見出し画像

新雪の丘

「新雪の丘」というのは、雪が積もった何も跡のない丘の上を最初にソリが通って初めて跡がつく。その跡と同じようなところを次のソリも通るので、どんどん溝が深くなり、そこばかり通るようになる。
最初にソリが通るところはどこでも良かったのだが、一回決まったせいでそこばかり強くなるという心理学で用いられる例えのことだ。

だが、新雪の丘もいずれ春が来て、雪解けると願う。そのころには晴れて自由の身になるのだ。だから、それまでは同じ失敗をしていても、春が来るまでじっくり耐えてみようかな、と思ってみた。

母の口癖は「ろくなことしない」だった。イタズラをして怒られた時も、体操着を忘れて家まで取りに戻ってもらった時も、私はこの言葉を何度も浴びてきた。大人になっても「自分はダメな人間だな」と思うことがよくある。なくしてはいけないものを失くすし(昨日も仕事中に駐車券を失くしてしまった)、忘れっぽいし、誰に何を話したかてんで覚えていない。なので、誰かに話しかける際、「この人にこの話をしたことがあるか?」いつも考えている。加えて普通の人がそつなくこなすことも、私にとっては大問題だ。現にちょうちょ結びができない。靴紐はというと、オリジナルのちょうちょ結びのアレンジを駆使し、それっぽくこなしている。その癖、自己肯定感を高めようとするあまり、衝動的に何かを成し遂げて、失敗をかき消そうとする欲望がある。

いいか悪いか分からないけれど、この昔からある「どこか人と違う」という感覚が、最近になって脳の病気だとわかり、自己肯定のしようもないほどに打ちひしがれている毎日です。

睡眠薬も効いてきたころだし、そろそろ眠りにつこう。それじゃあ、皆の新雪が解けるまで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?