永遠に撃つ(漕戸もり)/パラダイムシフト ピンチはチャンスか?(稲泉真紀)/二〇二〇、春(八上桐子)

永遠に撃つ

2020年6月7日

 兄と弟に挟まれて育ったので、家には武器みたいな玩具しかなかったせいか、それが兄弟喧嘩の原因で、仲が良い理由でもあった。特に、引き金を引くと撃つたびにぴろぴろと鳴る武器は、戦隊シリーズ番組の、主役で五人組のリーダーであり、人一倍正義感の強いAの秘密兵器だった。他にB、C、D、Eというメンバーもそれなりの武器を持っているので、兄弟三人別々の武器を買ってもらえばいい

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令嬢馬賊

盲目の巫女が見たくて仕方がない窓のむこうには、大洋の蒼白いそらを頂く崖海がひろがっている。彼女はその海に、勢いよく飛び込んで身をひたし、昨夜のインチキ交霊術で喝采をあびた体から、男装の衣裳を剥ぎ取り、彼女を待ち構えてくれていた古代ゲルマン物語詩の紫色の太陽をはらんだ海の奥で、裸身を塗りつぶす、黄金掘りの小人たちが微弱な病原菌になって彼女にはりつき、黄金をまのあたりにして死んでいく思いを膨らませた。

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永劫回帰と私とわたし

悲しいことがあると、いつも考えることがあるの。

 それは、永劫回帰——簡単にいうと、未来にも過去にも私と同じ存在がある、ということ。

 ……これだけじゃ、何が何だか分からないよね。ちゃんと詳しく話すよ。だからほんの少しだけ、付き合ってくれるかな。

 まずは、有限と無限について話すよ。この世に存在するあらゆる物は、有限なんんだ。本は燃やせば無くなるし、肉は放っておいたら腐ってゆく。私という存在

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家具職人J・Jキャットホール (1)

ーまだお休みにならないのですか。
 つい先程まで窓の外からこちらを覗いていた太陽がいつの間にか月になっていた。庭に咲いているひまわりたちが深々とお辞儀をしながらこちらを観ている。気づけば騒がしい昼の虫たちはおとなしくなり、代りに趣のある夜の虫たちが庭をほんのり明るくしていた。

ーああ、まだ完成していないからね。
 細かい作業をしているとついつい時の流れを忘れてしまう。今日は拾ってきた流木を削って

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ありがとうです。その優しさに救われているのは私だけではないはず
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解像度、上げるべからず

私、実はこういうわけで欲求不満です。そう公言することがはばかられる類の欲求不満というものがある。

 私にとっては、「素朴な、しかし提起すべきでない疑問」がそれにあたる。

 決して表に出してはいけない、心の声。

   * * * * *

 数日前に梅雨入りした割には、ぼんやりとした薄曇りの土曜日。母がちゃんとしたお茶っ葉で入れてくれた緑茶をすすりながら、私はひと呼吸ごとに畳の匂いを胸の奥まで

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ソーシャルディスタンス 6. ピークは過ぎた

Case.6  ピークは過ぎた

体が悲鳴を上げている。肩、腰、背中。あらゆる箇所にコリを感じる。今は水曜の昼間。テレワークの合間を縫って、二ヶ月半ぶりに整体院へ向かっている。

3月の末に在宅勤務生活を始めてから、早い段階で体の不調は出て来ていた。
ダイニングテーブルでの仕事、前傾姿勢でのモニターの凝視、ステイホーム生活での運動不足。アラフォーの年齢相応にもともとガタは来ていたが、月1回身体をリ

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「夜はこれから」

憧れのバンドマンは円山町で女子大生の私を抱いた。「東京って怖い!」と当時は面白がってしまったものだ。定期的に会う訳でもないのに縁は途切れず、今夜も数年ぶりにまた杯を交わしている。好きでもないのに「オトモダチ」だったのはこの人くらいだなとぼんやり思う。行き過ぎたコミュニケーションの手段として、たまに一緒に寝ていただけ。それもすっかり過去の話だ。

「おじさん、繋がってるって何だろうね?」
「おじさん

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スキ♥︎有難うございます!
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「午前4時、開かない踏切」

カーテンの隙間から零れる灯りに、死んでしまいたくなる午前4時。明るくなってんじゃねえよ、と理不尽に毒づきながら布団に身を沈める。

「……3件」

先ほどまで確かに『明日』だった今日の、来客予定を思い返す。3件も飛ばすのは面倒だな。観念し、消灯。目を瞑る。

死ぬのは簡単だと思った。

日本で暮らす限りは諸々のしがらみによりハードルが高いと感じているが、単身ふらり所謂「秘境」にでも訪れれば、言葉も

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宜しければまた逢いに来てください!
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「無花果の花」

母の日におけるカーネーションのように、父の日を象徴するものはあるのだろうか。

「姉ちゃん、」
「なーに」
「今日、学校で課題が出たんだけど。ゆたかさとは何か考える、っていう」
「ゆたかさ?」

嫌な顔をする美里に、しまった、と焦る宏人。

「好きじゃないのよ、その言葉。私たちがゆたかさと縁遠く育ったの、父親運が無かったせいなんだから」
「あいつの名前が『ゆたか』だったからだろ……。離婚してもう十

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♥︎♥︎
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つれないつり (2)   サバ

女川の町は色がなかった。永遠に灰色が続くようだった。曇りの日は本当に切なくなってくる。津波が町を飲み込んでから2年が経っていた。

この町に仕事で通うようになった。店はほとんどが仮設店舗で遊ぶ場所がない。自然と海へ向かうことになった。海には色があった。空の色によって青になる。緑になる。他と変わらぬ海だった。この海はたくさんの人を飲み込んでいた。陸はそのことをまだ覚えている。海はそれをもう忘れてしま

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