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英語を仕事で使うとは ~サラリーマンVSプロレス翻訳家~


1.       はじめに


リングアナウンサー
「赤コーナー! 外国人プロレスラーの英語コメントを日本語へ訳す『プロレス翻訳家』~!」
リングアナウンサー「青コーナー! メールのやりとりからビデオ会議まで『英語を使うサラリーマン』~!」

解説A「さあ、どちらがより英語を使って仕事をするでしょう!?」
解説B「それは『プロレス翻訳家』じゃあないですか? 英語を使う仕事と言ったら『翻訳』でしょう」
解説A「さて、どうでしょうか!? おおっと、まだゴングが鳴っていないのに、赤コーナーの『プロレス翻訳家』が仕掛けました!」
解説B「『英語を使うサラリーマン』はコスチュームを脱ぐ途中だったのに、やはり『プロレス翻訳家』はスピード重視だ」
解説A「おおっと、ここでゴングが鳴った! 早くも『プロレス翻訳家』は丸め込みに入る! しかしカウントはワン。解説のBさん、英語を仕事で使うと言うのはどうでしょうね?」
解説B「英語はあくまでツールですからねぇ。どれだけ稼げるかというのも重要な点じゃないですか?」
解説A「まったくもってその通りです。おおっと、ここで『英語を使うサラリーマン』が飛んだ!」

英語を使う仕事というのはたくさんある。
実際問題、英語を使って仕事をするとは、どういうものだろうか?
私は現役の「プロレス翻訳家」だ。
そして翻訳を仕事にする以前は、20年ほどサラリーマンとして英語を使いながら仕事をしていた。
これらの経験から、「プロレス翻訳」と「英語を使って仕事をするサラーリマン」を比較していく。

就職活動中や転職活動中の方々、将来何になろうか考え始めた学生さん、井戸端会議のネタとして知っておきたい人々へお届けしたいと思う。
現在生きている日本人の多くは、義務教育で英語を勉強している。
そんな英語を仕事で活用するとはどういうことか、少しでもイメージが持てたら幸いだ。

2.       英語を使う職業


英語を使う職業というのは多種多様だ。
インバウンドに湧く昨今、道端を歩いているだけだって外国人と話す機会はやってくる。仕事で使うことがなくとも日常での英語の必要性が増す中、就労下での英語の需要は増すばかりだ。

具体的にどういった仕事をすると英語を使うのか。一例として、

飲食店のウエイター・ウエイトレス
スーパーや小売店の定員
レンタカー営業所の窓口
観光スポットになっている神社仏閣の神主さんやお坊さん

あげ出したらキリがない。
それは英語とは言葉であるため、人と人とが交流する場面ではおのずと必要性が生まれるからだ。

では一般企業での職種ではとどうだろうか。

貿易事務
海外営業
ITエンジニア
社内通訳

サラリーマンとして企業に勤めると、商社、メーカー、IT系などどんな業界においても英語が必須となるケースがある。

例えば私の場合、上述の商社、メーカー、IT企業に勤めたことがあるのだが、いずれの会社でも英語を使って仕事をした。

商社   →商材の保守担当
メーカー →貿易事務、海外からのクレーム処理担当
IT企業  →プロジェクトマネージャー

職種としてカテゴライズするのは難しくとも、海外とつながりのある企業ならば、何かしら英語に関連した業務が出てくる。
外国人の社員がいる企業では、人事部や経理部でも英語を使うし、海外に販路や工場がある機械メーカーなどでは、技術部や在庫管理部などでも英語が必要になる。

企業によっては昇進試験や入社試験で、TOEICなどの英語検定の結果を求める場合もある。TOEIC650点以上などだ。

このように現代のサラリーマンは、どんな業界のどんな職に就こうとも、英語が大なり小なり必要となる。

3.       日本にある外資系企業で働く

英語を使って働くと言えば「外資系企業」だ。
よく耳にする「外資系企業」とは、外国資本で成り立っている会社のことである。
つまり海外の企業が日本に進出した際、その子会社や日本法人は外資系企業になる。また、日本人が設立した企業でも、日本人以外の国籍の人間が投資していれば外資系企業となる。

私はIT系の外資系企業で働いていたこともあるのだが、日本にある外国の会社でどれくらい日本語が浸透しているかというのは、その会社によって異なる。

一般的に、日本での歴史が長く日本人社員も多い場合、社内用語として日本語も通じるため、英語を使う頻度は比較的少なくなる。しかし基本的に本社は海外にあるため、英語のスキルなしに働くのは非常に難しい、または採用されないだろう。

逆に日本での歴史が浅く日本人社員も少なければ、社内用語は必然的に英語になるため、英語は必須中の必須になる。

私の場合は、日本での歴史が浅く、日本人が多いという職場だった。それは日本の企業をアメリカの企業が買収したため、このようなパターンになった。

ここで見逃せないポイントが、その会社の規模だ。
日本に子会社や法人を置く時点で、その企業はグローバル展開をしているだろうが全体の規模は小さくはないだろう。その規模が大きければ大きいほど、グローバルスタンダードというものが出てくる。

