病葉のダンス

コラムを書いています。 ‘’何気ない日常を特別に変えてしまうあなたへ‘’

病葉のダンス

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記事一覧

薔薇とか檸檬とか

アメスピは太くて、吸うには少し力がいる。煙がゆっくりと立ち上るたびに、誰かの思い出が夜風に溶け込み、光の河を渡っていく。ビーズがこぼれたような街の光を見下ろしな…

3

魚が光って見えるのは鱗が剥がれ落ちているから

家の中で昨年USJで購入したジョーズの被り物を被ってみた。もふもふで頭がぬくぬくするのは秋の初めのこの時期にちょうどいい。テーマパークで連れ去られて行った被り物た…

病葉のダンス
2週間前
4

人間

地方の祭りには、何度か足を運ぶ機会があった。じゃんけん大会、くじ引き、抽選会──参加しても一度も勝ったためしはない。景品が自分の手元に届くことはない。それでも、…

病葉のダンス
2週間前
1

夜蒸し(よふかし)を歩く

花火大会が終わり、夏の夜がその暑さをまとう中、街はゆっくりと日常を取り戻していた。人々は帰途に急ぐ一方で、街角の灯りはぼんやりと彼らの背を追いかけている。路地を…

病葉のダンス
3週間前
8

アホな優しさ

小学生のころ、前ならえをするたび、「この列をどう並べなおそうか」ずっと考えていた。1年に1回並び変えられる背の順の列は僕にとってまるで学校生活のヒエラルキーそのも…

病葉のダンス
1か月前
20

それはスポットライトではない

大学3年生の秋、アカペラの全国大会に出場した。初めての大舞台。僕たちは完璧だ、僕たちは最高だ。誰の真似でもなく、新しい存在、オリジナルでスペシャルな存在。それを…

病葉のダンス
1か月前
9

空に星が綺麗

打ちあがった花火の美しさをどのような言葉で伝えられるだろうか。 「どんだけ空なくすねん。」 ピースの又吉さんが熱海の花火大会を見てつぶやいた言葉を思い出す。 「…

病葉のダンス
1か月前
3

エモいってなんだよ

90年代のシティポップに合わせて踵を鳴らす朝。通勤路は今日も平和だ。河口に沿って作られた道を歩き、2度橋の下を潜ると私の職場に到着する。 帰り道。夕焼けを背に踵を…

病葉のダンス
1か月前
3

大切な人ほど忘れてほしい

紫陽花がいなくなったかと思えば、青々と茂る緑が歩道脇を差す。今年も僕にとって少し憂鬱な季節がやってきた。ベランダから覗く青はのっぺりとした白を抱えながら、放射線…

病葉のダンス
2か月前
2

水の更迭

涙が出るという現象を考えたとき、一番適当な表現は「自分の器からはみ出てしまった」である。 恋人からのプロポーズに感動し、家族との死別に涙を流す。感情があふれるた…

病葉のダンス
2か月前
7

幽玄とコンビニ

青い海の奥にコンビニがあって、青い珊瑚が売られている。そんな夢を見た朝、出勤のために車を走らせると目の前の海がただ青く広がっている。山奥の地元を離れて海街に住む…

病葉のダンス
2か月前
4

新雪の丘

「新雪の丘」というのは、雪が積もった何も跡のない丘の上を最初にソリが通って初めて跡がつく。その跡と同じようなところを次のソリも通るので、どんどん溝が深くなり、そ…

病葉のダンス
3か月前
2

カルパチアを求めて

凍てつく北大西洋の海に、一隻の船が沈む。タイタニック号。今から100年以上も前に、豪華客船は氷山に衝突し、海の底に沈んだ。 25歳にして、生まれて初めて映画『タイタ…

病葉のダンス
3か月前
2

右手に宇宙を、左手に花束を。

子供のころ、保育園の庭に穴を掘り続けたことを思い出す。「この穴を掘り続けたらブラジルに行けるんだ」と信じていた。実際には大西洋のどこかで、もっと正確にはマントル…

病葉のダンス
4か月前
4

Amore Mangiare Cantare!

