【詩】無限成長美術館
高台にある
無限成長美術館は
村の一部でありながら
自分とまわりの森を喰らい
増殖をつづけている
稲が実った田園から
見上げると
美術館が口をあけて
日に日に大きくなり
村に近づいてくるようだ
上空から見たその棺は
渦を巻いて
漢字の〈厄〉みたいな
形で
もぞもぞと
幼虫のように蠢いている
村人たちは耳を澄ませる
夜には
美術館が木々を薙ぎ倒す床ずれの
音がする
朝には
村の境界を越え
ひと回り大きくなった美術館のなかの
回廊が巡り
展示品が増える
いつの間にか過ぎた歴史を
触れられぬものとして
展示に加えている
無限成長美術館は
いつか村全体を飲み込んでしまうだろうが
それを気にする者も
いなくなっていた
村人たちは ゆっくり死ぬことを
選んだのだった
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