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臀物語

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タイトルをしりとりで繋げる物語、です。 「しりものがたり」と読みます。 第1,第3,第5日曜日に更新予定です。 詳しくはプロフィールに固定してある「臀ペディア」をお読みください。
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#お笑い芸人

ルビー

僕は昔から人間が嫌いだ。奴らは聞いてもいないのに何かを訴えかけてくる。
でも植物は違う。彼らはいつも静かに微笑んで、僕の話を聞いてくれる。
ああそうだ。僕も、そんな人間に過ぎないのだ。

 卒業後の進路として研究職を考えたこともあったが、そこまでの覚悟はなかった。
つぶしがききそうという理由だけで教職を選択していた僕だったが、教師になる気などさらさらなかった。でも就職を真剣に考える時期になっ

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オルゴール

「ハル、久しぶり!」
「純ちゃん!元気にしてた?」
「もっちろん!」
 お馴染みのとびっきりスマイルでそう答える。
「これ、お土産。」
「ありがとう!」
「それベルギーのチョコレートなの。相当甘いから気を付けて。」
「わかった。みんなで食べるね。」
 そう言いながら陽乃はカラフルな手提げをカバンにしまった。
「今年はベルギーに行ったの?」
「他の国にも行ったけど、メインはベルギーね。」
「そうだっ

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朝顔

「この前部屋の掃除してたら懐かしいものが出てきてさ。」
「何?」
「何だと思う?」
 陽介は意地悪そうに尋ねてきた。
「せめてヒントの一つや二つないとわからないぞ。」
「ヒントは、懐かしいもの!」
 バカである。
「いやそもそも、懐かしいものが出てきたって話をしてるのにそれじゃあヒントにならないだろ。」
「あそっか。うーんと、小学生の頃のもの。」
「うーん……あ、卒業アルバムか。」
「ブー、残念。

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ルアー

「やっと繋がった!先生、原稿は上がりましたか?」
「いえまだです。」
「やっぱりですか。ちなみに進捗状況は?」
「ほぼ手付かずですね。」
「なんでそんな冷静に答えられるんですか!早く書いてくださいよ。」
 高森さんは半分泣きながらそう訴えた。
「先生、今何してるんですか?」
「今からつろうと思って。」
「え……今なんて?」
「つろうかと思ってます。」
「早まらないでください!」
 思わず耳から携帯

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プードル

「乾杯~!」
 カツン、とジョッキたちがいい音を奏でる。
「いやでもこうやって俊作と二人で飲むのも珍しいよな。」
「ゼミ飲みとかはあるけど二人っきりはなかなかないかもな。」
「今は学生だからいいけど、社会人になったらもっと会えなくなるんだろうな。」
「まぁそうだろうな。」
 寂しいねえ、と呟きながら大河は枝豆をつまんだ。
「そういえば俊作って普段自炊とかすんの?」
「そりゃあするよ。」
「え、実家

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トランプ

「まっつん、これなんだと思う?」
 帰る準備をしようというときに近づいてきた陽介は、得意げな顔を浮かべていた。
「トランプだろ。」
「正解!」
 一発ぶん殴りたくなるどや顔をしている。
「何、ゲームでもすんの?」
「いやいやまさか。」
 トランプを出しておいてゲームをしない、今のは何のまさかだ。
「じゃあ何すんだよ。」
「ちょっとばかしマジックを覚えてきてね。見てみたい?」
「いや別に。」
 分か

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ラケット

「最愛の亜寿美さんへ。

 今日十一月十一日は亜寿美さんの誕生日であり、同時に僕たちの結婚記念日でもあります。早いもので今年で結婚二十五年目、世間では銀婚式なんて呼び方をします。
 どれだけの時間が経とうと、僕は亜寿美さんを愛しています。これだけは胸を張って言えます。
 亜寿美さんと出会ったあの日のことを、僕は今でも忘れません。亜寿美さんからしたら何度も聞かされた話かもしれないけど、何度でも話さ

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ルッコラ

「樽井先生、今ちょっとよろしいですか?」
「あはい、えっと、どうかされましたか?」
 教師になって二年目、生徒とは年が近いこともあり兄のような感じで慕われていたが、ここ職員室ではそうもいかない。特に熟練の教師が多いこの学校においてはまだまだ赤ん坊である。
 ましてそんな樽井に話しかけてきたのは鬼木田の異名を持つ榎木田正臣。さすがに動揺を隠しきれなかった。
「いや大したことじゃないんですけどね、樽井

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シンバル

「本日お話してくださるのは、副島七星(そえじまななせ)さんです。どうぞ!」
 生徒たちの拍手に包まれて壇上に登場したのは四十という年齢を感じさせない綺麗な女性だった。
「皆さんこんにちは。ただいまご紹介にあずかりました副島七星です。本日は短い時間ではありますが、よろしくお願いします。」

 この学校では授業の一環として定期的に卒業生による講演会が開かれていた。でも私にとっては決して魅力的なもので

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寿司

「まっつん、明日誕生日じゃん!」
 黒板に書かれた日付を見て、陽介がそう言った。
「うん。」
「何だよ、その反応。」
「いや、そんなはしゃぐほどのことでもないだろ。」
「いやいやいや、誕生日だよ?テンション上がるでしょ!」
「百歩譲って、もし仮に誕生日でテンション上がるとしても、明日だから。」
「ああ、そうか。」
 陽介は心なしか、いつもよりもローテンションになった。
「でも小さい頃とか嬉しくなか

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カラス

「俊くん、このあとどうする?」
「うーん、映画まではまだ時間あるし、喫茶店でも行くか。」
「じゃあさ、この前テレビで見た中国茶専門の喫茶店とかどう?」
「へえ、面白そうじゃん。」

 帰省を終えて東京に戻ってきた俺は、紫月と久しぶりのデートに来ていた。
「映画までまだ一時間くらいだっけ。」
「うん、それくらいかな。」
「てか中国茶の専門店なんて言うから変わったお茶しかないのかと思ったけど、意外と普

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理科

「皆さんお久しぶりです。夏休みは楽しかったですか?」
 榎木田先生が好々爺らしい笑顔を浮かべながらそう尋ねてきた。
「まずは夏休みの宿題を提出していただきましょう。後ろから回してください。」
 俺は後ろから受け取ったノートの束に自分のノートを重ね、前の席に渡しながらふと夏休み前のことを思い出していた。

「さっきいったところまでの白文、書き下し文、現代語訳、語句調べをノートにまとめてきて夏休み明け

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パセリ

「じゃあ改めて、俊作お帰り!」
「ありがとう、母さん。」
「大学の方は楽しくやってんのか?」
「勇作さん、私が腕を振るったせっかくのご馳走が冷めちゃうわ。まずはいただきますしましょう?」
「そうだね、亜寿美さん。」
 結婚して二十年以上経っても仲がいいのはいいことだが、両親が手を取り合いながらそう言い合う光景は息子からしたらなかなか見たくはないものである。

 久しぶりに兄貴が返ってくるということ

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ラッパ

 リビングのドアが開く。
「ただいまー。」
「お帰り、兄ちゃん。」
「おお何だ、陽乃(はるの)ももう帰ってたんだ。」
「うん、もうテスト前だからね。」
「お、陽乃もか。俺もさっきまでまっつんと勉強してたんだ。」
「またそうやって松野さんに迷惑かけるんだから。」
「そんなことないって。」
「なんで兄ちゃんが決めるのよ。」
 兄ちゃんは悪い人じゃないんだけどこういう適当なところが多い。
「大体なんだよ

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