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ポップカルチャーは裏切らない

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”好きなものを好きだと言う"を基本姿勢に、ライブレポート、ディスクレビュー、感想文、コラムなどを書いている、本noteのメインマガジン。
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#邦楽

労働し空想する/米津玄師『LOST CORNER』【ディスクレビュー】

労働し空想する/米津玄師『LOST CORNER』【ディスクレビュー】

米津玄師が4年ぶりにリリースした6thアルバム『LOST CORNER』が凄まじかった。その多くがタイアップ付きであり大きく世に知れた既発曲12曲とせめぎ合うような新曲8曲によって構成された全20曲の大ボリューム作だ。聴くまでは新鮮味という観点では軽く考えていたのだが、結論から言えば72分間、圧倒されっぱなしだった。

既発曲を美しく繋ぎつつ、新曲たちも負けじとギラギラ輝く。“サブスク時代のアルバ

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この1年でよく読まれた記事ベスト10【note6周年】

この1年でよく読まれた記事ベスト10【note6周年】

2018年から書き始めて6年が経ちました。900記事くらい書いてるようです。毎年恒例の年間アクセス数ランキング。この1年で書いた記事で上位10本を載せてみようと思います。

10位 アジカン精神分析的レビュー『マジックディスク』/語り直しと混ざり合い(2023.8.18)

去年、勤しんでいたアジカン精神分析レビューの1本。だんだん書き方が掴めてきた頃。現在、これらの記事を基にレビューZINEを制

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2024年の遥か彼方/ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection』

2024年の遥か彼方/ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection』

ASIAN KUNG-FU GENERATIONがメジャーデビュー20周年を1年遅れで祝うシングルコレクションをリリースした。最新シングル「宿縁」から1stシングル「未来の破片」まで、現在から過去へと遡るような形で全33曲が収録されている。

本作のDisc1の1曲目を飾るのはメジャーデビューミニアルバム『崩壊アンプリファー』の1曲目であり、代表曲の1つ「遥か彼方」の再録テイクである。現時点で最新

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すべてはロマンのために/UNISON SQUARE GARDEN『SUB MACHINE, BEST MACHINE』

すべてはロマンのために/UNISON SQUARE GARDEN『SUB MACHINE, BEST MACHINE』

UNISON SQUARE GARDENが結成20周年を記念してキャリア史上初のベストアルバム『SUB MACHINE, BEST MACHINE』をリリースした。10周年はアルバム曲からのセレクト、15周年はB面集と様々な形でアニバーサリーを祝ってきた彼らだが20周年にして遂に正面突破のシングルコレクションである。

しかしそれはDisc2、Disc3の内容。Disc1は未発表曲たち(サブスク配

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2024年上半期ベストアルバム トップ10

2024年上半期ベストアルバム トップ10

アルバム編、今回の10枚は結構新鮮な顔ぶれになっているのではないだろうか。何度目かの新たなものを求めるターム。それでいて、常に安心感をくれるものも同時に愛したいターム。これですね

10位 グソクムズ『ハロー!グッドモーニング』

振り幅も円熟味もフレッシュさとはかけ離れた充実のメジャー1stアルバム。各曲ごとのフォークとロックンロールとダンスビートの切替が絶妙で、それぞれのキャラは濃いのにつるん

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MONO NO AWAREはなぜメシを食うアルバムを作ったのか/『ザ・ビュッフェ』【ディスクレビュー】

MONO NO AWAREはなぜメシを食うアルバムを作ったのか/『ザ・ビュッフェ』【ディスクレビュー】

メシを食う。何をするにしても、生命はその行為から逃れられない。根本的には生命維持の役割を持ちながら、五感を充足させる快楽物としての役割も果たす。そんな個人としての本能を満たすものでありつつ、時には食を共にする人との絆を確かめるような役割も果たすし、宴や儀式のようにより大きな存在へ捧げられる役割も果たす。

上の記事に書いたように、種々の表現やスタンスの表明としても食事は機能する。しかし食事はこうし

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円環的時間を生きる〜2024.03.09 Base Ball Bear『天使だったじゃないか』ツアー@福岡DRUM Be-1

円環的時間を生きる〜2024.03.09 Base Ball Bear『天使だったじゃないか』ツアー@福岡DRUM Be-1

もう3ヶ月も前のことだが、今こそBase Ball Bear『天使だったじゃないかツアー』の福岡公演を振り返ってみようと思う。基本的にはいかに早く出すかを考えてきたライブレポートであるが、思考を熟成することでより深まった部分もあるし、今回の新作『天使だったじゃないか』の意義を考えることに繋がるような気がしたからだ。

