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散文詩

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#絆

夏霞 《詩》

夏霞 《詩》

「夏霞」

大義名分とか 不変の真理とか

価値観の錯乱とか

閉塞した状況にある抜け道だとか

浮浪者の様に貪り酒を煽り

深夜に台所のテーブルで
詩を書き続ける事だとか

赤子を抱いて
子守唄を歌う反社の女だとか

永遠に失い続ける宿命だとか

人生における
正常な軌道から ずれ始めた事だとか

確かあれは三日前 

空から綺麗な星が落ちて来た

その時 始めて知ったんだ

幻想に似た夏霞

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風を待つ月 《詩》

風を待つ月 《詩》

「風を待つ月」

いつか遠からず其の日はやって来る

長い沈黙の後にそう彼奴は言った

僕は記憶の寿命を延命する様に 

其の断片を永遠に刻み込む様に

時折 
彼奴の言葉を心の中に落とし込む

ジムビームとメンソールと小説と

あの夜 
高速の高架下から見上げた月

僕は意識の中にある

彼奴の扉をノックした

彼奴の愛した最後の女 
そして弟

桜の花びらが結晶化する

永遠を形造るもうひとつ

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方舟と幸せの鐘 《詩》

方舟と幸せの鐘 《詩》

「方舟と幸せの鐘」

心を失くした

深い森の中を彷徨っていた

全ては無音のうちに始まり

邪悪な野獣と

純粋な精霊の吐息を聞いた

不確かな人生の灯りが揺れる

暗い終末の気配を含んだ
湿り気を帯びた風

彼女は方舟…そう一言だけ呟いた

特別な生命の匂いを彼女に感じた

僕等に歌う歌があるとしたなら

僕は漠然とそんな事を考えていた

僕の純粋な仮説が

保留の無い激しい愛を呼ぶ

彼女に

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小世界 《詩》

小世界 《詩》

「小世界」

この世界には 

絶対的な善も無ければ

絶対的な悪も無い 

善は悪に転換し 

悪は善に転換する 

あるのは其の均衡だけだ

すなわち均衡そのものが善である

其の本にはそう書かれていた

死は解放でも復讐でも無く
空白を生むだけだ

僕はそう書き残した

世界が同義を失い崩れてゆくのは

僕達の苦悩や煩悶のせいでは無い

雷鳴とどろく夜に全ての意味を知る

いつだってどんな時

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月明かり 《詩》

月明かり 《詩》

「月明かり」

満月がくまなく街を照らす夜

僕は自分自身が
失われるべき場所のドアを開けた

その場所に君が

閉じ込められている事を

知っていたから

君は残された短い命を慈しむ様に

詩を書いていた

その事だけは僕には 
はっきりとわかっていた

その場所には僕達ふたりしか居ない

そのドアは一方向にしか開かない

僕等は

正しく人を愛する事が出来なかった

そしてまた

自分自身を正

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楽園 《詩》

楽園 《詩》

「楽園」

想像と記憶の中で

静かに彼女と関わりを結んだ

彼女が彼女である事の秘密を
僕は知っていた

語るべきであった言葉 

ほんの少しの勇気

僕の行いの欠如が

僕自身を後悔へと連れ去る

僕の心は

彼女から離れる事が出来ないでいる

同じ過ちは繰り返さないと誓った

彼女は 

僕の身体と心の一部を持ち去り

僕の元に彼女の

身体と心の一部を置いて行った 

目には見えない其の一

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魔女狩りの詩 《詩》

魔女狩りの詩 《詩》

「魔女狩りの詩」

生きる事を目的として戦い続ける 

目には見えない

圧倒的な力を持つものが襲う

其れに相対する

救いに似た光を求めた

あらゆるものを  

ただ黙々と受け入れ

其処にあるものを

呑み込み全てを赦した

其の優しさに身を委ねた

僕等の時間が
それぞれの経路を辿り流れる

恐怖や希望

絶望の中に揺らぐ炎を見た

だが君は心の奥底で死を望んでいる

その流れがひとつに

