【展覧会レポ】大和文華館「中国の南と北の美術ー陶磁・漆工・絵画ー」
【約4,300文字、写真約60枚】
奈良市・学園前にある大和文華館に初めて行き「中国の南と北の美術―陶磁・漆工・絵画―」を鑑賞しました。その感想を書きます。
※本展覧会はすでに終了しています。
【この投稿で伝えたいこと】
❶知名度は高くないものの行って良かった美術館!、❷国宝4件、重要文化財31件を含む意外に豊富なラインアップ、❸特徴的な建築、広大な敷地に咲く四季折々の花々に心が安らぐ、❹奈良に住む人は1度は行くべし!
▶︎訪問のきっかけ
今まで、アートに関する本で大和文華館の作品が引用されていたり、他の展覧会で作品がレンタルされているたびに「大和文華館って何となく名前だけ知ってるけど、実はすごい美術館なんかな?」と思っていました。
「行くかどうしよう、福田美術館(京都・嵐山)にも行ってみたいし…」と考えていると、大和文華館の近所にある中野美術館も展覧会を実施してると分かったため、行くことにしました(中野美術館は年間で約3ヶ月しか開館していない!)。
▶︎アクセス
大和文華館は、学園前駅(奈良市)から徒歩約5分。案内看板がたくさん立っているので、迷わないと思います。
住所:奈良県奈良市学園南1丁目11−6
▶︎大和文華館とは
近畿日本鉄道(以下、近鉄)・五代目社長の種田虎雄は、大阪・奈良・三重の歴史ある地域に鉄道を敷設する会社として、日本美術の素晴らしさを世界に発信できる施設を沿線に作りたかった、とのこと。
そこで、美術史家の矢代幸雄に全てを頼み、1960年に近鉄の創立50周年を記念して大和文華館が開館。矢代幸雄は初代館長となりました。
一般的な私設美術館は、大金持ちの経営者が集めた作品をメインにスタートします。しかし、大和文華館は、美術館のコンセプトができた後、コレクション収集を始めるという珍しいパターンです。
近鉄が建てた美術館は、上村松園・松篁・淳之作品をメインに取り扱う松伯美術館も有名です。大和文華館と同じく学園前の近くにあります。
大和文華館の所蔵品は観賞価値を第一に、時代・地域の美意識を代表する名品が、偏りなく集められたそうです。現在、所蔵品は2,000件超。中には国宝4件、重要文化財31件が含まれます。
矢代幸雄は、東洋の美術は「自然の額縁」のなかにおいて一番美しく見えると考えました。そこで、大和文華館は自然との調和を最も重視したらしいです。大自然の中で、様々な草花が育てられ、丁寧に管理されていました。
大和文華館(1961年)の建物を設計したのは、吉田五十八。東急電鉄が建てた五島美術館(東京・上野毛、1960年)も吉田五十八によるものです。
特徴的なデザインは、桃山時代の建築、海鼠壁から着想を得たらしいです。
国宝を所蔵、大自然の中にある広い敷地、美しい草花、特徴的な建築。意外とすごいぞ、大和文華館!✨
なお、大和文華館は、「文化館」ではなく「文華館」です。その理由は、矢代幸雄が南京の中央博物院を訪問した際、人文芸術展示室を「文華館」と呼ぶことを知ったためだそうです。
※「文華」は中国の古語で優れた文筆の才や文化が栄える様を意味
▶︎「中国の南と北の美術―陶磁・漆工・絵画―」感想
要は、中国の北と南の芸術品を比べて鑑賞を楽しもう、という展覧会。展示されている作品数は67点。1点を除いて全て大和文華館の所蔵です。
展示室は1つです。中央に穴が空いており、その周りをぐるっと回ってお終いです。お客さんは常時10人くらいいました。鑑賞するに特にストレスはなかったです。
まず、展示場の中に入って違和感があったのは「あいさつ」的なパネルが見当たらないこと。大抵の展覧会は、人の導線の中に自然と設置されています。私は「この展覧会はこういう意図です」くらいのストーリーを把握した上で作品を鑑賞したいです。
作品をいくつか鑑賞した後、展覧会の「あいさつ」的な説明を発見。
あったのはいいものの「え、ここ?!」という場所でした。大事な内容のため、1つ目の作品を見る前に自然に見る場所、かつ、もっと気付きやすい大きさで掲載すべきだと思います。
さまざま興味深い品々が並んでいました。しかし、中国の北と南の違いを楽しむ展覧会であれば、「どこで作られたのか」明示するなど、セクション分けをさらに分かりやすくした方が学びが多いと思いました。
メインビジュアルに使われたお椀。葉っぱを置いて器を焼くと、葉っぱの輪郭や葉脈などが転写されて面白いです。
展示室を半周したところに休憩所があります。ここからは菅原池(通称:蛙股池)がよく見えるため、心が落ち着きます。
これは12世紀ごろの枕らしい(痛そう…)。当時の人は、枕が未来の美術館に飾られると思わなかったでしょう。
最後に唯一、大和文華館の所蔵ではない作品が「特別出陳」として展示されていました。「出陳」とは「展示会や展覧会などに出品して陳列すること」。意味は漢字のまんまですが、美術館で初めて見た言葉でした。
全体的に地味な展覧会だと思いました。大和文華館では、歌川広重の展覧会(7/9〜)など、楽しそうな展覧会もあるみたいでした。しかし、展覧会は一期一会。特別展ではない平常展では、大和文華館らしさを感じることができるので、それはそれで得るものはありました。
▼過去の良かった常設展
noteを書いていて、展示品全てに作品名があるのが不思議に思いました。作った本人にとっては「one of them」の器、きっと難しい作品名もなかったはず。作品名がない場合、誰が名前をつけるんだろう…?
なお、監視員は異常に厳しかったです。ケータイが鳴ろうものならすっ飛んできて、展示室の外から戻ってきた人にも、しつこく注意していました😅
▶︎展覧会後も楽しめる
大和文華館の楽しみは、展覧会の後もあります。6月はあじさいを楽しむことができました。
大和文華館は、美術品だけではなく庭、草木、建物も楽しめるお得な美術館だと思いました。
なお、私は奈良に多少の土地勘があります。奈良で大和文華館の知名度は高くないと思います。せっかく素晴らしい美術館があるんだから、もっと地域にその文化的価値を還元すべきだと思います。
大和文華館のHPには「小学生向けプログラム」が掲載されていますが、2023年1月で更新がストップ。私は毎月一回は小学生・中学生などに実施すべきだと思います。
子供の頃の学校行事は記憶に残りやすいです。短期的・中長期的な客数増にもつながり、美術館への理解も深まる。良いことしかない取り組みではないでしょうか。
▶︎まとめ
いかがだったでしょうか?「大和文華館」の名前は何となく知っていたものの、行って良かった美術館でした!国宝を含む美術品だけでなく、自然、花々、建築ともに素晴らしいです。奈良に住んでいる人であれば、アートに興味がなくとも、一度は足を運んでみることをおすすめします!