国が違えども、方針や手順は基本的に一緒だったり、他国のやり方を見習いながら日本もやっていく、といったものだ。

そう言った場合、おのずと英語の出番が多くなる。
社内システムやマニュアルが統一されていれば、それらはデフォルトが英語だ。
会社を回す人材も海外から来たり、海外に住みながら日本と連携したりする。つまり上司や同僚は外国人となる。

私が勤めていた企業は、システム、マニュアル、研修、メール、電話、全てが英語だった。上司は香港在住のカナダ人と、シンガポール在住のシンガポール人。同僚は香港、シンガポール、インド、オーストラリアにおり、皆英語でやりとりをした。
日本語を使うのは、日本にいる日本人同僚とやりとりをする時だけのため、基本的に業務遂行は英語で行う必要があった。

このように外資系で働くということは、英語を使う頻度はかなり多くなる。業界問わず、業務遂行の基本スキルとして、必須となる。

4.       アメリカにある日系企業で働く

では海外で暮らし、日本の会社の子会社または現地法人で働く場合はどうであろうか。
私はアメリカのニューヨークで暮らし、日本企業のアメリカ法人でも働いた。

「まるで、日本にいるみたい」

これが10年働いた末の感想である。
日本の会社をそのままアメリカへ持ってきたような会社だった。
上司も同僚もほとんどが日本人。社内システムなども日本語中心。周りから聞こえてくるのは日本語ばかり。たまにアメリカ人の来客があると、「おっ」となる。

ただ、担当していた業務がアメリカ企業とやりとりがあったため、そこに関する部分だけは英語であった。具体的には、メール、電話、先方が提供しているシステムが英語だった。
取引先との食事会などでは、相手がアメリカ人のため世間話も英語となる。

よって外向きは英語、内向きは日本語。視界に入るのは日本人ばかりのため、トータル的には日本で働いているような環境だった。

これは海外の日系企業あるあるだ。
もちろん会社によって日本人と外国人との比率は異なるが、日系企業には概して日本人が多いし、中核を成すのは日本人だ。
日本の会社なのだから当たり前、と言ってはそれまでだが、その背景には英語のレベルが大いに関係していると考える。

英語ネイティブと同じレベルで英語を操る日本人がまだまだ少ないのだ。
例えTOEICで満点を取れても、実践もテスト同様パーフェクトかと言ったらそうではない。そもそもTOEICでは満点を取れるような人材はそうそういない。

加えて英語がネイティブレベルで得意な人は、日系企業ではなく現地の企業に勤める場合も多い。給与や待遇面や労働環境が良い会社が、日本の会社であるとは限らない。言葉の壁がない以上、自分を活かせる好待遇の会社に行くのは当然だろう。

そして何より、英語はコミュニケーションツールであり、英語を使って何ができるかが重要なのだ。

例えば私の場合、プロジェクトマネージャーとして、プロジェクトの進捗管理や調整が業務だった。その過程で英語力は必須であり、この場合の英語力は、特定のソフトウェアが使用できるということに近いかもしれない。

管理職の能力を持つ人が、その人のスキルセットのひとつとして、ハイレベルの英語力を持っているかどうか。昇給テストでハイスコアを取っても、それはアメリカ人の部下を従えられるだけのものなのか。

さらに言えば、日本にある本社の経営陣に、外国の子会社や現地法人から直接意見を聞き、経営方針を自らの口で直接伝えることはできるのか。英語でインプットし、英語でアウトプットできるだけの英語力があるのか。

これらをクリアしている日本人が少ないために、海外における日系企業の日本化はなかなか止まらないのだと思う。

よって、せっかく海外で働いても日系企業に勤めている限り、
「まるで、日本にいるみたい」
となるのである。

5.       プロレス翻訳家

翻訳業界でも「プロレス翻訳」というのはニッチ産業だ。
それは市場が小さく、需要も少ない。しかしながら「プロレスの知識」というマイナーなスキルが必要とされる業種だからだ。

だがしかし、「翻訳」の仕事であることには変わりない。
英語力を活かしたいならば、存分にそのスキルを発揮できる仕事である。

プロレス翻訳に必要なのは、
a)      英語力
b)     プロレス知識
c)      フレキシブルなスケジュール
この3点である。

a)      については、「柔軟な」英語力が必要になる。それは、プロレスラーは世界各国からやってくるため、その国や地方の「方言」のある英語を訳すことになるからだ。アメリカ英語やイギリス英語、それだけでなく、オーストラリア英語にニュージーランド英語。更には非ネイティブのメキシコ人が話す英語や、イタリア人が話す英語なども翻訳すことになる。 
また、コメントしている背後に入場曲が入っていたり、放送禁止用語を多発してくるレスラーもいる。そういった整った英語や環境でなくても翻訳していく「柔軟さ」が必要だ。

b)     レスラーの名前やユニット名などの基本的なことからプロレスの歴史まで、幅広く知っている必要がある。国内外問わず団体を超えて交流があるため、所属団体のことだけでなく、業界全体の選手や流れをオンタイムで知っておく必要がある。

c)      ここで言うプロレス翻訳とは、レスラーが試合後にファンに向けて発信する英語のコメントを日本語に訳すことである。コメントの翻訳は鮮度が命! ということで、試合と同時進行で翻訳を行う。それはつまり、試合がある日=仕事がある日ということになる。大会の日程に規則性はなく、その中でも自分が担当となる日が決まるのは、数週間~数日前のことである。月~金の週5日勤務のように固定されたスケジュールではないので、ここでも試合に合わせてフレキシブルに仕事をこなせる「柔軟性」が必要とされる。

