【創作】向日葵
向日葵のような人だと思った。
朗らかで、笑顔が似合って、力が抜けているのにしゃんと真っ直ぐに立っている。
熱く照りつける太陽を見上げて目を細める横顔が美しいと思った。
「嘘つくならさ」
出し抜けに降ってきた声からは、何の感情も読み取れなかった。
「覚悟決めろって思うんだよな」
僕について言っている訳ではなさそうだったので、曖昧な相槌を打つ。
「嘘をつくごとに、世界って少しずつ歪んでいくだろ」
不意に視線を向けられて、心臓がドクンと跳ねた気がした。いつもと同じ柔らかな笑顔のはずなのに……怖い。
「ほら、俺って嘘つきじゃん?」
太陽に雲が掛かったのだろう。周囲が急に色を失ったが、僕は空を確かめられなかった。彼の瞳から視線が外せない。
「そう……なんだ」
絞り出した声は喉に張り付いたようにカラカラだ。
「うん。だから知ってんだ。自分が世界を歪めてるってこと」
雲が通り過ぎたのか、再び周囲が夏の色を取り戻す。
やけに蝉の声が大きく聞こえる。
再び空を見上げているその人は、やっぱり向日葵みたいだった。
だけど、僕には。
この向日葵が太陽に焦がれているようには思えない。
たぶん逆なのだ。
僕にしたのと同じように、太陽を視線で囚えているのだと思った。