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【展覧会レポ】大和文華館「中国の南と北の美術ー陶磁・漆工・絵画ー」

【約4,200文字、写真約60枚】
奈良市・学園前にある大和文華館に初めて行き「中国の南と北の美術―陶磁・漆工・絵画―」を鑑賞しました。その感想を書きます。

※本展覧会はすでに終了しています。

【この投稿で伝えたいこと】
❶知名度は高くないものの行って良かった美術館!、❷国宝4件、重要文化財31件を含む意外に豊富なラインアップ、❸特徴的な建築、広大な敷地に咲く四季折々の花々に心が安らぐ、❹奈良に住む人は1度は行くべし!

おすすめ度:★★★☆☆
会話できる度:★☆☆☆☆
混み具合:★☆☆☆☆
展覧会名:中国の南と北の美術―陶磁・漆工・絵画―
場所:大和文華館
会期:2024年5月31日(金)~ 6月30日(日)
休館日:月曜日
開館時間: 午前10時~午後5時
住所:奈良県奈良市学園南1丁目11−6
アクセス:学園前駅から徒歩で約5分
入場料(一般):630円
事前予約:ー
展覧所要時間:約1時間半(庭も含め)
展覧撮影:全て可能
URL:https://www.kintetsu-g-hd.co.jp/culture/yamato/exhibition/chugkunanboku.html 


▶︎訪問のきっかけ

チケット

今まで、アートに関する本で大和文華館の作品が引用されていたり、他の展覧会で作品がレンタルされているたびに「大和文華館って何となく名前だけ知ってるけど、実はすごい美術館なんかな?」と思っていました。

「行くかどうしよう、福田美術館(京都・嵐山)にも行ってみたいし…」と考えていると、大和文華館の近所にある中野美術館も展覧会を実施してると分かったため、行くことにしました(中野美術館は年間で約3ヶ月しか開館していない!)。

▶︎アクセス

学園前駅の案内看板

大和文華館は、学園前駅(奈良市)から徒歩約5分。案内看板がたくさん立っているので、迷わないと思います。

学園前駅
駅の名前(学園前)は帝塚山学園が由来
シズル感

住所:奈良県奈良市学園南1丁目11−6

▶︎大和文華館とは

サイン

近畿日本鉄道(以下、近鉄)・五代目社長種田虎雄おいたとらおは、大阪・奈良・三重の歴史ある地域に鉄道を敷設する会社として、日本美術の素晴らしさを世界に発信できる施設を沿線に作りたかった、とのこと。

近鉄・五代目社長の種田虎雄

そこで、美術史家の矢代幸雄に全てを頼み、1960年近鉄の創立50周年を記念して大和文華館が開館。矢代幸雄は初代館長となりました。

一般的な私設美術館は、大金持ちの経営者が集めた作品をメインにスタートします。しかし、大和文華館は、美術館のコンセプトができた後、コレクション収集を始めるという珍しいパターンです。

by 近鉄会長・佐伯勇

近鉄が建てた美術館は、上村松園うえむらしょうえん・上村松篁しょうこう淳之あつし作品をメインに取り扱う松伯美術館も有名です。大和文華館と同じく学園前の近くにあります。

大和文華館にあった松伯美術館のポスター

所蔵品は観賞価値を第一に、時代・地域の美意識を代表する名品が、偏りなく集められたそうです。現在、所蔵品は2,000件超。中には国宝4件、重要文化財31件が含まれます。

入り口
入場までが遠い…
坂道を登ります

矢代幸雄は、東洋の美術は「自然の額縁」のなかにおいて一番美しく見えると考えました。そこで、大和文華館は自然との調和を最も重視したらしいです。大自然の中で、様々な草花が育てられ、丁寧に管理されていました。

敷地内に色んな花がたくさん
どんな花が咲くんだろう?
緩やかな坂を登ると美術館が見えてきます

大和文華館(1961年)の建物を設計したのは、吉田五十八よしだいそや。東急電鉄が建てた五島美術館(東京・上野毛、1960年)も吉田五十八によるものです。

正面から

特徴的なデザインは、桃山時代の建築海鼠壁なまこかべから着想を得たらしいです。

2回にある窓も城っぽい
1984年に福島県三春町から来た「三春滝桜」。満開になったらすごそう

国宝を所蔵、大自然の中にある広い敷地、美しい草花、特徴的な建築。意外とすごいぞ、大和文華館!✨

なお、大和文華館は、「文化館」ではなく「文華館」です。その理由は、矢代幸雄が南京の中央博物院を訪問した際、人文芸術展示室を「文華館」と呼ぶことを知ったためだそうです。
※「文華」は中国の古語で優れた文筆の才や文化が栄える様を意味

いざ、展覧会へ

▶︎「中国の南と北の美術―陶磁・漆工・絵画―」感想

ご利用案内

中国では(略)温暖湿潤な南方に対して、北方では乾燥地帯が広がり、冬の寒さは厳しく、それぞれ地域によって気候や風土、地形も大きく異なります。このような土地の特性は陶磁や漆工の素材や技術の発達、また好みと深く関係します。(略)本展覧会では、中国南方と北方の特色と魅力を大和文華館が所蔵する工芸や絵画作品により展示いたします。

公式サイトより

要は、中国の北と南の芸術品を比べて鑑賞を楽しもう、という展覧会。展示されている作品数は67点。1点を除いて全て大和文華館の所蔵です。

フロアガイド

展示室は1つです。中央に穴が空いており、その周りをぐるっと回ってお終いです。お客さんは常時10人くらいいました。鑑賞するに特にストレスはなかったです。

展示室の様子
中央の垂れ幕をめくると、
竹が生い茂っています。閉塞感があるので幕を開けてほしい(なぜ見せないんだろう?