結婚報告をした芸能人にむけられた、ラジオリスナーからの1通のメールが今日も頭をめぐる。 僕らは人生のどれほどを”記憶”できているだろうか。耐え難い苦しみや哀しい…

病葉のダンス
4か月前
2

ギターポップは死んだ

その日のYouTubeのコメント欄には、流行りの若手3ピースバンドの演奏に対して「ギターポップは死んだ」との投稿があった。それを見つけた瞬間、私はまさしく今、ギターポッ…

病葉のダンス
4か月前
14
薔薇とか檸檬とか

薔薇とか檸檬とか

アメスピは太くて、吸うには少し力がいる。煙がゆっくりと立ち上るたびに、誰かの思い出が夜風に溶け込み、光の河を渡っていく。ビーズがこぼれたような街の光を見下ろしながら、ぼんやりとタバコの先端に灯る赤い火に目を細める。何かが静かに、けれど確実に消えていく音を、心の奥で聞いている気がした。

感謝しなければならない人がいる。その気持ちは確かに胸の中にあるのに、伝える勇気がどうしても湧かない自分に、苛立ち

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魚が光って見えるのは鱗が剥がれ落ちているから

魚が光って見えるのは鱗が剥がれ落ちているから

家の中で昨年USJで購入したジョーズの被り物を被ってみた。もふもふで頭がぬくぬくするのは秋の初めのこの時期にちょうどいい。テーマパークで連れ去られて行った被り物たちが棚を圧迫する厄介者として扱われていないか心配になる。キャラクターの被り物たちを保全する活動家として声を上げてみようか。ヘルプ被り物、被り物たちに自由を。

窓にうつる自分の姿を見ておかしくてたまらなかった。どう考えても頭が大きいのだ。

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人間

人間

地方の祭りには、何度か足を運ぶ機会があった。じゃんけん大会、くじ引き、抽選会──参加しても一度も勝ったためしはない。景品が自分の手元に届くことはない。それでも、勝者たちを観察する習慣がついてしまった。それはいつか自分が景品を手に入れるための野心から来るものではなく、運のいい人間には何か法則があるのではないか、そんな妙な考えからだ。

祭りの名物司会者が、ビール片手に場を湧かせる。「どっちだ?」「あ

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夜蒸し(よふかし)を歩く

夜蒸し(よふかし)を歩く

花火大会が終わり、夏の夜がその暑さをまとう中、街はゆっくりと日常を取り戻していた。人々は帰途に急ぐ一方で、街角の灯りはぼんやりと彼らの背を追いかけている。路地を抜ける風は湿り気を帯び、夜の重さを運んでくる。

長年共にしたバンドを離脱した。この熱を帯びた空気を胸いっぱいに吸い込みながら、ため息色の帰り道についていた。学生時代、僕たちの音楽は自分たちの世界を創造する力があった。ライブハウスのあの熱狂

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アホな優しさ

アホな優しさ

小学生のころ、前ならえをするたび、「この列をどう並べなおそうか」ずっと考えていた。1年に1回並び変えられる背の順の列は僕にとってまるで学校生活のヒエラルキーそのものだった。列の先頭になった途端、前ならえは手を腰に添えるポーズに変わる。自分はあの恥ずかしいポーズになるまいとありとあらゆる策を練った。僕の位置は本当はもっと前なのに、身長測定の時にすこし背伸びした分、列の半分ほどまでに陣取ることができた

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それはスポットライトではない

それはスポットライトではない

大学3年生の秋、アカペラの全国大会に出場した。初めての大舞台。僕たちは完璧だ、僕たちは最高だ。誰の真似でもなく、新しい存在、オリジナルでスペシャルな存在。それを世の中に見せつけたかった。

本番当日、北海道から大阪までの移動の疲れなんて感じなかった。「いよいよだ」、そう思った朝からの記憶がほとんどない。気が付くと、僕は目の前の審査員の言葉に打ちのめされていた。どうやら僕の歌が「ズレていた」らしい。

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空に星が綺麗

空に星が綺麗

打ちあがった花火の美しさをどのような言葉で伝えられるだろうか。

「どんだけ空なくすねん。」

ピースの又吉さんが熱海の花火大会を見てつぶやいた言葉を思い出す。

「40分の内容を20分に詰めたみたいな花火やったな。」

自分は、どちらかと言うと、
打ち上げ花火よりかは手持ち花火が好きで、
ロケット花火よりかは線香花火が好きで、
へび花火よりかはねずみ花火が好きだ。

けれども、敏感すぎる耳のせい

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エモいってなんだよ

エモいってなんだよ

90年代のシティポップに合わせて踵を鳴らす朝。通勤路は今日も平和だ。河口に沿って作られた道を歩き、2度橋の下を潜ると私の職場に到着する。

帰り道。夕焼けを背に踵を返す。職場から避難するように歩くこの道も私は気に入っている。夕焼けに染まる空は、日々の喧騒を忘れさせてくれる一瞬だ。エモいという言葉が頭をよぎる。