ティーンネイジ・ファンクラブが流れ続ける開場SEが終わり、ライブは幕を開ける。1

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異化される現世/Tempalay『((ika))』【ディスクレビュー】

異化される現世/Tempalay『((ika))』【ディスクレビュー】

Tempalay、3年ぶり5枚目のオリジナルアルバム『((ika))』に取り憑かれている。19曲72分という大巨編でありながら、その多彩で奇異な楽曲たちに身を委ねているうちにいつの間にか時が過ぎる。幽玄で、猥雑で、耽美で、乱暴で、果てしのない幻想譚。紛れもなく最高傑作だろう。

本作最古のシングル「あびばのんのん」のインタビューで前作『ゴーストアルバム』についてフロントマンの小原綾斗はこう語ってい

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境界で踊る〜橋本絵莉子『街よ街よ』【ディスクレビュー】

境界で踊る〜橋本絵莉子『街よ街よ』【ディスクレビュー】

橋本絵莉子の2ndアルバム『街よ街よ』に感動しきっている。前作『日記を燃やして』では柔らかなアレンジはアコースティックギターの音色も印象的だったが、本作はずっしりとしたグルーヴを活かしたロックバンドらしさ溢れる1作。ライブでの経験値が制作にも反映された好例だろう。

40歳を迎えた橋本が自身の年齢を「若くもないけど老いてもいない、この感じがちょうど踊り場っぽいなって。(中略)ただスッと過ぎていくだ

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戻れないけど消せもしない/Base Ball Bear『天使だったじゃないか』【ディスクレビュー】

戻れないけど消せもしない/Base Ball Bear『天使だったじゃないか』【ディスクレビュー】

子どもが生まれてから生活は変わった。粉ミルクを溶かす時間がルーティーンに組み込まれ、泣き叫べばオムツを変え、それでも泣き続けるならば抱っこする。当たり前のことだが、妻とともに育児に向き合う日々は去年までの自分とは全く違う。しかし買い物に行ったり、出勤したりする時にはいつも1人。そんな時、慣れ親しんだ音楽を聴けば自分が我が子の親になったという事実と同時に、今までと変わらない自分もまたここに居続けてい

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また思い出すための歌~yonige『Empire』【ディスクレビュー】

また思い出すための歌~yonige『Empire』【ディスクレビュー】

yonigeの3rdアルバム『Empire』が素晴らしかった。前作で手にしたなめらかなサウンドメイクを押し進めつつ、活動初期にあった直線的なスピード感も復権させた、懐かしくも新しいyonigeの姿。オルタナティブロック界隈で再発見されつつある2000年代初頭のムードを感じるような作品なのだが、聴き込んでみるとそこに新たな質感が見えてくる。本作は、ノスタルジーとは違う形で過去と向き合うセラピーのよう

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30歳のプレイリスト

30歳のプレイリスト

今日で生誕30周年を迎えました。たかが30歳で加齢を自虐したり、自分の老化をあえて面白がるようなニヒリズムは持ち合わせていないので相変わらず楽しいと思うことを元気よくニマニマとやっていけたらと思う次第なのですが、さすがにめでたいのでアニバーサリープレイリストを作ってみました。「29→30」と題してみました。

好きなアーティストが30歳前後の時期に何を歌っていたかを確かめ、特にグッときたものをずら

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2023年ベストアルバム トップ20

2023年ベストアルバム トップ20

今年はびしっと厳選して20枚で1年を総括。ライブカルチャーの復権と揺れる世界、喜びも悲しみも猛スピードで切り替わる時流の中で、この音楽を聴いてる間はきっと大丈夫だ、と思えたアルバムを選びました。

20位 ROTH BART BARON『8』

三船雅也がドイツに拠点を移してからの1作目。ここしばらく毎年凄まじいアルバムをリリースし続てけいるが、本作はまた違う場所へ飛ぼうとする萌芽を感じた。エレキ

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2023年ベストトラック トップ20

2023年ベストトラック トップ20

今年からは20曲に。選りすぐりの良い"うた"ばかりです。

20位 Cody・Lee(李)「さよuなら」
つくづく彼らは生活のバンドなのだな、と思う。メンバー脱退をここまで明け透けに歌にするとは。本当の想いを隠し切れないという誠実さ。

19位 Bialystocks「幸せのまわり道」
フォークの装いでどこまでリーチできるか、それを何歩先にも進めてしまう存在が、ど真ん中を撃ち抜いてきた。この温かさ

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