#短編小説
『東京23区最後の日』1
1 東京じゃないから
ナオコは毎日トオルとのメッセージのやり取りを欠かさない。
昨年、地元の高校を卒業して、東京の大学に入学した。いくつかの志望校はあったものの、東京の大学ならどこでもよかった。
地元にも大学はあった。しかし、ネットで流れてくる若い女性タレントの東京での私生活に憧れないわけにはいかなかった。
「今日は久しぶりのオフ。表参道の新しいカフェでランチでーす」
しかも、そのアイド
ダブルコスモス 【ピリカ文庫(2021) ショートショート】
納屋を片付けていたら、手金庫が出てきた。
金庫とは、ちと大仰かもしれない。両手で包み込めるほどの箱に、南京錠がちんまりとしている。
おそるおそる、四桁の数字をあわせてみる。
おいそれと、カチリ、とはいわないのであった。
祖母の手にかかると、あっけなく開いた。
「ばあちゃん、じいちゃん、父さん、母さん、私、誕生日は全部やったけど」
ふふふふ、と祖母は声を立てずに笑う。
「宝の地図?」
赤と黒 〜僕らが決別した理由
編集者の中にはベストセラー作家よりも有名なものがいる。いわゆるカリスマ編集者と言われている連中だ。彼らは本を売るために作家の原稿に手を入れ、時としてベストセラー作家に対してさえ書き直させる。そしてそういう連中の編集した本は話題となり、連中はベストセラー本の編集者として本の著者よりも持て囃された。だが、作家としては自分の原稿に手を入れられ、また直接ダメ出しされるのはかなり屈辱的なものだろう。しかし
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