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#掌編小説

【詩】冬の一角獣

【詩】冬の一角獣

駅へ向かう 冬の朝の空気
白い息を吐いて 森の音を聴く
まだ眠っている 小学校の背中が
上下に揺れている
いつか忘れものした 小さく遠い星を想う
あなたのことを 思い出す

夢のなか 白い紙のうえ
ぼくは ほんとうのことを 口に出す
凍ってしまう 世界を凍らせてしまう
雪が溶けるなんて迷信
集積して 芯が残っている
ただ あなたの声が 聴きたい

額の中央 ねじれた角
澄んだ夜にしか現れない いっ

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【詩】サブマリン

【詩】サブマリン

歩くほどに わたしは若返ってゆく
音楽そのものに
お金を払うようになって
唯一よかったことは
じぶんの胸に深く潜るようになったことだ
わたしを守り 奪い 保ち
焚き付けた音を
撃ち抜いた音を
またポケットにしまい
いっしょに歩いていく
なぞり直していく
生涯で
もう聴くことはなかったはずの
サルベージされていない音楽が
海底に 眠っている
いまは ゆっくりでいい気がする
歩きながら
時間をかけて 

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【詩】蝶と月

【詩】蝶と月

やはり私のこころのいくばくかは
あのとき壊死してしまったのだろうか
感応しない部分があるようで
生きるほどに
少しずつそういう患部が
増えていくようで
欠けていく月と同じだと思う
機能することをやめ
自分の一部ではなくなったはずのものが
まだ私のなかに残っている
物言わぬ多臓器不全に占領される
擦り切れた私の実体は
一体どこに連れ去られてしまったのだろうか
無軌道に少年が放ったボールは
一体どこに

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【詩】星に願いを

【詩】星に願いを

わたしが
つぎのことばを求めるとき
その空白に身をゆだねるとき
くらくてふかい海に映る
ちいさな星をさがすような
途方もない仕事だと
感じることがあります

かすかな光をたよりに
底にゆらぐ きれいな石だけ
掬いとれるでしょうか

わたしが拾った石には
ひとが感じ入る美しさが
伴っているでしょうか

なんど経験しても
心臓がきゅっと締まる
きもちになります

ことばには値打ちがあるそうです
だから

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【詩】湖

【詩】湖

空一面に湖が広がっていた
黄色のクレーンが釣竿に見えた
単色の水色は思考停止
すべての建物がくり抜かれていた
波紋がゆっくりと現れて消えて
不意に地べたを歩いているのが
恥ずかしくなった
こんなに澄んだ水ならば
ぼくも そっちで泳ぎたい
反転して 空に飛び込んだら
冷たいかな
気持ちいいよな
溺れないかな
もう溺れてる
楽しいよな
懐かしいよな
なくしてしまったひともこころも
ぜんぶ水色に溶けてし

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【詩】Digital Highlight

【詩】Digital Highlight

宵の宵は点滅 Digital Highlight
月明かりの朝礼台
きみを抱っこして
一緒に夜を見上げたら
煌々と光る
飛行機も星もつかめそうだ
上院議員の群れが森に還り
加湿機が玄関のすきまから逃走した
青い顔の少女が
窓を吹き抜ける風に涙を流し
金木犀が匂って消えた
生きている匂いは
どこにだって転がっている
だれかが描いた宇宙
ひらいた指のあいだから
赤い点滅がすり抜けた

【詩】七月のアジサイ

【詩】七月のアジサイ

死ぬなら夏がいい
次の季節のことも 来年の梅雨のことも
なにも考えなくていい
ただ蝉の声を聴いて
へらへらと笑いながら
陽炎の中でゆらぎ ゆらぎ ゆらぎ
七月のアジサイは朽ちていく
犬は路傍に干からびて
アスファルトがじりじりと
世界の水分を吸い尽くした
脳髄すら少し経てば乾く

