ヤマモト・カレン

水瓶座。東京都在住。本職はピアニスト。 神経質ですが、何とかやっています。 好きな物は…

ヤマモト・カレン

水瓶座。東京都在住。本職はピアニスト。 神経質ですが、何とかやっています。 好きな物は冬瓜、羊羹、ジャム、カヌレ、コーヒー、ジンなど。

マガジン

  • 無題

    随想あれこれ。その時感じたこと、考えたことの集まり。 物思いに耽るとき、何を片手にしていますか?私はだいたい白湯かそば茶です。

  • ドリイミング

    夢日記。何の深層心理なのか知っている人がいたら教えてください。

最近の記事

無題

春の夜、その花は俯き、誰とも目を合わせることはなかった。ちょうど伏せた目の、まつ毛と瞼の間にあるようなものだったと思う。とにかく、私の耳に飛び込むあなたの鼓動は想像よりも高い音をして、道路を飛び跳ねながら消えてゆくのだった。 雨に濡れた道はしっとりとして、街灯が照らす太ったねずみと壊れたビニール傘の死体を抱いていた。ねずみは静かに潰れ、ビニール傘はばたばた言った。街ゆく人は、お気に入りの長靴で、あるいはぴかぴかの蝙蝠を携え、死体の横を通って行った。 空気は温く、体は冷たかった

    • 無題

      朝靄にブルージーンズ、愛は白い砂 裸の指にまとわるそれは、 陽の光を浴びる女、 黒い髪、黒い瞳 あなたは横たわる 骨のかたちを砂に映して あなたは横たわる こつんと当たるまろやかな膝 夕焼けにブルーチーズ、安ワインにオイスター 半ばの月に擬う胸を照らすライトさらり、 白いタオル、白い頬 わたしは横たわる 眠りに上下するメリーゴウランド わたしは横たわる あなたに背を向け、愛を呟く

      • 春の星

        柔い日差しをかなしいと思う。雪が溶ければ、冬のたのしい思い出たちが流れて、あたたかで不安な春がやってくるから。 ぬるい日差し、それはあなたを傷つける朝の日差し。微熱、こわい夢、冷たい鼻先。 穏やかな日差し、それは私の身体を抱く冷たい腕。ハイヒールに靴擦れした踵、寝覚めの涙一匙。 柔い日差しは淋しいと思う。雪が溶けても、わたしはあなたを愛し、春になればあなたは私を愛さない。 けれども春はまだ来ない。あなたは冷たくなったわたしを抱いて、冬に眠る。目が覚めれば、きっと私を春へ連れて

        • 現象について3

          祈りについて、あなたは尋ねた。その問いは、絡まる指先と、冷えた煙の間にあった。 祈りはそこにあるものだった。そこかしこにそれはあった。ちょうどあなたと話していた日の、オレンジ・ジュースの溶けた氷のような姿をしていた。 それは常にそこにあった。それは猫足の椅子に腰掛け、両の瞳を見つめ、少し震える指先で私の輪郭をなぞった。そしてそれはあちらにある街灯に視線をやり、物静かな涙を連れて来たのだった。 街灯は照らす。革のブーツ、濡れた頬、埃を被った砂糖瓶、それを追いかける白い鳩、呑気に

        マガジン

        • 無題
          22本
        • 随想
          2本
        • ドリイミング
          6本

        記事

          無題

          いつもは眠れる弱い雨の音もわたしを救ってはくれない。それは悲しみに暮れるヒヤシンス、咽ぶ群青。そのような色をした煙にもたれ、知らない誰かが苦い接吻をすれば、再び群青へ顔を埋め、そのあたたかさに触れ、頬についたインクを手のひらで拭うだろう。 雨の無い夜に、雨の無い朝がやって来ることに怯えてしまう。やがてやってくる朝、煌めいた星が霞みゆく朝… ぼんやりした孤独と共寝し目覚めた朝、わたしは両の膝を抱きしめ、肩や胸を摩り、閉じた目を開けられずにいる。 けれども、あなた・或いはわたしが

          星と隠喩

          隣で微睡む鼻と顎の線をなぞると、あなたは声にならないままに、それを私へ教える。 ルッコラとよく似た味のそれは、青く深い泉、あるいは甘い匂いのするバスタブ、乳白色の広がりゆく海、あたたかな日に寄り添う小川。 私たちは、身を裂かれる痛みを分かちあうだろう。ウィークエンド・シトロンのレシピを調べ、珈琲を飲み、街を歩き、些細なことで少し泣いて、そして触れ合えば自ずと受け取るそれを、あたたかい胸へしまうのだろう。

          無題

          ブルー・ジーンズに光射し、シャワーを浴びたての髪はしっとりしたカールが跳ねる。心臓をあたためるのはときめく都会の雑踏、狭いバーのカウンターで飲むジン・トニック、箱の絵から飛び立つツバメ、キース・ジャレットのレコード、長い眠りと短い目覚め。 滲んだアイラインを拭った指先に、誰かがキスをする朝を愛さない。拾い集めた巻紙から溢れる葉を、子供の頃履かされたちくちくする毛糸の靴下を、春めいた風を、わたしはハンスと呼ぶ。わたしたちはハンスに火を付けず、身に纏わず、その風に頬を綻ばせない。