「翻訳」業務全般に言えることだが、英語力の他に「専門知識」を持つことが大切だ。野球に詳しい、ゲーム業界に精通している、IT知識が豊富など、自分の専門性があればそこを切り口に売り込んでいける。または、そういった知識が必要とされる翻訳の仕事に応募ができる。

専門知識は得意分野で発展させると効率が良い。
だから自分の得意分野は何か、見極めが大切だ。

そうは言っても自分の得意分野を見極めるのは難しい。

音楽が好きとか、食べることが好きとか、そういった何気ない日常の「好き」でも、一段階掘り下げればそれが得意分野になるかもしれない。自分の好きなものや趣味を深堀りしていくのは、ひとつの手段である。

単なるプロレスの一ファンだった自分が、好きなプロレスを専門知識として翻訳ができるとは考えていなかった。だが好きだからこそ、掘り下げていくのも苦ではないし翻訳も頑張ろうと思える。

みなさんも自分の好きなこと、得意なこと、専門的な知識があることを見直してみることをおすすめする。

6.       サラリーマンVSプロレス翻訳家

これまで、英語を使ったサラリーマンの仕事とプロレス翻訳家の仕事を見てきた。
そこでやはり気になるのは「どちらがより稼げるか」だろう。

それはずばり「サラリーマン」である。

これは比べようもない。
なぜなら絶対的な就労時間がサラリーマンの方が長いからだ。
サラリーマンは大抵週5日働く。
それに対し「プロレス翻訳家」は、週に多くとも4日、全く仕事がない週も多々ある。年間の勤務日数を平均すると、週に2日ほどしかない。

この絶対的な勤務時間の差は、年収に直結する。
ただ時間単価というと、おそらくプロレス翻訳家の方が良いだろう。
サラリーマンと一口に言っても、年収200万円~1,000万円越えまで幅が広い。
よって一概に翻訳の方が時給が高いとは言えないのだが、短時間でギュッと稼ぐにはプロレス翻訳家の方が良い。

翻訳料は主に「1単語いくら」と「1案件いくら」という2つのパターンがある。
私の場合は後者である。
よって早く翻訳が終われば終わるほど、時間単価は高くなるが、レスラーのコメントはその時によって長さが異なるため、実際は1案件30分~2時間かかる。
ひとつの大会で担当するレスラーは3人~9人、平均すると4、5人だ。そうすると1日の大会で数万円の稼ぎになる。

忘れていけないのは「プロレス翻訳家」(※私の場合)はフリーランスという点だ。
フリーランスにはサラリーマンにある保障がない。
社会保険も、厚生年金も、雇用保険も、労災保険もない。

更に有休休暇もないし、確定申告も自分でしなければならない。
ないない尽くしのフリーランスのプロレス翻訳家だが、ひとつだけ「ある」のものがある。
それは「時間」だ。

サラリーマンには時間がない。
私も長いことサラリーマンをやっていたのでよくわかるが、本当に時間がない。普通に働いているだけで1日の1/3は労働に取られる。加えて朝晩の通勤時間、残業をすれば残業時間、アフター5や休日の飲み会やイベント。1日どころか1年があっという間に過ぎてしまう。

それに比べプロレス翻訳家には、たっぷりと時間がある。上述の通り、勤務日はとても少ない。しかも大会は大抵夜に行われるので、昼間は時間がある。
この溢れんばかりの自由時間をいかに使うか……!

サラリーマンにはよだれが出そうな話だろう。しかし実情は、プロレス翻訳家だけで食べていくのは難しいため、大会がない時間には他の仕事をすることになる。

ただ、プロレス翻訳は自宅でできる。つまり通勤がない。それだけでも1日の自由時間は増えるのだ。

ということで「サラリーマンVSプロレス翻訳家」の勝負の行方は……!?

「お金」と「保障」を優先するなら「サラリーマン」の勝ち
「時間」を優先するなら「プロレス翻訳家」の勝ち

である。
ドローのような結果だが、これがヤラセなしの真っ向勝負の結果だ。

「英語を使って仕事をする」ということのイメージは湧いただろうか?
小さいころから学校や塾などで英語を勉強している人は多い。せっかく習ったことは、仕事に活かせたら有意義だ。

英語という言語そのものが好きな人もいるだろう。好きな英語を使って仕事ができたら楽しいに違いない。
英語が苦手な人も、使っていればその分伸びる。仕事を通して英語力を磨くことも可能だ。

仕事と英語のコラボレーションによって、活躍の場はきっと広がる。

                                 了