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無題

電車のホームを駆けずり回る埃(のようなもの)は何からできているのだろうか。
冬場はとくに立派な個体となっている気がするので、やっぱり電車に乗るお客さんの衣服から少しずつ少しずつ成長しているんだと思う。とりわけ地下鉄の埃(のようなもの)は個体ひとつひとつがしっかりとした形を持っていて、身がキュッと締まっている気がする。きっと小さな埃の粒の逃げ場がないので集まっては駆けずり回る羽目になっているのだろう。

都会を行き交うひとびと

地下鉄に乗る人々は大体上品な感じの人が多い。無論、通勤ラッシュの時間はスーツの背中ばかりだけれどスーツを覆うコート姿も上等な感じのする人が多い。
女性のビジネススタイルはこの上ない上品な人が時々見られる。この間永田町か何かで見かけたお姉さん…より少し年上の女性は、フレアスカートとジャケットのグレーの上下で、ストッキングがチャコールグレーよりも少し茶色がかった色をしていた。駅の蛍光灯を受けて、パールのネックレスが柔い光をきらめかせる。ローヒールのパンプスはミハマかな、何て思いながらすれ違ったが、上品な服から漂うだけではない滲み出る上品な雰囲気が、彼女の踏みしめる1歩から放たれているように思った。

グレーのむずかしさ

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その日から少しして、上品なグレーの上下に感化されたので、グレーで統一したコーディネイトをしてみたりした。
グレーのケーブルニット、チャコールグレーのプリーツスカート、グレーのストッキング、グレーのマフラー…。
気分は良いけれど、姿見に映った自分の短い膝下にちょっとがっかりした。やっぱりああいう滲み出るような上品さというのはこんな小娘からは出てこないようであった。

要るのは…

精一杯お洒落を心がけていても、精々良いところの子供服を着せられた膨れっ面の子どもみたいな、「このお洋服は上等だからね」と念押しされたようなお出かけ着の上品さしか手に入らない。
若ければだいたい全てのものが着こなせると、無駄に過信していたんだと身につまされた。
どうやら上品さを身に付けるにはもうちょっと柔らかな目元の皺というか、人生の深みというか、そういうものが必要だったようだ。

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