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#連載小説
明のイントロダクション「カゲロウ」(05)
バーベルを落とすとともに、手を下ろした。上半身には熱気と汗がまとわりついているが、コンプレッションタイプのスポーツウェアはすぐにそれを振り払ってくれる。一仕事終えたのと同じ類の疲労感と達成感を覚えつつ、体を起こす。ベンチプレスの前には腹筋のワークアウトをしたので、体を起こしたとき腹筋に痛みが走った。床のタオルを拾い、顔の汗を拭う。首にタオルを回し、少し顔を下に向けて休んだ。人から疲れた表情を隠す
もっとみる香山の10 「明」(16)
博多駅の近くに位置する喫茶店にタクシーが着いた。運転手の女性が、料金を告げた。ここから私は、何が起こるのかはおおよそ分かっていた。ほとんどの関係に置かれた二人は、料金を払う役割を到着までに決めず、到着したとたんに、ここは私が、と言い始めるのだ。事実、確実に中崎は財布を取り出すつもりであった。
彼の財布は、灰色の長いルイ・ヴィトンであった。ロレックスにルイ・ヴィトン。彼の靴を外観だけでブランドを
香山の11「オーバードライブⅠ」(17)
中崎が去り、雰囲気も軽くなった。
「香山さんは、いくつ」
「二十六になったが、そちらさんは」
私は甘ったるいカフェオレを飲み、唾液すら甘くなっているのを感じていた。本来はこのような飲み物は好まない。彼はまだ何も注文していなかったが、それをなんとも思っていないようだった。
「じゃあ、同い年かね」明が少し語調を強めた。私は中崎と話したときと同じ威圧を覚えた。「そうかい、同い年かい」
今度は、私は
明の7「博多口」 (23)
貫一は私との対面を隠蔽した。しかし、その理由は何なのか。彼が言うように、私がお宮を連れて博多口に行けば、お宮を奪還を試みるはずだ。
貫一は駅構内に交番があるとは言ったが、その交番は駅構内の中心にあるわけではなかった。博多口の前にある広場の、極めて端寄りにあるために、駅の構内を見渡すことなどできはしない。そして、私も彼も、警察からの注目を好まないために、無理やりにでも貫一がお宮を連れ去ることは可