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【詩】安宿


大型書店で活字を盗む
浴びるほど活字を吸い込み
めしを食らうように
文字をかきこむ

このためだけに生きてきた
そんな一節をさがしている
ほんをさがすふりして
じぶん のいみを
背表紙にもとめている

ぼくは
いつもいつも切実である
足場がほしい
つぎの一歩を
受けとめる足場がほしい

せかいの本質に
近づきたいと願い
ほんに触れるたび
逃げてしまう
離れてしまう

ああ ぼくのあたまは安宿だ
夜ごと新しいことばが
チェックインする

かれらはだまって部屋のかぎを
受け取り
狭い部屋に入る
堅いベッドに身をまるめる

寝心地がわるいから
ことばたちは長居しない
ひとばん雨露をしのぎ
明日には身支度して
出発してしまう

かれらをもてなしたい
長くとどめたい
客としてではなく
持ち場で仕事をしてもらいたい
と願っているが
きょうも
かびくさいフロントで
ことばの出立を
せわしなく送り
部屋を片づけ
消毒する

ことばたちが その安宿に
泊まった痕跡は
宿帳にしか
残されていない




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