ばしゃうま亭 残務|小説とエッセイ

短い小説(ショートショート)、エッセイなど ◆しがない広告プランナー ◆note公式コ…

ばしゃうま亭 残務|小説とエッセイ

短い小説(ショートショート)、エッセイなど ◆しがない広告プランナー ◆note公式コンテスト「私らしい働き方」「2000字のドラマ」受賞 有難ぇ! ◆ぼくの文章が、どこかで意味をなしますように

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【短編小説】涙くんと涙ちゃん

「見ててな」 藤野は上目で俺を見ながら、人差し指で自分の目頭を差した。そこから、ツー、と涙が溢れ出す。鼻筋を通って、口元まで垂れてきたところで、涙を手で拭う。 俺は、急に泣き出した友人をまじまじと見る。 「まあ、びっくりするよね。これが俺の特技というか、特殊能力」 藤野はテーブルの紙ナプキンで涙を拭き取っている。 「自在に涙を流せる・・ってこと?」 藤野は頷く。 テレビで見るような、役者さんが役に入り込んで泣くのとはワケが違う。2秒ほどで、蛇口を捻るように藤野は

    • 【雑記】大人のどんぐり拾い

      実家のある福岡へ出張したついでに、少し滞在していました。 天神あたりで仕事をしていると、窓から見える空がすっかり秋です。 薄く伸ばした雲が高い位置に流れている、秋の空。 最近はそんな「いかにも秋」みたいな日も貴重になってきました。 だからパソコンを閉じて、少し散歩に出かけることに。 福岡の方ならわかると思いますが、天神には街中に”山”があるんです。 本物の山ではなく、山みたいない建物です。 「アクロス福岡」といいます。 段々になっているビルの側面にびっしり木が植えられ

      • 【コラム】『インサイド・ヘッド』の面白さを、構造化して考えてみた

        『インサイド・ヘッド2』、かなり好評のようですね。 もう観た方も多いと思いますが、この手の動きが遅い僕はこれからです。 ただ、いちピクサーファンとしてきちんと満を持して観たい!と思っており、そこで、前作『インサイド・ヘッド』を例によって構造分析してみました。 すでに観たという方も、ぜひ復習として観ていただければ。 これは、「主人公ヨロコビが成長していく物語」だというのが、整理してみるとよく分かります。 改めて観ると、ヨロコビって最初はけっこう嫌なヤツですよね。 彼

        • 【雑記】弱った美術館と、好きを発信する意味について

          DIC川村記念美術館の休館のニュースを目にしました。 千葉県の佐倉市にある美術館。 車がないといけない難儀な場所にありますが、木々に囲まれ、青い湖と刈り込まれた芝生が広がる、それはそれは美しい美術館です。 そこに都心から1時間少しでいける、というのがいい。 休みの日に11時くらいにのっそり起きて、お昼ご飯をたべてもなんか気持ちが晴れないなぁなんて日にも、昼過ぎからシェアカー借りて訪れられる。 かつ、展示作品の豪華さもすごい。郊外の企業系美術館と侮ってはいけない。モネやピ

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        【短編小説】涙くんと涙ちゃん

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          【コラム】『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の面白さを、構造化して考えてみた

          先日アップした記事「トイ・ストーリーの面白さを、構造化して考えてみた」に、たくさんのスキをいただきました、ありがとうございます。 さらに、noteさんの『今日の注目記事』にも久々に選んでいただきました。 いやもう、こんなんでよければいくらでも書きますよってに。 実は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下BTF)でもストーリーの構造化分析をしてみてたので、こちらもぜひ見ていただければと思います。 すごいですよ、この映画も。 個人的にですが、「災難巻き込まれ系ストーリー

          【コラム】『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の面白さを、構造化して考えてみた

          【コラム】『トイ・ストーリー』の面白さを、構造化して考えてみた

          脚本スクールに通いはじめて約1年、物語術を知識として勉強するようになり、映画やドラマを観る視点も変わってきました。 具体的には、ストーリーを構造で捉えて、「この映画が面白い理由(あるいはつまらない理由)」を論理で考えようと試みる習慣がついてきました。 まだまだ粗い分析ですが、それでも過去観た映画なんかを改めて今観てみると、「なるほどそういう仕組みだったか」と新たに気づくことも増えた。 そんな中、トイ・ストーリーを最近久しぶりに観返してみたんです。 で、圧倒されました。

          【コラム】『トイ・ストーリー』の面白さを、構造化して考えてみた

          【雑記】スカイツリー百景

          8年間住んだ、両国・錦糸町の町から引っ越すことになりました。 僕が住んだのは正確には「緑」という町で、京葉道路を西に歩くと両国、東に歩くと錦糸町がありました。 都市開発の侵食を逃れた下町情緒が残る地域で、銭湯で出会う和彫りを背負った任侠おじさんや、相撲部屋の若手力士たちが鬢付け油の香りを漂わせながらママチャリを漕ぐ姿は、この町ならではの風物詩でした。 転職に際して上京したのが8年前。 山手線が円形であることすら知らない地方者だった僕は、「深夜残業があるから会社からタク

          【雑記】友とコーヒーと嘘と胃袋

          世の中には、十分に信じられるものと、あきらかな嘘と、その中間の3つがあって、この3つめ、つまり「嘘か本当かわからないもの」が、あまりにも多すぎると思うんです。 あまりにも、です。 ほぼ全部そうかもしれない。 たぶん人類史ずっとそうだったんでしょうけど、特に現代はネット社会だから、よく分からん情報がドバドバ流れ込んでくる。蛇口全開で。 これは疲れるから、デジタルデトックスでもしてみようと考える。 だけどこうも生活基盤にネットが食い込んでしまうと、毒素だけを抜き出すこともも

