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無題

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随想あれこれ。その時感じたこと、考えたことの集まり。 物思いに耽るとき、何を片手にしていますか?私はだいたい白湯かそば茶です。
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#エッセイ

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ブルー・ジーンズに光射し、シャワーを浴びたての髪はしっとりしたカールが跳ねる。心臓をあたためるのはときめく都会の雑踏、狭いバーのカウンターで飲むジン・トニック、箱の絵から飛び立つツバメ、キース・ジャレットのレコード、長い眠りと短い目覚め。
滲んだアイラインを拭った指先に、誰かがキスをする朝を愛さない。拾い集めた巻紙から溢れる葉を、子供の頃履かされたちくちくする毛糸の靴下を、春めいた風を、わたしはハ

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今朝はやけに明るい日差しの中で目を覚ました。天井は昨日よりも白く、陽の当たるサボテンの鉢が眩しそうにしていた。気怠い身体に対して、気持ちは明るく、灰皿に乗った2本のジタンの眼差しに、乾いた喉が潤いを求めて、もう一度眠りの中に私を誘うのだった。
陽の光は、もはや夏のそれではなく、新しい季節の飛沫をあげ、齧ったリンゴから滴って落ちていく。
さよなら、海の鳴き声。さよなら、赤い口紅。そういう風に夏を忘れ

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ベビィパウダーに木綿のTシャツを抱いて、べたついた朝の身体は呼吸をした。陽は柔く、湿った空気をまとったベッドシーツの温さが、嫌な気持ちを呼び起こす。蔓の伸びた知らない葉っぱが、頬に手を伸ばしては撫で、時に傷口とへ入っていく。
いくら優しい涙だからといって、それが美しく見えたところで、湿った傷口にあたればつんざくような痛みを生じさせ、陽の光に当たってはその痕を色濃く残すことになるのだった。
自分の肩

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すべてのものが大きく見える夜、床はとても近く、天井は気が遠くなるほど上の方にあった。羽虫が指先を這っている。その羽を毟って、自分の指に取り付けてやってもまだ指は重く、そこで停滞しては、嫌な気持ちになるようなことをぶつぶつと呟くほかには、碌に何もしようとしないのであった。
3つの体に、それぞれ何度か接吻をした時、それらはプラスチック製の容れ物として海を漂い、塩辛い水を厭というほど飲んで、その苦しさに

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庭にカナヘビと蜻蛉が2匹。塀の上と周りで走り回っているのを見ているといつの間にやら蜂がやって来て、チョウチョが飛んでいる。アイビーの葉脈が日光に透けたのを眺めながら、ゆっくりお白湯を飲む。

背骨を丸めて膝を抱えながら、ぎゅっと抱き締めると落ち着くし、自分がしっかりと自分のことを守っている感じがするけど、膝を見つめていると、そのときが大抵苦しいときだということを思い出させる。
忘れる作業はいつも思

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閉じ込めておきたいようなものを閉じ込めておいて、苦しくなることはよくあるけれど、そういうときに一番困るのは前にもそんなようなことがあったはずなのに、その時どうしていたかちょっとも思い出せないことだ。

今とても困っている。できることとしたいことの間に私がいて、世の中でやっていけそうなことと、上手くできない部分の向こう側にあなたがいて、その間を大きい鯉とかナマズみたいな魚が飛び跳ねながら泳いでいる。

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目が覚めて気分が良いというのは素晴らしいことで、例えこの上なくお腹が空いていたり、気持ちの中にどこか寂しさみたいな靄を抱えていたとしても、目覚めが良ければ大体のことはなんとかなるのだ。
それには意味のない夜更かしをしないとか、あまり食べすぎないとか、暗いニュースから離れるとか、暖かくして眠るとか、充実した夜更かしをするとか、細々としたことがとても重要になってくる。なかなかこうしようと思って上手くい

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電車のホームを駆けずり回る埃(のようなもの)は何からできているのだろうか。
冬場はとくに立派な個体となっている気がするので、やっぱり電車に乗るお客さんの衣服から少しずつ少しずつ成長しているんだと思う。とりわけ地下鉄の埃(のようなもの)は個体ひとつひとつがしっかりとした形を持っていて、身がキュッと締まっている気がする。きっと小さな埃の粒の逃げ場がないので集まっては駆けずり回る羽目になっているのだろう

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大丈夫かな、ちょっと無理そうかも、でも大丈夫だと思う。
そういう思いで出かけて、ひどい靴擦れで家へ帰ってきた。

でもそういう日は気がつくと足元か、あるいはそれより少し先に転がってるそれらに気がつく。ソファにはクッション、茹でた卵が少し半熟、とっておきのためにまだ下ろしていないワンピース。

小さなお犬サマは涙目で絆創膏を貼り直すのを横目にあくびをする。なぜだか私は今日もまた眠りにつくのに時間がか

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半端でツヤツヤしたお月様が出ていたので写真に撮ろうとしたら、案の定遠くの白い星か、できたばかりの胎児のようなぼんやりした光にしかならない。

それで湯船に浸かりながら頬杖をついて、あれこれ考えたり悩んだりふふふと笑ったり歌ったりしていた。入浴剤入れればよかったな。マンドポップを流しながら楽しい出来事を思い浮かべたらちょっと寂しくなった。頭の中でカレンダーを広げて、一つずつ赤いペンでチェックを入れる

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パソコンが発する微熱、ベビーパウダーの甘ったるい香り。
非常に居心地の良い居心地の悪さみたいなものがずっと頭の中にあって、こびりつく、というよりはもやがかかったようなそんな感じがしている。後ろ向きみたいな前向きで、そんなに高くない温度の揺めきがこのへんをうろうろしては時々思い出したみたいにちょっかいをかけてくるのだ。
でもそれ以外はなんてことない。カプースチンを弾く肘がいつもより揺れるだけ。ペダル

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noteをメモがわりに、面白いことがあるとちまちま書き留めていたものが全く綺麗な状態にできずにいる。ひどいのは半年くらい前のテキトーな単語3つくらいのメモで、ひとつずつ美味しいものでも食べながらちょっとした文章にしたいなあと思いながら、年が越えようとしているのが憎らしい。

10月からもう少しいろいろな熱りが冷めないとここにかきにくいような面白いこともドッと押し寄せている中で、ちょっとしたことにも

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水やり蝉の抜け殻を拾ったらとても軽くて、なんだか涙が出てきた。
暑いので植物にホースで盛大に水をやる。こういう季節は日差しも湿気の強い匂いもあんまり好きではなかったけれど、青い葉っぱから滴る雫を見ると何だか自分まで生き生きしているような感じに見舞われた。でも、早朝からもう既にエネルギーに溢れた日差しが私にはとってもつらい。だけれど、暑い暑い言いながら外に出て、水を撒いたり、季節を見つけたりして、部

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誕生日に友人から貰ったワインのラベルには猫がいる。黒い毛皮に大きな瞳がじっと見つめてくるのだ。
あまり強くないから普段は飲まないようにしているのだけれど、明日や今日のお風呂とかのわずらわしいことを全部考えずに、ワインやら美味しいビールやら、こってりしたオリーブを美味しい美味しいと好きなだけ口に入れたい。
なのに、いざそうしたら自分を制限できない自分への悲しみに似た怒りがふつふつと湧き上がってくる

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