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恵口公生『キミオアライブ』

「やりたいから やるんだ」

このことばが、こんなにも胸を打つとは。

やりたいことを「夢ノート」に書き溜める高校一年生・長谷川君夫(はせがわきみお)。かつて生死をさまよう経験をした彼が、仲間と共にユーチューバーとなって「やりたいこと」をひとつずつ叶えていく物語。

社会にでると、「こうすべき」「このほうが望ましい」ことを選ばざるをえず、何をやるにも「根拠」「目的」「コンセプト」などなど何かしらの「理由」を求められることが多くなる。知らないうちにそういう選択をすることがクセになってしまうことがあるし、もしかしたら、そうなっていることにすら無自覚なことのほうが多いかもしれない。

今、「ただやりたいから」という欲望だけでやれていることって、どれくらいあるんだろう。

「これをやってどんなメリットがあるの?」
「何か意味があるの?」
「どんな成果が得られるの?」
そんなことを考え始めてしまって、何だかめんどうになって、結局なにもやらず仕舞い、なんてことはザラにある。大人になると、スタート地点でなく、ゴール地点を見据えるようになってしまうから厄介だ。ただ「やりたい」というきもちだけを大事に抱えてスタートダッシュを決められたら、どんなに気持ちいいだろう。

「夢ノート」があったら何を書こう?と考えてみたが、案外すぐに筆が止まった。なぜなら、「やりたいこと」でなく「できそうなこと」ばかりが浮かんでくるからだ。まずは「やりたいこと」を書き連ねる前に、「お金があったら」「時間があったら」「体力があったら」という条件付けをひとつひとつ剥がしていく作業が必要だと知った。

『キミオアライブ』は、そんな風にガチガチに凝り固まった心をほぐしてくれるような作品だった。キミオに「君はどう?」と問いかけられているような気がした。そしてそれに対して、何度もドキッとしてしまったということは、つまりは、そういうことだ。今はまだ、キミオの目をまっすぐに見つめ返せないな。

こんなに生命力にあふれた素晴らしい作品に出会えて幸せです。恵口先生に感謝とリスペクトを込めて。


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