近所の家の戸は
ぴしゃりと閉められているが
おれの命の最後のきらめきを
隠すことなどできないのだ
おれの眼球の奥のかが

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【詩】オーケストラ

【詩】オーケストラ

つめたく すんだうみのなかで
ぼくは しきをしていた
みずにていこうして
おぼれるように うでをふる

おんがくが かいていになりひびく
ゆうれいたちのオーケストラがなりひびく

すいめんにうかぶ ちいさなあわ
あめのおとは びんのそこまではとどかない
しずかなかんきゃくは まっている
しんくうぱっくしたせんりつを

ぼくたちは けんめいにがっきをかなでる
いきをあわす ぴたっととめる
びりびりと

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【詩】えぶりで

【詩】えぶりで

さんで、まんで、ちうずで、うえんずで、さあすで、ふらいで、さたで、

えぶりで、えぶりでいずまんで、
のっとほりで、
さむたいむずふらいで、
ふらふらふらーふつかよいさたで、
さたでいずもすとふぁすとで、
しょーとで、わーすふるで、
ばりゅあぶるで、えくせれんとで、
でもはんぶんはこうかいで、
さんではあいにくのくらうでぃで、
もうつぎのひがこわくて、
ぐるぐるえんかつにまわっていかなくて、
よう

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【詩】鍵盤シーラカンス

【詩】鍵盤シーラカンス

鍵盤シーラカンス シーラカンス鍵盤
おおきなうろこは黒鍵 ちいさいのが白鍵
牙が光って灯籠 
深海でうねる 深海ではずむ
からだぶつけ 音楽を鳴らす
一回性の旋律しか知らない
鍵盤シーラカンスは傷だらけ
うろこが剥がれてもやめない 
海が温かくなる発情期
雄と雌 互いを優しくぶつけ合う
やがて生まれたての鍵盤の群れが
海を底から震わせる
水の重さに身を委ねて
それぞれに
じぶんが心地いい音を探す

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【詩】天の川

【詩】天の川

天の川の白濁のなかをすすむ
四方白い壁のほかには何もなく
それは死んだ水槽のよう
それはのっそりと動く戦艦のよう

空気にも輪郭があり
陽光が天井の水面に揺れ
かつて燃え尽きた星が
柔らかな線を描くのを見ただろう

あなたがそとに出たいと願うならば
ドアより先に ドアノブを描くがいい
引いた腕に夕闇が追いついて
気づけばそとに出れるから

あなたが変わりたいと願うならば
柔らかいものを 信じればい

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【詩】無限成長美術館

【詩】無限成長美術館

高台にある
無限成長美術館は
村の一部でありながら
自分とまわりの森を喰らい
増殖をつづけている

稲が実った田園から
見上げると
美術館が口をあけて
日に日に大きくなり
村に近づいてくるようだ

上空から見たその棺は
渦を巻いて
漢字の〈厄〉みたいな
形で
もぞもぞと
幼虫のように蠢いている

村人たちは耳を澄ませる
夜には
美術館が木々を薙ぎ倒す床ずれの
音がする
朝には
村の境界を越え
ひと

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【詩】安宿

【詩】安宿

大型書店で活字を盗む
浴びるほど活字を吸い込み
めしを食らうように
文字をかきこむ

このためだけに生きてきた
そんな一節をさがしている
ほんをさがすふりして
じぶん のいみを
背表紙にもとめている

ぼくは
いつもいつも切実である
足場がほしい
つぎの一歩を
受けとめる足場がほしい

せかいの本質に
近づきたいと願い
ほんに触れるたび
逃げてしまう
離れてしまう

ああ ぼくのあたまは安宿だ

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【詩】昼どきの天体

【詩】昼どきの天体

天体が放たれる
弁当屋の声がする
雲が流れる
そば屋に並んでいる
だしの いい匂いがする
昼どきのまちは
せかいのへり
ぽかんと空いた
ビルのへそ
あらゆるものが
動いている
すべてのひとが
じかんを気にしている
群れを離れ
口笛を吹き
それぞれで ひとりになる
ひとりの集合体は
かぎられた時間
生活のはんたいがわの軌道を泳ぎ
急ぎ足で
点滅する信号を渡っていく
雲が泳ぐスピードが
ずいぶん早い

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