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仮想現実

パソコンを直視できない。暗い、真っ黒な画面。まっくろすぎるキーボード。怪しいダークグレイのボディ。冷たい。

F列のキーボードをぼんやりと眺めながら視界の丈夫にある真っ黒な13インチ画面を確認する。浮かんでくるのは渦のような思考ばかり。竜巻みたいに私を襲ってくる。それに呑まれて、その姿を見ようと今日もnoteの画面に文字を打ち込む。

浮かんでくるのは真っ暗な井戸。底のない、深い井戸。蛙をぽちゃんと落としてみる。ひゅっと空気を切る音がして水面と蛙が接触する音がする。「ぽちゃん」。この井戸に入ったらね、水面と接触したらね、そしてそれに気がつかなかったらね、ずーっと沈んでいくの。光の濃度は水深と一緒に薄くなっていく。沈めば沈むほど、徐々に暗くなっていく世界。目が開いているのに目の奥に光は入ってこないの。なんでかなぁ、私の眼は真っ暗な水たちと同化してしまったのでしょうか。瞳にもう光は入ってこないのでしょうか。光を受け止めるはずの眼は、網膜に映る光の反射を通して世界を見る脳みそは、勝手に現像を作り始めてしまいました。暗闇の中で、光を求めて、物の反車体と生きたくて、気がついたら私はきっと、この世界には生きていないの。生きているけど生きていないの。だって眼の奥に光が入ってこないんだもの。この世界に生きている全ての人たちが見ている景色が、そこに存在するのに私には見えないの。私のなかには存在しないの。

圧倒的な闇。音も聞こえない。私は一人。自分の心臓の音だけが徐々に鮮明に聞こえてくる。私たちはいつも、自分だけを生きているけれど、この世界に生きている他のもの全てを考えて生きている。木を見たら木のことを考えて、男の人をみたらその男の人を考える。認知する。光が届かないこの井戸の奥深くでは、自分しか生きていないの。息をしても、吐いても私しかいないの。手を動かしても、足掻いても、私しかいないの。私の網膜にはなにも映っていない。

あぁ、世界が恋しい。私が逃げてきた世界が恋しい。私を傷つけて、逃げ出させた世界が恋しい。泣いても泣いても涙は井戸の水と同化して暗黒が増すだけ。徐々に黒に包まれて、私も黒になる。そんな井戸。

その井戸に根を張った頭を引っこ抜く。ぶちぶちと管が切れる音がしてはっと我に返る。あぁ、夢か。

ただいま、仮想現実。ただいま、ここでしか息ができない私たち。


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