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エッセイや漫画や小説や……読んだ本の記録
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星野源『よみがえる変態』

星野源『よみがえる変態』

源さんの『よみがえる変態』の文庫版。

先の2泊3日の東京旅行と、帰ってきてからの数日をかけて、読了した。

もう、なんて言葉にしたらいいのだろうか。

1994年生まれのわたしは、いま29歳、今年30歳になる。

で、この『よみがえる変態』のもとのエッセイが連載されていたのが、2011年の春ころから。

源さんは1981年生まれだから、ちょうど源さんが30歳前後の頃の日々や風景や思いがつづられて

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最果タヒ『愛の縫い目はここ』

最果タヒ『愛の縫い目はここ』

場所を変え、時間を変え、ちょっとずつ、ちょっとずつ読んで、さっき読み終えた。

一冊の本だけど、何か大きなものを抱きしめるように、大事に読んだ。

この詩集に収められている最果タヒの詩には、
光があって、
色があって、
透明があって、
大地や空があって、
身体があって、
傷があって、
愛があった。

ここの部分を読んだ時、わたしの身体はカフェの窓際にあった。

顔を上げると目の前には、大きな窓があ

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志村貴子『おとなになっても』

志村貴子『おとなになっても』

気づけば、大好きな漫画が完結していた。

志村貴子先生の『おとなになっても』(全10巻)。

好きな漫画の最新刊を追わなくなったのが、2023年だったなあと思う。

でも年が明けてやっと、最終巻まで読めた。

完結おめでとうございます。

ちょっと寂しい。

『おとなになっても』は、女性どうしの恋愛を軸に、パートナーのこと、家族のこと、友だちや職場関係のこと、おとなのこと、こどものこと……
たくさ

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いつでもやり直せる

いつでもやり直せる

マンガ『島さん』がめちゃくちゃ良かった。

深夜のコンビニで働くおっちゃん・島さんが主人公。彼を中心に描かれる人間模様が、人間くさくて泥くさくて、やさしさに溢れていて、とにかくすんばらしい。このご時世も相まって、やたらと染みた。

この中に、「ヤネさん」というエピソードがある。善悪が揺らいでしまうような「どうしようもなさ」と、それをも包み込もうとしてくれるやさしさに心がかき乱されて、お気に入りのひ

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作品と「目が合う」瞬間

作品と「目が合う」瞬間

積ん読は、いい。

なにせ「本と目が合う」瞬間がある。部屋の一角できれいに重なる本の背表紙と、「あっ、」と目が合う瞬間が。

不思議なもんで、そうしたアイコンタクトから始まる読書の旅は、その時その瞬間に自分が探しているものを教えてくれたり、欲していることばをくれたりする。

先日もそんな読書体験があった。読んだのは、吉田秋生先生のマンガ『海街diary』だ。

全9巻のこの作品、実は7巻までは読ん

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恵口公生『キミオアライブ』

恵口公生『キミオアライブ』

「やりたいから やるんだ」

このことばが、こんなにも胸を打つとは。

やりたいことを「夢ノート」に書き溜める高校一年生・長谷川君夫(はせがわきみお)。かつて生死をさまよう経験をした彼が、仲間と共にユーチューバーとなって「やりたいこと」をひとつずつ叶えていく物語。

社会にでると、「こうすべき」「このほうが望ましい」ことを選ばざるをえず、何をやるにも「根拠」「目的」「コンセプト」などなど何かしらの

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柳亭小痴楽『まくらばな』

柳亭小痴楽『まくらばな』

柳亭小痴楽の落語が好きだ。

落語家だし、高座から受け取ったことがすべてだと思っていたのだが、彼の落語を聞けば聞くほど、やっぱりご本人がどんな人なのか知りたくなって本書を読んでみた。

柳亭小痴楽の半生を辿る一冊タイトルの「まくらばな」は、漢字で書くと「枕花」。

仏事用語で、亡くなった人の枕元に飾る花のことだ。

この本には、そんな手向けの花のような何ともいえぬ鮮やかさがある。

全編を通して、

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坂元裕二『花束みたいな恋をした』(シナリオ版)

坂元裕二『花束みたいな恋をした』(シナリオ版)

京王線に揺られながら読んだこの本が沁みまくる週末だった。

絹と麦の日々を描いた、5年間の物語。変わりゆく景色、流れゆく時間がこんなにいとおしくて切ないなんて。数ある花々の中から好きなものを選んで集めて束ねていく過程と、できた花束を大事に愛でる時間と、それが色とうるおいを失っていく様と。すべて込みで「花束」だなと思うなどした。一つの恋ではなく、二人分の、それぞれの恋の物語だった。

坂元さんのあと

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カツセマサヒコ『明け方の若者たち』

カツセマサヒコ『明け方の若者たち』

主人公の、好きな人をいとおしく思うきもちが、わたしのそれを何十倍にも膨らませてくれて、とってもあたたかい気持ちになった。苦しみや切なさに共感しつつも、それすら幸せで、もうなんというか。

でも正直、途中でちょっと読むのがしんどくなったところがあって。というのも、自分が社会人1~3年目のときに仕事で悩み苦しんでいたようなことが、実況かと思うくらいありありとそこに描かれていたの。共感どころか、あの頃の

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若林正恭『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』

若林正恭『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』

「ぼくは今から5日間だけ、灰色の街と無関係になる」

キューバに向かう飛行機に乗った若林さんが、東京のまちを見下ろしたときのことばだ。これを読んだわたしは、いろんな含みを込めた結果「街が灰色」なのだと思っていた。しかしキューバ編を読み終わる頃には、これが「自分の目が、心が、街を灰色に映していた」という意味なのだと気づいた。

この本を読むまでわたしは、旅に出る行為は「逃げる」ことに等しいと思ってい

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