          【雑記】友とコーヒーと嘘と胃袋

          【雑記】幸福な日曜夜のための古代エジプトトリップ

          幸福論のラッセルさんが、「多くの不幸は、考えても仕方ない時に、考えても仕方ないことを考えるから生まれる」的なことを言ってて、これは本当にその通りだなと思いました。 だから僕は、仕事以外の時間ではなるべく仕事のことを考えないようにしています。 前向きなことなら考えていいと思いますが、後ろ向きな仕事の心配事なんかは、土日に1ミリも入れたくない。 とはいえ、「考えないようにする」ってけっこう難しいですよね。 一時的に記憶を消したり、蝋燭の火みたく吹き消したりもできない。 気晴

          【雑記】幸福な日曜夜のための古代エジプトトリップ

          【雑記】映画鑑賞における「永沢さん理論」

          僕は週に1〜2本は映画を観るし、映画のために4つのサブスクに毎月課金しています。家のテレビだって、映画鑑賞のために買い替えました。 だけど、「映画ファンです」「趣味は映画」などと、人前ではできるだけ言わないようにしています。 それは、最新映画に対する動き出しがあまりにも鈍いからです。 もしかすると、特に映画好きでもない人よりも遅いかもしれません。 一部の映画通が火をつけて、大衆が乗ってブームになり、そのブームが一旦落ち着いたあたりでようやく腰を上げます。 だから映画館に

          【雑記】映画鑑賞における「永沢さん理論」

          【雑記】夜のサンバイザーおばさんとAI議論

          ある日の夜、街を歩いていたら、サンバイザーを被ったおばちゃんに出会いました。 夜なのに、です。 もうサンは落ちているんだから、サンバイザー、取ればいいのに。 また別の日。 喫茶店にて、アイスコーヒーをグラスで直飲みしてるおっちゃんを見ました。グラスにはストローが挿さったままです。 ストローが額に当たって飲みづらそう。ストロー、取ればいいのに。 でも、そういう光景、すごく落ち着きます。落ち着きません? 日々、仕事をしていると、利益とか効率とか、ロジックとかエビデンスとか、

          【雑記】夜のサンバイザーおばさんとAI議論

          【エッセイ】悲しいとか寂しいとかとは違う涙

          連休の只中、5月2日の夜に、父が逝去しました。 享年73歳、胃がんでした。 夕方に母から危篤の報を受けて、東京から急いで福岡へ。 福岡空港に着いたのは夜10時過ぎ。飛行機を降りてすぐ母に電話をすると、 「お願い、急いで。お父さんが待ってくれとる」 待ってくれとる、という言葉が何を意味しているかは、すぐ分かりました。 タクシーで急ぎ病院に向かう。 はやく、はやく。待ってくれとる。 病棟に着き、急いで受付用紙に記入しようとすると、待ち受けていた看護師さんが「受付いいですから

          【エッセイ】悲しいとか寂しいとかとは違う涙

          【短編小説】校庭の犬

          朝起きたら、犬になっていた。 小麦色の、痩せた柴犬になっていた。 しばらく困惑して、いったん諦めて、その後にあることを思いつく。 「そうだ、授業中の小学校の校庭に紛れ込んでみよう」 犬になる前の僕は、地味で目立たない三十路男だった。 地味な服を着て、地味な髪型をして、地味な表情を保った。両親と歯医者さん以外に、自分の身の上について語った記憶もない。 どこかで軌道修正しようと思ってはいたけれど、「行けたら行く」くらいの薄っぺらい決心が行動に移されることなんて当然なく、

          【23年振り返り】「何も起こらない」を楽しめはじめた一年

          23年、振り返ってみると、変化の少ない一年でした。 22年の前半にnoteのイベントで朗読劇脚本を書かせていただいたりして、そのあたりには何か人生が変わりそうな、激アツリーチに掛かったようなヒリヒリ感がありました。 だけど扉は開ききらず、機会は通り過ぎ、その後は銀玉が繰り返しガラガラ回り続ける日々に戻りました。 左打ちの日常。それが23年になってもずっと続いていた感じ。 良くも悪くも、大きな事件は特になし。 ひとつあるとすれば、シナリオスクールに通い始めました。 そし

          【23年振り返り】「何も起こらない」を楽しめはじめた一年

          【短編小説】賞味期限切れ

          ある夜、ポン酢とごま油が復讐にやってきた。 玄関に立っていたのはふたり。焦茶色の着物を着た文豪のような小男と、山吹色のパーカー姿をした背の高い男。 「我々が誰か、分かりますか?」 焦茶色の男が、落ち着いた声で尋ねる。 僕はふたりにまったく心当たりがなかったから、いや分かりません、と答えた。 すると、山吹色の男が吼えた。 「はっお前っ、なんで分かんないんだっ!」 焦茶色がそれを手で抑える。 「まぁ、分からんでしょう。その無自覚に我々は怒ってるわけだし」 怒ってる?訳

          【短編小説】トンビと揚げパン

          カイトが浜辺を歩いていると、一頭のトンビが岩の上に止まっていた。 トンビは、黒豆のような黒く澄んだ目で、カイトをじっと見ていた。 「すみません、あげぱん、って知りませんか?」 トンビに話しかけられて、カイトはギョッとする。 だけど生真面目な彼は、まずトンビの問いかけに答えようと努める。 「あげぱん?あげぱんって、あの、揚げたパンのこと?」 トンビは答える。 「ぼくはどんなものか知らないんです。兄さんが、一度食べたことがあったらしくて、なんどもなんども、その話をします

          【短編小説】トンビと揚げパン