- 運営しているクリエイター
#吃音症
「あかりの燈るハロー」第一話
プロローグ ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギ。
ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギィィ……。
やがて、観覧車は完全にその動きをとめ、遊園地にともされたはなやかな電飾も消えると、あたりを静けさが包みこんでいく。
耳をすませば、かすかに聞こえる波の音だけ。
あたしは歌う。
♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド
♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック
「あかりの燈るハロー」第四話
バイバイ、お母さん。ハロー、ハンデ。
(3)
始業チャイムと同時に、担任の安西先生が教室に入ってくる。
「おーい、みんな、席に着けー」
太く男らしい声の印象のまんま、安西先生は男くさい。しわくちゃのワイシャツに緩んだネクタイ、その上にえんじ色の上下ジャージという無骨な格好でまったく女子受けしない。でも男子にはすごく好かれていて、休み時間のたびに先生をサッカーやドッジボールに誘う生徒でクラスは
「あかりの燈るハロー」第十一話
第五章うるさい! うるさい! うるさい!
(1)
学校が終わると、脇目も振らずにまっすぐ家に帰る。お母さんの写真にただいまをして、次にノートパソコンを起動。もちろん朱里にメールするためだ。
Re.ハローワールド
『ただいま! 朱里、今学校から帰ったよ!』
十分もしないうちに朱里から返信メールが届く。
『おかえり、茜! 学校はどうだった?』
こんなふうにやり取りするのが日課になっ
「あかりの燈るハロー」第十四話
レインボー薬局
(2)
Re.ハローワールド
『朱里、ただいま! 今帰ったよ。
薬局のおばさんがすごく親切にしてくれてびっくり。
カバンいっぱい必要なものをもらったよ。
お金は朱里が払ってくれたの?』
ポロン♭
『おかえり、茜!
薬局には無事にたどり着けた?
今では生理用品にもいろいろなタイプがあるはずよ。
自分に一番使い勝手の良いものを見つけるといいわ。
薬局のおばさんか
「あかりの燈るハロー」第十五話
第七章はーい! せんせー。
(1)
夏休みがすぐそこまで迫ってきてるって、セミの鳴き声が教えてくれそうな暑い日の朝、始業チャイムとともに教室に入ってきた安西先生の後ろに、男の子が立っていた。
「おーい、おまえたち座れー。まったく蝉にも負けないくらいうちのクラスは元気だな」
先生はあたしたちを鎮めると、黒板に大きな字で、「古賀篤仁」と書いた。
教室がざわつく。
「静かに! もうすぐ夏休みだけ
「あかりの燈るハロー」第十六話
はーい! せんせー。
(2)
下駄箱で傘をたたんでいると、ずぶ濡れの大和が駆け込んでくる。目があうと、「傘忘れちまったよ」と情けない顔で笑った。
「…っあ、あ、さ……?」
――朝からこんなに降ってるのに?
大和はあたしを追い越すと、上履きに履き替えてあわてて階段を上っていった。体中びしょびしょだ……。
傘立てに傘を入れようとして一本だけ濡れていない傘を見つける。持ち手が曲げられて壊されて
「あかりの燈るハロー」第十七話
第八章イフ・アカリ
(1)
朝から降り続けた雨は下校時にはすっかりやんで、大きな入道雲が、照りつける日差しとともに夏の空に姿を現している。
下駄箱の並ぶ昇降口の向こうに、青色が存在感を示している。すぐにやってくる暑さを予期しながら、ひんやりした下駄箱で靴を履き替えた。
去年買ってもらったスニーカーは、右側の生地がやぶれて中からウレタンが飛び出てるし、紐も先がほつれている。それにちょっときつ
「あかりの燈るハロー」第十八話
イフ・アカリ(2)
家に帰り、今日の出来事をさっそく報告しようとパソコンを起動させると、めずらしく朱里から先にメールが来ていた。
『おはよう、茜。
そこはここよりもずっと離れた場所で、ものすごく近くにある場所。
行きたくても行けない場所で、いつの間にかたどり着いてる場所。
ハローワールドも同じように晴れの日もあれば、雨の日もあるわ。』
はぁ……また朱里お得意の謎かけだ。
Re.
「あかりの燈るハロー」第二十話
ハウマッチ 木、木、木……。
(2)
ポロン♭
『おかえり、茜!
友だちのことで悩んでいるの?
あたしが思うに、友だちってきっと鏡のようなものだと思うわ。』
五分がやけに長く感じた。待っていた時間に比例して、期待が高まってたのかもしれない。メールの文面がそっけなく感じられてすごくさみしい気持ちになる。
だけど鏡ってどういう意味だろう。同じ姿が映るってこと?
それとも逆の姿が映るっ
「あかりの燈るハロー」第二十二話
第十一章あたしがやりました。
(1)
Re.ハローワールド
『朱里、おはよう!
今日から短縮授業。はやく帰ってこれるよ!
そして今日からは、あたし思いっきり失敗するつもり!
帰ってきて元気がなかったら、またはげましてね!』
朝のメールを送るとパソコンを閉じ、手さげかばんを持ってリビングにおりる。お父さんは、今日もフライパン片手にトーストを焼く。わたわたしているのもいつもと同じ。
「お
「あかりの燈るハロー」第二十三話
あたしがやりました。
(2)
先生のお説教が延々と続く。古賀くんも大和もまるで上の空。ぼーっと天井をながめては、「おい! お前ら聞いているのか⁉」なんて、先生の喝が飛んでくる。
かなえは先生が口を開くたびに食ってかかり、正当性を主張するものだから、安西先生のお説教は蛇行運転する車みたいに、ぐねぐねと話がそれてばかりだった。頭の回転が早いかなえに口げんかで勝てる子なんていない。かなえの猛口撃に
「あかりの燈るハロー」第二十六話
第十三章アカネ・ゴー・ラウンド
(1)
お母さんとの思い出がぐるぐると廻る。にぎやかなデパートの人混みに、夏に向けて心おどるような店内の音楽が戻ってくる。
どうしてひとりで天国へ行ってしまったんだろう? あたしはこんなにもお母さんのことを必要としてるのに、どうしてそばにいてくれないの?
お母さんを思い出すときは、いつだって思い出の中でだけ。いつだって思い返すことができる気がするのに、お母さ
「あかりの燈るハロー」第二十八話
第十四章# to the world…
(1)
[終業式前日――]
「おーし! みんな、こないだの国語の小テスト返すぞー。後で何人かに六年生としての心構えについて発表してもらうからな。水嶋、これ、黒板に書いてくれるか? 夏休みに入ったら、最初の登校日にペア活動の一環としてファシリテーションをやります。ヘリウムリングっていうフラフープのようなものをだな、みんなで人差し指で持ち上げるんだが、せっか