まず、展示場の中に入って違和感があったのは「あいさつ」的なパネルが見当たらないこと。大抵の展覧会は、人の動線の中に自然と設置されています。私は「この展覧会はこういう意図です」くらいのストーリーを把握した上で作品を鑑賞したいです。

【重要文化財】《秋塘図しゅうとうず
緑釉家鴨池含りょくゆういえがもちしゃ
古墳の副葬品。埋めちゃうなんてもったいない😨

作品をいくつか鑑賞した後、展覧会の「あいさつ」的な説明を発見。

「あいさつ」的なパネル

あったのはいいものの「え、ここ?!」という場所でした。大事な内容のため、1つ目の作品を見る前に自然に見る場所、かつ、もっと気付きやすい大きさで掲載すべきだと思います。

何でここやねん。しかもこの小ささ!
【重要美術品】《青磁多嘴壺せいじたしこ
こんもりした形がかわいらしい
重要美術品」って初めて聞きました。文化財保護法前に認定された有形文化財らしい
五彩花鳥文皿ごさいかちょうもんさら
鳥の目の描き方が日本より野暮ったい感じがする
文姫帰漢図巻ぶんききかんずかん
巻物って日本特有だと思ってました

さまざま興味深い品々が並んでいました。しかし、中国の北と南の違いを楽しむ展覧会であれば、「どこで作られたのか」明示するなど、セクション分けをさらに分かりやすくした方が学びが多いと思いました。

黒釉木葉天目碗こくゆうこのはてんもくわん

メインビジュアルに使われたお椀。葉っぱを置いて器を焼くと、葉っぱの輪郭や葉脈などが転写されて面白いです。

メインビジュアルなのに置く場所が地味すぎる😅

展示室を半周したところに休憩所があります。ここからは菅原池(通称:蛙股池かえるまたいけ)がよく見えるため、心が落ち着きます。

心落ち着く空間
蛙股池がよく見える
種田虎雄も池を望む
灰陶加彩駱駝かいとうかさいらくだ
シルクロードの発展に伴ってラクダの知名度が向上。見慣れない形の動物は映えるため、多くの作品が作られたという
白搔落牡丹文水注しろかきおとしぼたんもんすいちゅう
今の感覚から見ても可愛い
白地黑花鯰文枕しろじこっかなまずもんまくら
この展覧会で一番気に入った作品。ゆるカワ😀

これは12世紀ごろの枕らしい(痛そう…)。当時の人は、枕が未来の美術館に飾られると思わなかったでしょう。

三彩浮彫鹿文枕さんさいうきぼりしかもんまくら
これも枕
《黄土地》

最後に唯一、大和文華館の所蔵ではない作品が「特別出陳」として展示されていました。「出陳」とは「展示会や展覧会などに出品して陳列すること」。意味は漢字のまんまですが、美術館で初めて見た言葉でした。

特別出陳された作品

全体的に地味な展覧会だと思いました。大和文華館では、歌川広重の展覧会(7/9〜)など、楽しそうな展覧会もあるみたいでした。しかし、展覧会は一期一会。特別展ではない平常展では、大和文華館らしさを感じることができるので、それはそれで得るものはありました。

今後の展覧会

▼過去の良かった常設展

noteを書いていて、展示品全てに作品名があるのが不思議に思いました。作った本人にとっては「one of them」の器、きっと難しい作品名もなかったはず。作品名がない場合、誰が名前をつけるんだろう…?

なお、監視員は異常に厳しかったです。ケータイが鳴ろうものならすっ飛んできて、展示室の外から戻ってきた人にも、しつこく注意していました😅

左にミュージアムショップ
野々村仁清《色絵おしどり香合》レプリカ(29,700円)

▶︎展覧会後も楽しめる

あじさいの小径(文字が消えている

大和文華館の楽しみは、展覧会の後もあります。6月はあじさいを楽しむことができました。

花の見頃一覧
「小径」感が強い
ぼんぼりのようなあじさいがたくさん
小径を歩いていくと、
蟇股池がよく見える広場に出ます
蟇股池は日本書紀に登場した日本最古のダムらしい
後ろを見ると、展示室のベランダ
6月は緑ばかりで花がない

大和文華館は、美術品だけではなく庭、草木、建物も楽しめるお得な美術館だと思いました。

なお、私は奈良に多少の土地勘があります。奈良で大和文華館の知名度は高くないと思います。せっかく素晴らしい美術館があるんだから、もっと地域にその文化的価値を還元すべきだと思います。

大和文華館のHPには「小学生向けプログラム」が掲載されていますが、2023年1月で更新がストップ。私は毎月一回は小学生・中学生などに実施すべきだと思います。

子供の頃の学校行事は記憶に残りやすいです。短期的・中長期的な客数増にもつながり、美術館への理解も深まる。良いことしかない取り組みではないでしょうか。

▶︎まとめ

買ったポストカード。野々村仁清《色絵おしどり香合》

いかがだったでしょうか?「大和文華館」の名前は何となく知っていたものの、行って良かった美術館でした!国宝を含む美術品だけでなく、自然、花々、建築ともに素晴らしいです。奈良に住んでいる人であれば、アートに興味がなくとも、一度は足を運んでみることをおすすめします!

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