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「あかりの燈るハロー」第一話
プロローグ ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギ。
ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギィィ……。
やがて、観覧車は完全にその動きをとめ、遊園地にともされたはなやかな電飾も消えると、あたりを静けさが包みこんでいく。
耳をすませば、かすかに聞こえる波の音だけ。
あたしは歌う。
♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド
♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック
「あかりの燈るハロー」第二話
第一章バイバイ、お母さん。ハロー、ハンデ。
(1)
あたしには最近好きなものができた。
それはメール。といってもケータイのじゃなくてパソコンのメール。あたしが使っているパソコンはとても型式の古いノートパソコンで、起動するのにびっくりするくらい時間がかかる。それによく途中で突然動かなくなってしまうし、書いていたメールが全部なくなってしまうことだってある。
電気屋さんに並んでいる、薄くて格好
「あかりの燈るハロー」第三話
バイバイ、お母さん。ハロー、ハンデ。
(2)
洗い物をすませると、お父さんと一緒に家を出る。
お父さんは港区役所に勤める職員で、あたしは西築地小学校の六年生。
区役所から小学校はほんの目と鼻の先で、なにかあれば、お父さんはいつでもすぐに学校まで飛んでこれる。六年生になった今ではさすがにないけど、四年生になるまでのあたしは、事あるごとにお父さんを呼び出していた。
もちろん我慢だってする。
「あかりの燈るハロー」第四話
バイバイ、お母さん。ハロー、ハンデ。
(3)
始業チャイムと同時に、担任の安西先生が教室に入ってくる。
「おーい、みんな、席に着けー」
太く男らしい声の印象のまんま、安西先生は男くさい。しわくちゃのワイシャツに緩んだネクタイ、その上にえんじ色の上下ジャージという無骨な格好でまったく女子受けしない。でも男子にはすごく好かれていて、休み時間のたびに先生をサッカーやドッジボールに誘う生徒でクラスは
「あかりの燈るハロー」第五話
第二章ハローワールドの住人
(1)
午前の授業が終わり、給食を食べ終えると、あたしは残りの休み時間を図書室で過ごす。
♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド?
図書室へ向かう廊下で、あたしは鼻歌混じりに早口言葉を口ずさむ。
昔はお母さんとよく言葉遊びをした。ロンドン橋や十人のインディアン、ヒッコリー・ディッコリー・ドックなんかの言葉遊びも
「あかりの燈るハロー」第六話
ハローワールドの住人
(2)
その夜、お父さんが夕食時にこんなことをいい出した。
「茜、最近学校はどう? 吉田くんとは仲良くしてる?」
「……」
普段は、あまり学校のことをきいてはこない。今日に限って、どうして大和のことを出してくるんだろう。相談課でなにかあったのかな、いや大和がおばさんになにか告げ口したのかも……。
――いろんな考えが頭を過ぎった。
「どうした? 茜、お腹、空いてないの
「あかりの燈るハロー」第七話
ハローワールドの住人
(3)
パソコンとふたりきりで頭を悩ませる。いろいろ気になることが多すぎる。
『はじめまして、あたしの名前は朱里です。
あなたとお友だちになりたくて、思い切ってメールを出しました。
もしよければ、あたしのお友だちになってください』
何度見ても、メールにはそれしか書いてない。
――お友だち……。
パソコンに突然入り込んできたこの「朱里」っていう人物がいっ
「あかりの燈るハロー」第八話
第三章吃音という証明(1)
「茜、おはよう! 今日もよく眠れたかい?」
「……う、うん」
お父さんの声はいつもと同じに元気だったけど、どことなくさみしそうに見えた。
トースターが最近よくお目見えする山型のイギリス食パンを跳ね上げると、その勢いに助けられるようにしてあたしは口を開く。
なにかあったのかな……? と少しだけ心配になったから。
「……お、おおおーお父さんっわっ?」
「お父さん、昨
「あかりの燈るハロー」第九話
吃音という証明(2)
カウンセリングルームを出ると、お父さんが立ち上がってあたしの頭に手を置いて笑顔で迎える。
「おかえり! 茜、今日はどうだった?」
「い、いつ…っもと、かわ、変わらな、……い、いいよ」
「そっか、じゃあちょっと待っててくれな。支払いをしてくるからね。その前にトイレに行ってきていいかな? お父さん、暑くてお水を飲みすぎちゃったよ。茜にはあとでソフトクリームを買ってあげるから、
「あかりの燈るハロー」第十話
第四章最高の友だち
[夏休みまで一週間――]
あたしと朱里はすぐに仲良くなれた。
これはひとえに朱里のおかげ。とにかく朱里はなにかを聞き出すことがうまい。そしてどんどん話をさせる。聞き上手というのはこういうことをいうんだろうな。
たとえば好きな食べ物。朱里があたしに好きな食べ物はなに? と質問してくる。『オムレツ』と答えると次には、どんな固さのオムレツが好き? どこで食べたオムレツが一番
「あかりの燈るハロー」第十一話
第五章うるさい! うるさい! うるさい!
(1)
学校が終わると、脇目も振らずにまっすぐ家に帰る。お母さんの写真にただいまをして、次にノートパソコンを起動。もちろん朱里にメールするためだ。
Re.ハローワールド
『ただいま! 朱里、今学校から帰ったよ!』
十分もしないうちに朱里から返信メールが届く。
『おかえり、茜! 学校はどうだった?』
こんなふうにやり取りするのが日課になっ
「あかりの燈るハロー」第十三話
第六章レインボー薬局(1)
傾く日差しの中、ジワジワとセミが鳴いている。日中照り付けられたアスファルトには熱がこもり、なにもしていなくてもじんわりと汗が滲んだ。
商店街のアーケードに入るとそこは日陰、いくらか暑さはしのげるけど、湿度のせいかまとわりつく風すら暑苦しく感じる。
今ではほとんど利用されなくなったこの商店街は、いつ来ても閑古鳥が鳴いている。お店のいくつかはすでに閉店していて、おろ
「あかりの燈るハロー」第十四話
レインボー薬局
(2)
Re.ハローワールド
『朱里、ただいま! 今帰ったよ。
薬局のおばさんがすごく親切にしてくれてびっくり。
カバンいっぱい必要なものをもらったよ。
お金は朱里が払ってくれたの?』
ポロン♭
『おかえり、茜!
薬局には無事にたどり着けた?
今では生理用品にもいろいろなタイプがあるはずよ。
自分に一番使い勝手の良いものを見つけるといいわ。
薬局のおばさんか