          星に祈る

          それは、子どものわたしが溺れたときに見た、スローできらきらした世界のようなものだと思っていた。そのような美しさが自分の瞳に映っていることを、ゆっくりと認識するよりも、ただもがく苦しさばかりが目立つものだと思っていたのだった。 ほんとうは、それはあたたかな雨であった。祈るあなたや私の肩に、そして頬や瞼に注ぐ雨であった。わたしが冷たくなっていた心臓を取り出し、手のひらにのせ、あなたへそっと差し出せば、あなたはそれに一度口付けて、そして私の胸へ戻すのだった。 わたしは知った。それは

          無題

          あなたとわたしの間にあるもの、枯れたヒース、赤いフェンス、淋しい水槽、愛にまつわるほんの少しのかなしみ、お気に入りのブルー・ジーンズ、母のセーター、うすい皮膚、あたたかな内臓たち、それら全てが溶ける時、わたしたちはほんとうの愛を知ることができるだろうか。 わたしは冷たいつま先をあたためることも、歩かせることもできず、あなたはわたしを待たない。鞄の中には人からもらった難しい本が入っている。それは表紙の付いた猫、おしゃべりな鳥たち、やさしい金魚、自信を失った蜻蛉、短い手紙。湿気た

          無題

          こわいと思う気持ちを一緒に抱きしめて、あたたかいセーターに包まれた胸や腹へ、しまい込む。 陽の立ち上がる前の空には明るい星が顔を見せ、額への小さなキス、エスプレッソ・マシーン、くしゃくゃのYシャツが同じような表情をしている。この時分、タオルの乾燥には時間がかからず、涙がかわくには、途方もない時を過ごさなければならない。

          無題

          誰かを治癒すること、誰かが私を治癒すること、そのような「交換」は、世界のどこで、いつ現れ、そしてその終わりを迎えるのだろうか。 ふと思い立った夜、夜のスーパーマーケットに買い物へ行く。その船にはリンゴを乗せて、朝の海を行こう。私は小さなスプーンでざらざらした砂糖を掬っては、星の代わりにそこへ散らすのだ。やがて溶けた星たちが、南のほうの赤とか青とか、そう言った明るい色をした魚の唇を掠め、そのようにあなたは私に恋をして、愛を教え、そして私の方も、そのようなものたちに、とっておきの

          星を見ない

          その夜、知らない名前の白い花が何てことはない顔で、私を見下ろしていた。あなたは夜道を歩いていて、そして中庸な速さで、あなた自身についての考えを巡らしている。 陰鬱なアスファルトをスキップをする。つま先の向こう側には、黄色いレンガの道が広がっているんではないかと思うような愉しみがあった。でも、踵の向こう側には柔らかですこし痛みのある芝生が伸びたり縮んだりしているのだった。 ふと振り返ると、小さな犬、または猫のようなものがこちらを見つめた。鳴いたり、すこし噛んだりもしたし、だから

          星を見る

          星は瞬くのだということを知った。 その駅には何人もやっては来なかった。傾いた電信柱、赤く錆びた錠前のかかったフェンス、目の眩む、オモチャのような丸い街灯が3、4つ浮かんで消え、背筋の曲がったベンチの脇にある嫌な黄色のライターが物欲しげに私に触れただけだった。 霜の降りた草の上を裸足で歩くと、気持ちの良さとつんざくような痛みがあり、また冷たいその上にたおれると、かつて柔らかであった木の芽たちは、私の両の手指を突き破って、光を得ようとその身を捩る。そのように、咽ぶ私を抱きしめるも

          無題

          ベッドサイドにて、気の抜けたサイダーよろしく空っぽの胃を抱え、誰も口付けない肩や頬に生温い風を当てながら、瞼にいっぱいの涙を滲ませていた。あなたをよく理解し、適切なしかたで愛し、唯一の親友であり、無二の恋人であった私を、あなたは突如として信じることができなくなった。だから私はあなたの唯一の親友ではなく、無二の恋人でもなくなったのだった。あなたを理解することができず、適切なしかたで愛することは到底難しかった。あなたは、賢いやり方でその鉄条網をもって私を外へ追いやった。品の良いブ

          BODY

          そのように夜は白んでいった。電車でうたた寝をしている間に、短い接吻の間に、靴紐を解いている間に、またあなたを思い出し、そして忘れてしまっている間の出来事であった。 私はくだらないカフェで陳腐な口説き文句、あるいは別れ話を聞かされている。苛立つスニーカーのつま先が上下に振れて、床にこぼれたグラスの結露を舐めとろうとしていた。そういった眼差しが私の体内に勝手に染み込んでこようとしているところだった。そういったものたち、唇、痩せた頬、嫌な目線、それらを嗅ぎ取る小さな作りの鼻先が、私

          無題

          街ゆく人々は傘をさして、それをさみしい気持ちで見下ろしているのが私だった。冷えた飴色のティーカップをかちゃかちゃさせながら、あなたの姿を街に探した。あなたがいないことはすぐに分かった。そのことは私を安心させることでもあった。着慣れないワンピースの模様が思いのほか派手だったし、ろくに化粧もしないで、ただ猫背で、陰気な煙草の匂いが取れない髪で、冷たい爪先が嫌な感じだったから。 街灯は私を照らさなかった。冴えない女として、ごく自然に石畳の道を歩いて、でも振り返るとそれはちょうどスパ