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流れる水と小さな星 《詩》

流れる水と小さな星 《詩》

「流れる水と小さな星」

僕の目の前にある時間は

静かな足取りで通り過ぎて行った

其処には僕の意思とは関わりなく

其れ自身の原理に従い

流れる水の様に静かに

彼女は僕の知らない場所で
眠っていた

其処は時間と空間によって 

行動の自由を制限される事の
無い場所

夢の無い深い眠りの中で

僕達には行かなくてはならない所が

やらなくてはならない事がある 

その事をはっきりと知る

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暗雲の隙間 《詩》

暗雲の隙間 《詩》

「暗雲の隙間」

雲が千切れる様に割れ

僅かな月明かりが射す

暗雲の隙間 

途切れ途切れの光が

僕の胸の中に隠された言葉を照らし

浮き彫りにしては消えてゆく

淡い青色の世界が訪れては消え去る

そして無音の漆黒が全てを包み込む

肉を削ぎ落とした骨格から発する

意識の放射が暗闇を貫く

其の凝縮された陰影を

網膜と脳裏に焼き付ける

僕は思考の切れ端を追い続ける

脳内の架空の白紙

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陰影 《詩》

陰影 《詩》

「陰影」

混じり気無しの本物から
100パーセントの偽物まで

どうでもいいさ 

そんな事

無名のまま消えた彼奴の言葉は

本当に無価値なのか 

その価値基準は何処にある

才能は無いけど良い奴だとか

才能だけはあるが

糞みたいな奴だとか

飢えと乾きが集約された夜の色

其処に開いた巨大な穴は

全ての始まりを意味する

入り口なのか

全ての終わりを意味する

出口なのだろうか

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雨音 《詩》

雨音 《詩》

「雨音」

僕は彼女と交わした

話しの断片を思い出していた

いつの間にか天候は崩れて空は

湿気を含んだ重い雲に覆われていた

僕は傘を持っていない

長く降り続きそうな雨 

ネクタイを緩めた

彼女は不思議な事に
雨の夜にやって来る

もう逢えないかと思ってたよ 

そう言った僕に

貴方は私に逢う度に

同じ事を言うのね 

彼女はそう言って微笑んだ

そして唇を噛んでまた少し笑った

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残された街 《詩》

残された街 《詩》

「残された街」

壁に焼き付けられた影が

腐敗と崩壊と失望を映し出していた

嘘だって良かったんだ 

お前と逢える口実を
探していただけなんだ

記憶は 

ゆっくりと時間をかけて

薄れ霞んで消えてゆく

其処に俺達が属している事は
静かに降り頻る雨が知っている

そして時が過ぎ去り

後には

街だけが残され今も生きている

幾つもの戸惑いと

頬にあるハスった傷

失くせないもの ただひ

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Yes Sir 《詩》

Yes Sir 《詩》

「Yes Sir」

目の前にある現実を離れ夢想に耽る

其れは僕にとっても君にとっても

別の世界に通じる秘密の扉だった

その扉を開くのは自分自身の想像力

上手く強く想像する事が出来れば

その扉は開き

現実から遠ざかる事が出来る

其れが生きて行く為に
欠かせない必要な事なの

そう彼女は僕に微笑みながら囁いた

僕は彼女の瞳に

自分自身の反映を見る事が出来た

時には傲慢で身勝手で

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ジムビーム 《詩》

ジムビーム 《詩》

「ジムビーム」

雨上がりの空は

まだ灰色の雲に覆われ

地面は黒く冷たく濡れたままだった

他人と比較する事の無意味さを知る

自分自身の中にある

淀みなき流儀がメッセージを持つ

僕が感じていた乾きと刹那 

形を変えて行く雲

沈黙が旋律の様に舞い降りて来る

君は君自身が世界にある何かに

きっちりと結び付いている
証を探していた 

此処は単なる通過点であり

目的地へ向かう階段だと

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