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カツセマサヒコ『明け方の若者たち』

主人公の、好きな人をいとおしく思うきもちが、わたしのそれを何十倍にも膨らませてくれて、とってもあたたかい気持ちになった。苦しみや切なさに共感しつつも、それすら幸せで、もうなんというか。

でも正直、途中でちょっと読むのがしんどくなったところがあって。というのも、自分が社会人1~3年目のときに仕事で悩み苦しんでいたようなことが、実況かと思うくらいありありとそこに描かれていたの。共感どころか、あの頃のボロボロの自分に憑依されそうな気さえして、怖くなってついつい本を閉じたりもした。ちょっとした描写に共鳴して思い起こされる灰色の記憶は、どれもいまだに解像度が高すぎた。今でも十分に当時の感覚を再現できてしまって、そんなに時が経っていないことを思い知らされた。……苦しいけれど、これは最高の読書体験だよね。

ところで、英語のタイトルは "the end of the pale hour" なの、めちゃくちゃいいなって。原題では「若者たち」の物語だけど、洋題だと、「時間のおわり」に焦点が当たっていて、ひとつの季節のおわりを描いた物語でもあるんだと。"end" と同時に、これから明けていくし、新しい季節がはじまっていくし、そういうはじまりの物語でもあるのだよね。

最高でした。


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