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本や映画のおはなし

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大好きな本や映画、作品にまつわる「人」のお話。
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#読書記録

韓国小説 『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』に救われた年末年始

韓国小説 『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』に救われた年末年始

流行りに乗り遅れるタイプの私は、ここ数年話題になった韓国のドラマや映画、小説、エッセイなどをたぶん、ほとんど観たり読んだりしていない。流行れば流行るほど関心が失せていくというか、「こんなに注目されてるんだから今はいっか」という気持ちになってしまうのだ。何十万部売れた、芸能人の誰々が紹介していた、というお決まりのフレーズにも残念ながらあまり心ひかれない。

それよりも、書店や図書館に出向いて、宝探し

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ついにドラマ化確定。辻仁成、コン・ジヨン著『愛のあとにくるもの』

ついにドラマ化確定。辻仁成、コン・ジヨン著『愛のあとにくるもの』

 実は昔から定期的に読み返したくなる本や、見返したくなるドラマや映画があるんですが、その中の1つが1999年に初版が発行された辻仁成・江國香織共著の小説『冷静と情熱のあいだ』です。断捨離ブームに乗っかって一度手放したこともありましたが、やっぱりまた読みたくなり、数年前の一時帰国中に買い求めました。

 今から5年前、まだ息子が生まれて2か月の頃も、映画『冷静と情熱のあいだ』を見返したくなったことが

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ひとりぼっちになった夜、先ゆくマダムたちの物語に触れて。

 きのう、出産後初めて息子が隣にいない夜を過ごした。正確にいうと、産後調理院から自宅に戻って以来3年数か月ぶりに、私は一人きりで夜を明かすことになった。

 相方が急なおもいつきで荷物をまとめ、息子を連れて家を出たのは土曜の15時頃だった。車で2時間以上かかる義両親の家まで行き、1泊してくるのだという。表向きは息子の看病続きで疲れ果て、体調が良くない私を休ませるため。でも本当は、相方が家の中でずっ

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韓国語の長編小説を初めて最後まで読みきった。チェ•ウニョン(최은영)作家の『明るい夜(밝은 밤)』。女性4世代の歴史を行ったり来たりしながら進む物語。家族や縁深い人との間にある絆や刺、親しみと羨望、理解のできなさと許しなどが繊細に書かれており、著者の過去2作と通じるものを感じた。

生活をおもしろがることについて考えてみた。〜星野源、樹木希林、辻仁成の言葉に触れて〜

生活をおもしろがることについて考えてみた。〜星野源、樹木希林、辻仁成の言葉に触れて〜

 20歳の頃、2年通った大学を辞め、北海道で数か月間住み込みのアルバイトをしていた時期があった。午前中の仕事が終わると、よく街の小さな図書館へ行き、作家名順に並ぶ書棚をあ〜わ行までくまなく眺め、気になった本を手当たり次第読んでいた。

 読んだ本や観た映画の内容は、時間が経つとすぐ忘れてしまうたちなので、当時何を読み、どう感じたか?今はほとんど思い出せない。だけど、誰かがおすすめの本を紹介してくれ

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チョ•ナムジュ著『彼女の名前は』

チョ•ナムジュ著『彼女の名前は』

 先日、韓国の短編小説集『彼女の名前は』を読み終えた。『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュが韓国で2018年に発表した作品で、2020年に日本でも翻訳出版されている。

 9〜69歳まで60人余りの女性に話を聞いた著者が、2017年の1年間、新聞や雑誌にフィクションやエッセイを連載。それを再構成し、28編の小説集としてまとめた1冊だ。1つひとつの話はとても短く、読みやすい。でも、そ

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小説『パチンコ』と私の物語②

小説『パチンコ』と私の物語②

 自分の物語を語ろうとして、一体どこから始めればいいのか途方に暮れてしまったが、私が在日コリアンの歴史に深い関心を抱いた日のことから書いてみたいと思う。

2004年、北海道の大学で
 それは、北海道・札幌の大学に通っていた2004年。就職活動のため大学を休みがちだった4回生の頃、当時所属していた教育史・比較教育ゼミの先生が担当する「在日韓国・朝鮮人の歴史」という講義を開いたのがきっかけだった。

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小説『パチンコ』と私の物語①

小説『パチンコ』と私の物語①

 韓国人男性との結婚を機に韓国へ移り住むことになった私は、こちらの国で「結婚移民者」と呼ばれるようになった。それまで「移民」と聞けば、過去に日本からブラジルやハワイに移り住んだ人たちのことを思い浮かべていたが、そんな私が実際に移民者となったのだ。

 ソウルの語学堂へ留学経験があったため、生活に必要な韓国語はすでに身につけていた。それでも、移住後「生まれ育った国とは勝手が違うのだ」「日本では一人で

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