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無題

水やり

蝉の抜け殻を拾ったらとても軽くて、なんだか涙が出てきた。
暑いので植物にホースで盛大に水をやる。こういう季節は日差しも湿気の強い匂いもあんまり好きではなかったけれど、青い葉っぱから滴る雫を見ると何だか自分まで生き生きしているような感じに見舞われた。でも、早朝からもう既にエネルギーに溢れた日差しが私にはとってもつらい。だけれど、暑い暑い言いながら外に出て、水を撒いたり、季節を見つけたりして、部屋に入るとぐったりするのが気分の良いことになる日が来た。
そういう日は突然やってきて、それなのに気がついた時にはただ面倒くさいものになっていたり、知らず知らずのうちに誰かに邪魔されるように自分で仕向けてしまったりする。今日みたいにお腹が空いていても機嫌が良い日はそうなる日のことなんか想像もできない。庭に自分ひとりと虫と葉っぱだけだと世界全てが輝いて、貴重で、とんでもなく綺麗に見えるのだけれど、それもいつまで続くのやら。
だから気分は良いし、涙が出るのだ。純で透明な気持ちが長続きしないことは経験からよく知っているので、トンボの後ろ姿一つで、セミの抜け殻一つで涙が出るのだ。

水を飲みながら日差しを浴びた庭を思い返す。水は飲みたい量と飲める量が違うと溢したり溢れたりするが、暑い日はとくにそれが多い。今朝はリュウノヒゲの根元にカナヘビがいた。苔の上では団子虫の家族(かどうかは分からないけど)が横になっている。抜け殻は小さい鉢の上にそっと移動させた。塗れないところに。忙しい私が気が付かないところに。


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