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BODY

そのように夜は白んでいった。電車でうたた寝をしている間に、短い接吻の間に、靴紐を解いている間に、またあなたを思い出し、そして忘れてしまっている間の出来事であった。
私はくだらないカフェで陳腐な口説き文句、あるいは別れ話を聞かされている。苛立つスニーカーのつま先が上下に振れて、床にこぼれたグラスの結露を舐めとろうとしていた。そういった眼差しが私の体内に勝手に染み込んでこようとしているところだった。そういったものたち、唇、痩せた頬、嫌な目線、それらを嗅ぎ取る小さな作りの鼻先が、私が好きだったはずの女の体を嫌いにさせ、また幾つかの夜を廊下の暗がりと、音のしない天井をただ眺ることに費やさせるのだった。あなたがざらついた手で私の腕を掴み、きわめて失礼な態度をもって、品のない抱擁と乱暴な接吻を求めてから、そのざわめきは私の中に生じたのだった。
長い時間バスタブにいたけれど、私の身体は冷たいまま、一向に温まる気配がなく、ただ白っぽいぶよぶよした、いやらしいものとしてそこにあった。いくら私が抱きしめてやっても、それは醜い脂肪の塊のまま、健康的で筋肉質な美しさをたたえることなく、乾いた唇ばかりが目立つ、必要のない柔らかさばかりが主張するだらしのない皮膚に包まれた、そういったものでしかなかった。そのように夜は白んでいった。

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眠れない夜に

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