最近、宮沢賢治の本や詩集を読んでいる。賢治のふるさと花巻市と私の地元が隣町ということも

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大切な人ほど忘れてほしい

大切な人ほど忘れてほしい

紫陽花がいなくなったかと思えば、青々と茂る緑が歩道脇を差す。今年も僕にとって少し憂鬱な季節がやってきた。ベランダから覗く青はのっぺりとした白を抱えながら、放射線状に光線を放つ。

一人称を”僕”で始めてしまったものだから、あまりの白々しさにいっそ独立不羈に書き記してやろうと思います。

四半世紀生きてみて実感したことは僕はあまりにも人と「違いすぎる」ということ。幼いころからそれを自覚してきたので、

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水の更迭

水の更迭

涙が出るという現象を考えたとき、一番適当な表現は「自分の器からはみ出てしまった」である。

恋人からのプロポーズに感動し、家族との死別に涙を流す。感情があふれるたびに、人間の半分が水分でできていることを思い出す。生きていると、涙に暮れる日もある。涙は、感情の掃き出し口であり、内面の浄化作用だ。まあ、大学の心理学の授業で学んだことを思い出しただけなんだけど。

家のベランダに黒い椅子がある。日の出て

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幽玄とコンビニ

幽玄とコンビニ

青い海の奥にコンビニがあって、青い珊瑚が売られている。そんな夢を見た朝、出勤のために車を走らせると目の前の海がただ青く広がっている。山奥の地元を離れて海街に住むことになり、毎日のように海を眺めている。かつては特別だった海も、潮風の強さや漂う臭いに嫌気がさす瞬間がある。

フグの毒、テトロドトキシンという名前を思い出す。江戸時代には、フグの毒を使って舌がピリピリと麻痺する遊びが流行ったと聞く。イルカ

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新雪の丘

新雪の丘

「新雪の丘」というのは、雪が積もった何も跡のない丘の上を最初にソリが通って初めて跡がつく。その跡と同じようなところを次のソリも通るので、どんどん溝が深くなり、そこばかり通るようになる。
最初にソリが通るところはどこでも良かったのだが、一回決まったせいでそこばかり強くなるという心理学で用いられる例えのことだ。

だが、新雪の丘もいずれ春が来て、雪解けると願う。そのころには晴れて自由の身になるのだ。だ

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カルパチアを求めて

カルパチアを求めて

凍てつく北大西洋の海に、一隻の船が沈む。タイタニック号。今から100年以上も前に、豪華客船は氷山に衝突し、海の底に沈んだ。

25歳にして、生まれて初めて映画『タイタニック』を観た。胸を打たれたシーンは、映画の終盤、死を迎える人々の姿だった。心残すことなく好物のブランデーを飲む紳士、最後まで演奏を続ける音楽隊、プライドを持って役務を全うする船長、そして諦めず、自らの命をも犠牲にして恋人を見守るジャ

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右手に宇宙を、左手に花束を。

右手に宇宙を、左手に花束を。

子供のころ、保育園の庭に穴を掘り続けたことを思い出す。「この穴を掘り続けたらブラジルに行けるんだ」と信じていた。実際には大西洋のどこかで、もっと正確にはマントルにぶち当たるだろうが、当時の私はそんなことは知る由もなかった。今ではおかしい話だが、その無邪気な好奇心は、曇りのない純粋な子供心である。

人は死ぬとき、何を想うだろうか。アルバート・アインシュタインは死の間際に愛娘に手紙を送った。その手紙

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Amore Mangiare Cantare!

Amore Mangiare Cantare!

結婚報告をした芸能人にむけられた、ラジオリスナーからの1通のメールが今日も頭をめぐる。

僕らは人生のどれほどを”記憶”できているだろうか。耐え難い苦しみや哀しい出来事、胸を痛めることは本当にキリがないけれど、そのどれもが無駄がないように、それらを「尊い」と謳おう。

「アモーレ、マンジャーレ、カンターレ」というフレーズは、「愛すること、食べること、歌うこと」を意味し、イタリア文化の核心を象徴して

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ギターポップは死んだ

ギターポップは死んだ

その日のYouTubeのコメント欄には、流行りの若手3ピースバンドの演奏に対して「ギターポップは死んだ」との投稿があった。それを見つけた瞬間、私はまさしく今、ギターポップが殺されたのだと感じた。

27歳。この年齢は数々のロックスターが命を落とした年齢でもある。ジミ・ヘンドリックス、カート・コバーン、エイミー・ワインハウスなど、多くのアーティストが27歳でその命を終えている。27歳という年齢は、歳

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