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ポップカルチャーは裏切らない

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”好きなものを好きだと言う"を基本姿勢に、ライブレポート、ディスクレビュー、感想文、コラムなどを書いている、本noteのメインマガジン。
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2023年9月の記事一覧

その先の青さに/9.29 ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour2023『サーフ ブンガク カマクラ』@ Zepp Fukuoka(ゲスト:THEティバ)

その先の青さに/9.29 ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour2023『サーフ ブンガク カマクラ』@ Zepp Fukuoka(ゲスト:THEティバ)

こんな日がやってくるなんて思わなかった。今年、15年ぶりに再録された名盤『サーフ ブンガク カマクラ』、それを引っ提げてのツアーである。2009年に当時の全曲を披露したツアーはあったが当時は高校受験で行けなかった。もうほぼサーフの曲を聴くチャンスは無いと思われたが、生きてるといいことはあるものだ。

福岡公演のフロントアクトはTHEティバ。素晴らしいガレージロックを聴かせてくれた。音源はへろっとし

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先生としてではなく患者に接する場所のこと

先生としてではなく患者に接する場所のこと

精神科医の仕事は病室であったり、診察室で患者と対峙することから始まる。初診であればこの方の症状は何か、病名は何か、適切な治療方針は何かを考える。再診や入院であれば今の治療で間違っていないか、今困っていることは何かを尋ねてどうすべきかを考える。これが私の仕事だ。

患者からは自然と“先生”と呼ばれる。初めて診察室で患者を診た日からずっとそうである。気づかぬ内に“先生”という導く側に置かれてしまうと、

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M-1グランプリ2023 1回戦に出てみた感想

M-1グランプリ2023 1回戦に出てみた感想

9/10、別刊というコンビでM-1グランプリ2023に出場した。客としてしょっちゅう行ってるよしもと福岡ダイワファンドラップ劇場にエントリー料だけで立てるなら良い思い出になるなぁくらいで出ようと思ったのだけど、やるならやるで目標は置きたい。そこで合否に関わらず一回戦の全会場で選ばれるナイスアマチュア賞を獲ることを目指して漫才をやっていこうとなった。

しかし結果はあっさり敗退、そしてナイスアマチュ

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救いある関係性を描くこと〜「ほつれる」「こっち向いてよ向井くん」

救いある関係性を描くこと〜「ほつれる」「こっち向いてよ向井くん」

他者と関係を結ぶことはつくづく人生そのものだ。友人、恋人、家族、そういう関係だけでなく孤立を選ぶというのも“他者を拒絶する”という関係を結んでいるわけだから人の心は関係から逃れることはできない。

こういうもの、だとされていた価値観が瓦解しつつある現在。多くの”関係“を見つめる作品が生まれている。ここ最近観て印象的だった2作品もまたしかり。自分や他者にとって救いになる関係性とは何なのだろうか。

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逆らい続けるということ~白石晃士「戦慄怪奇ワールド コワすぎ!」

逆らい続けるということ~白石晃士「戦慄怪奇ワールド コワすぎ!」

POV(主観撮影)形式のホラー映画で著名な白石晃士監督が、その名を広く知らしめた「コワすぎ!」シリーズの新作を劇場映画として発表した。実に前作から8年の時を経ての新作は、今観るための「コワすぎ!」というべき完成度で期待を満たして飛び越える傑作だった。"運命に逆らう"という根底メッセージをそのまま体現したような作品の精神に迫っていきたいと思う。

定石に逆らう「コワすぎ!」シリーズは「ほんとうにあっ

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アジカン精神分析的レビュー『ランドマーク』/グリーフケアとしてバンドミュージック

アジカン精神分析的レビュー『ランドマーク』/グリーフケアとしてバンドミュージック

7thアルバム『ランドマーク』(2012.09.12)

前作『マジックディスク』を携えた半年間に及ぶツアーの中、アジカンは解散目前だった。『マジックディスク』を中心となって作った後藤正文(Vo/Gt)が他メンバーに要求するものが変化し、後藤と山田貴洋(Ba)の間で音楽的なズレが生じたことが決定打となり、このツアーを終えた時点での解散を後藤は考えるに至ったという。しかしこのツアーは2011年3月1

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診察場面として観る「LIGHT HOUSE/ライトハウス」

診察場面として観る「LIGHT HOUSE/ライトハウス」

「LIGHT HOUSE」と「THE Lighthouse/ライトハウス」という作品を観た。片や星野源と若林正恭(オードリー)がお互いの悩みを語り合うトーク番組で、片やロバート・パティンソンとウィレム・デフォー演じる2人の灯台守が狂気に駆られる映画作品である。タイトルが同じゆえ検索でどうしても同時に出てくるのでついでにと2本続けてみたのだが、どちらも“2人の男の対話”を通して紡がれる作品でありなが

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カタルシスを拒む営み~宮藤官九郎「季節のない街」

カタルシスを拒む営み~宮藤官九郎「季節のない街」

Disney+でドラマ「季節のない街」を観た。山本周五郎の同名小説を宮藤官九郎の脚本と監督で映像化したもの。13年前の"ナニ"と呼ばれる災害によって住む場所を失い、今なお仮設住宅に住み続ける人々の姿を描いた作品だ。

本作は被災地を舞台とした作品という点で、宮藤官九郎の代表作「あまちゃん」(2013)を思い出さざるを得ないわけだが、「あまちゃん」が真っ直ぐに喪失からの回復を描く祈りの作品だったとす

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