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書評

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#散文

遺書散文 - 吉本隆明『遺書』

遺書散文 - 吉本隆明『遺書』

友人に勧められ、吉本隆明の著者を手に取った。『遺書』というタイトルである。選んだ理由は、価格と、タイトルになんとなく惹かれた、ただそれだけであった。

吉本隆明は詩人、親鸞の研究などで知られる評論家でもある。本書『遺書』は” 死" を「国家」「教育」「家族」「文学」など様々な視点から捉え、彼自身の死生観を俯瞰的に語った一冊である。大変興味深かったため、軽く紹介させてほしい。

そもそも「死」には様

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肉体の悪魔【ラディゲ 書評】

戦争の影がフランスを覆う

学校は休みになり

子供たちは気晴らしを探す

若い男性が戦地に赴きはじめる

人が突然死ぬのはよくあること

僕は戦争をこう言う

「長い長い夏休み」

銃弾に散る我が国の命は

どこか他人事なのだ

16歳。

僕は子供。

恋に落ちたのは

19歳の人妻

彼女は僕に言う。

「わたしはあまりに年を取りすぎている。」

夫が戦地で苦しむ時間を埋めるふたり

体の触

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花のノートルダム【ジュネ書評】

読み終わる。

巻末。

手紙の出だし。

本を閉じる

1942年

創造を終え、

この手紙を書いているときのジュネ、貴方は

心底、物語を作る喜びを感じていただろう。
(本作は獄中で書かれた)

すくなくともわたしならそう感じる。

この美しい手紙を読んだら

わたしは泣くかもしれないし、

はたまた、

さすがジュネ、とでもいえるような可憐な裏切りに直面し

苛立つかもしれない

期待は恐

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ゴロヴリョフ家の人々「оспода Головлёвы」 【シチェドリン書評】

ゴロヴリョフ家の人々「оспода Головлёвы」 【シチェドリン書評】

シチェドリンは19世紀後半のロシア、つまりドストエフスキーなどと同時代の風刺作家である。

そもそもシチェドリンという作家を私は知らなかった。光文社古典新訳文庫のZOOM配信で、ロシア語訳者の高橋和之さんが話題に上げており惹かれるまま購入。

本書「ゴロヴリョフ家の人々( оспода Головлёвы)」は1875年に書かれたシチェドリン唯一の長編小説。ロシアの農奴制度の崩壊とともに没落する貴

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医学と居酒屋【ロルカ詩集】

医学と居酒屋【ロルカ詩集】

今学生に戻れたら、勉強したいことがたくさんある。大学にだって進学するだろう。
けれど社会人経験を積んだから、今こう思う。

人生はそのようにできているらしい。

今のポテンシャルを中学生や高校生で持っていたら、という考えそのものが幻想なのだ。

生きた時間が長くなれば好奇心の幅が広がるのは当たり前だ。

ロルカの詩集にはじめて出会ったときのことは忘れない。

店長になったばかりの頃、たった2日間だ

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抹茶ミルク【エミール・ゾラ短編「ナンタス」】

ゾラの「ナンタス」という短編が好きだ。

単純な物語。
田舎ものの男が、出世して権力を手にしていく。

美しい妻を手に入れるが、世間体のため。
互いに干渉しないことを誓い合う。

何年も、何十年も時が流れ、男は地位も金も権力も、なにもかも手にした。

はずだった。

なんて素晴らしい朝だろう。
朝の死は美しい。夜明けと死。陰と陽。

人は愚かだと思う。
自分たちの欲しいものは、良いモノと便利さだと

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