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ハルキスト

「私、村上春樹、嫌いなんです」
「どうしてですか?」
「大真面目に女性に巫女的な役割をあてはめるじゃないですか。気持ち悪いですね」
「じゃあ、龍派ですか」
「いや、村上は両方嫌いです」
 
そんな人がこの世にいるなんて。
 
「何故?」
「『素敵なセックスを終え、彼女の髪をなでながら戦争をしようと決意する男もいるだろうか?』って言ってるんですよ。それ言い換えれば、『女性が、男が満足するセックスをしてたら戦争なんて起こってない』って話ですよね。最低じゃないですか」
「確かに、それは、そうですね」
「作家としてはハルキの方がマシですね。でもハルキストの男にろくな奴はいない」
 
香川さんは荒れてるとき、私をシーシャバーに誘う。付き合う人は本を読まない人がいいらしい。ハルキスト男性に余程嫌な思い出があるようだが、臆病な私は聞きあぐねた。
 
「『やれやれ。完璧な男は存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。君とその男は会うべくして会ったのだし、もし会っていなかったとしても、君たちは別のどこかで、違った形で会っていただろう。トムとジェリーのように、然るべくね。とくに根拠があるわけではないのだが、僕はそんな気がする。』」
 
香川さんは爆笑してくれた。これで笑えるってことは、香川さんも相応にハルキを読んできた筈だ。色々と、少しだけ寂しかった。私がハルキを茶化せたことも、リュウの発言を聞いたことも、香川さんが村上両名を嫌いなことも、思いつかない何だか色々なことが。
 
思い出の中の大切な友人に、香川さんはどことなく顔が似ていた。その子は生粋のハルキストだった。だからかもしれない。
 
全ては交換可能なメタファ―だって?
やれやれ!

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