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創作

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ラーメン

ラーメン

とろっと溶けるようにその夢は終わった。

夜3時、ふと目が覚めた。いくらでも交換のできる、不思議なラーメン屋の夢を見ていた。夢は夢の中だとそれを当たり前に受け入れてしまうから不思議だ。ゆっくりと転がるようにしてベッドから降り、便所にとぼとぼと入り、扉を閉めた。ぼぉーとしながら、ラーメン食べたいなぁ、と思った。夢見心地でトイレのレバーを引いて、水の流れる音と共にドアをあけると、彼はそこにいた。ソファ

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赤と棘、流れ

赤と棘、流れ

不意に魅せられて手を伸ばした花に
近づきすぎては刺されて
ぷくりと浮かぶ赤い丸に
ぽおっとして気づかないままで

気がつけば赤玉は流れになって
ぽおっとしたままに
血が抜けていく生命は動きもせず
赤を流し続けて

あるときはっと目が覚めて
流れを止めてからふと気づく
刺されたのだ。
息を
  吸って
 吐いて
少しずつ再来する流れに

手を伸ばしすぎたのか。
と疑い
手を伸ばさずに生きていかねばと

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harbor・港

harbor・港

ものは来て去る。他人もまた来て去る。私たちもまた、行っては去る。高速回転している世界では、人が、ものが、私たちが交錯するスピードはあまりに速すぎて、少しスピードダウンしてくれればいいのにと思ってしまう。

ベルリンでの学期が終わった4月末、ロシアに帰国する友人を空港まで見送った。これだけ国を行き来しているというのに、親以外の人に空港まで見送ってもらったことがない。人を空港まで見送ったのも初めてのこ

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ワルツ

ワルツ

1, 2, 3。ホップ、ステップ、ジャンプ。自分の体にいるのをこれだけ受容したのは久しぶりな気がする。私の体と心が以前よりは友達になって、自分のことを懐疑的に見ることも少なくなったように感じる。自分の中のパーツくらい仲良くなくてどうするのだ、と言いたくなるが、実際われわれの体と心は案外と仲が悪かったりするようである。このワルツは大きなRPGに私を放り込んだ。そんな中で心と体が仲違いしている余裕など

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とんかつ屋でご飯セットを頼むおじいちゃんの話

私はとんかつ屋で働いていた事がある。とんかつ屋と言ってもいわゆる下町にある和気藹々としたとんかつ屋では無い。油が好きそうな芸能人がたまに顔を出す、店内の席の九割がカウンターのとんかつ屋だ。もちろん、客層は限られてくる。高そうなスーツに身を包んだ男の人とか、清潔感のある綺麗なお姉さんとか、なんだか高そうなスウェットにハイブランドの紙袋片手の港区カップルとか、髪色が明るいマダムと少しいけてるおじさんと

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都会と田舎と若者と老人と余生と

都会と田舎と若者と老人と余生と

O県は、東京とよく似た外国のようだった。

中心街を囲んで放射線状に活気が薄れ、自然が際立つ様は東京と変わらなかった。ただしO県の場合は、それが東京よりとても顕著に現れていた。私の新しい住まいはインターン先の代表宅の坂下、八畳程の広いコンテナハウスだった。トイレはコンテナハウスを出て5メートルほど先の倉庫のなか。シャワーは代表宅のものを使わせてもらう。一般的なボランティアや居候からしてみればまたと

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神様

神様

A:この世に神がいるとしたら、「それ」はきっと全知全能ではない。だって全知全能の神がいたら起こりうらないことが日々そこら中で起きているもの。

この世に神がいるとしたら、もしかして「それ」は地球があることを知らないかもしれない。青い水に満ちたこの惑星が存在することさえ、神の辞典には載っていないかもしれない。

すなわち神は、春に芽がいっせいに息吹くことも、夏の汗ばむ太陽も、秋の程寒い風も、冬の静け

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夜

夜がふけていく。日めくりのカレンダーが一枚めくれてから数時間が経った。時刻は午前2時過ぎであったが、二人は今何時かなど全く興味がなかった。時間の概念を数字化するのは形のない流動的物体を箱に押し込んで均等に切り刻むようなもので、極めて不自然で人工的だ。身勝手ともいえる所作である。なにより二人は今、胸の少し下の辺りから流れ出す水煙のような気持ちを吐き出すのに精一杯だったのだ。なので現在時刻が7:00だ

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BOSE-700 refurbished

BOSE-700 refurbished

君のことをしったのは2019年、高校の教室。社会学科系の教室が連なる廊下の右側、手前から二つ目。ホームルームの席順で座る、ガヤガヤする教室の窓側隅っこ、一番後ろ。仲のいい子もあまりいなくて、適当に座った席の横:その女の子は角度の高い猫目とくるくるの黒髪を押さえつけるようにヘッドホンをしていた。私はカーキのスカートを履いて、その子はカーキのズボンを履いていた。後から知った話だが、その子は拒食症をわず

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都会と心、感性

都会と心、感性

西武池袋線、土曜日、午後6時21分。私は急に、生きていると感じた。

馴染みのない路線、馴染みのない座席の色。突発的に決まった予定、山積みになっていないタスク。

少し休んでおこうと目を閉じると、電車が動く音が聞こえる。馴染みのないガタンゴトンのリズムを聞いたとき私は急に、あぁ、私は今生きていると思った。

「最近、自分が"生きている!"と感じた瞬間はなんですか?」上級生のインフルエンサーがインス

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フッと思いついて

フッと思いついて

韓国について数週間が経った。毎日のリズムも徐々に安定してくる。朝起きてすぐに授業を受ける。近所の八百屋さんで買った野菜を切ってサラダを作り、フライパンにバターをひいてトーストを焼く。カフェに行ったり行かなかったりして、夜になる。クラスメートと少し会話をしたりネットフリックで話題の韓流ドラマを見たりして寝る。毎夜、なぜかとても疲れているので夢を見ることもなく気づけば翌日になっている。そんなことの繰り

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刹那を一つずつ

刹那を一つずつ

たくさんのものに怯えている。失敗が怖い。人を失うのが怖い。人を愛して二度と会えなくなるのが怖い。時に流れてほしくない。今この瞬間に一時停止ボタンを押して、世界が回るのを止めて、流れるジャズも止めて。一人で、止まった世界で佇んで、寝っ転がりたい。これ以上私を置いていかないで。

前どこかのノートで、ミネルバでの生活は激流だと書いた気がする。濁流に揉まれるという表現があるけれど、ミネルバの生活は揉まれ

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言葉(四季)

言葉(四季)

言は葉のように

待って落ちて、あなたの頭にふっと降り立ったりして

大木の末端が風に飛ばされて

山の反対側に根を生やしたり

何も知らない人たちが

「わぁ、きれい」って

手を叩いたり

真っ赤だったり

新緑だったり

冬になれば綺麗な葉っぱは落として、枝を剥き出して佇む。

飾らず、生身を曝け出す。

貫く

心の季節に振り回されて

色を変える言葉たちは

あぁなんだか

自由で得体の

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仮想現実

仮想現実

パソコンを直視できない。暗い、真っ黒な画面。まっくろすぎるキーボード。怪しいダークグレイのボディ。冷たい。

F列のキーボードをぼんやりと眺めながら視界の丈夫にある真っ黒な13インチ画面を確認する。浮かんでくるのは渦のような思考ばかり。竜巻みたいに私を襲ってくる。それに呑まれて、その姿を見ようと今日もnoteの画面に文字を打ち込む。

浮かんでくるのは真っ暗な井戸。底のない、深い井戸。蛙をぽちゃん

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