存と入れ替わり」が起きていることと、「実際に起きたかどうか不確かなこと」が同時に描かれているからだと僕は考える。

普通本を読

もっとみる