くまモンとコウペンちゃんをこよなく愛する、人生の旅人です。一編の小説が人生を変えること…

くまモンとコウペンちゃんをこよなく愛する、人生の旅人です。一編の小説が人生を変えることもある。そんな物語の力を信じています。小学館「第3回日本おいしい小説大賞」で最終選考に『羽釜の神様』が選ばれました。

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  • 女子高生×ミニチュアハウス

    後藤葵はミニチュア作りが大好きな女子高生。 つらいときも、悲しいときも、ミニチュアを作っていれば、すべてを忘れられる。 そんな葵のミニチュアが注目を集めて、人生が大きく動き出す。 さまざまな出会いと別れを繰り返しながら、「本物の愛」に辿り着くまでの、一人の少女の10年間の物語。 *ミニチュアハウスは「ドールハウス」とも呼ばれていますが、本作では「ミニチュアハウス」にしています。 *作中、文章が途中で途切れているのは、葵が高速で心の中でおしゃべりしている様子を表す演出です。

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文学賞の最終選考に残ると、何が起きるのか

 noteビギナーは自己紹介から始めるのが定番のようですが、自分の職業について知られたくないという諸事情があり、迷っていました。  しかも、今までの経歴も変わりすぎ…

凪
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さよならなんか、言わない。 ~あとがきにかえて

 3か月間連載してきた『愛なんか、知らない。』は、本日最終回となりました。  この3か月間、毎日読みに来てくださった皆様、毎日スキをしてくださった皆様、ありがとう…

凪
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愛なんか、知らない。 エピローグ

「鈴~、どこにいるのお?」  私は鈴を呼びながら、ドアを開けた。  そこには、鈴がいた。  テーブルの上にある、ミニチュアハウスをじっと見つめてる。 「鈴。ここは…

凪
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愛なんか、知らない。 最終章⑰私たちの、居場所

 お正月、大輔さんのご両親に挨拶に行くことになった。  前の晩は緊張のせいであまり眠れなかったよう……。  ガチガチに緊張して、「こここんにち、あ、いや、あけまし…

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 それからの1か月は、あっという間に過ぎて行った。  今さらだけど、銀行口座を閉じて、別の銀行に口座を開いた。  おばあちゃんがローンを払い終わってるから、家賃を…

凪
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愛なんか、知らない。 最終章⑮ひとすじの光

 塚田さんは、私の表情から何か察したのか、「それは、葵さんに問題があるからじゃないよ。自分より弱い存在に当たり散らしてるだけ。そういう人間、いるからね」と諭すよ…

凪
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愛なんか、知らない。 最終章⑭訣別の時

 その日は、老人ホームのワークショップの日だった。  久しぶりだから、どうなることかと思ったけど、前教えた入居者さんから「あの時作ったお弁当、まだ飾ってあるの」…

凪
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愛なんか、知らない。 最終章⑬未来の扉

「それとね、後藤さん、ここまでは過去の話。ここから、未来の話をしたいの」 「未来?」  南沢さんの目がキラキラしてる。 「今、絵本を作らないかって話が来てるのね。…

凪
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愛なんか、知らない。 最終章⑫忘れることなんか、できない。

 その日から、塚田さんと毎日のようにメッセをやりとりした。  といっても、鈴ちゃんが図画工作で先生に褒められたとか、ワークショップで参加者さんからこんなことを言…

凪
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愛なんか、知らない。 最終章⑪幸せな一夜

 塚田さんとディナーする日は、優の言葉を信じて青いワンピースを着て行くことにした。白いカーディガンを合わせて、ネックレスやバッグを変えて。  待ち合わせの10分前…

凪
13日前
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愛なんか、知らない。 最終章⑩戸惑いと、ときめきと。

 その夜。心に塚田さん親子と映画を観に行ったことと、塚田さんからのメッセージを報告した。 「でもでも、何かの勧誘の可能性もあるよね? なんか変なものを買わされた…

凪
2週間前
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愛なんか、知らない。 最終章⑨秋の日、井の頭公園で

 ランチの後、井の頭公園を散策していた時、鈴ちゃんがスワンボートに乗りたいって言いだした。  私は岸辺で待ってようと思ったけど、鈴ちゃんが「先生も一緒じゃなきゃ…

凪
2週間前
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愛なんか、知らない。 最終章⑧心躍る週末

 塚田さん親子の教室は、鈴ちゃんから「あれも作りたい、これも作りたい」というリクエストが相次いで、今年中には完成できないかも、って状況になった。  いつの間にか…

凪
2週間前
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愛なんか、知らない。 最終章⑦鈴ちゃんのミニチュア教室

 9月に入って、塚田さんと鈴ちゃんがうちに来た。 「こんにちは~」  二人とも汗だくだ。 「駅から遠かったですよね、大変でしたよね」 「いえいえ、鈴は電車もバスも乗…

凪
2週間前
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愛なんか、知らない。 最終章⑥にぎやかな8月

 お父さんがバッグに荷物を詰めていると、「パパ、これ見て」とリンちゃんは純子さんのミニチュアのところに引っ張っていった。 「うお~、すごい、細かいなあ。これは、…

凪
2週間前
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愛なんか、知らない。 最終章⑤ステップ・バイ・ステップ

 2回目のワークショップは一気に7人増えた。  1回目のワークショップを受けた子供たちが、あちこちで「面白かった」「こんなの作れたんだよ」と言って回ったので、「私も…

凪
2週間前
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文学賞の最終選考に残ると、何が起きるのか

文学賞の最終選考に残ると、何が起きるのか

 noteビギナーは自己紹介から始めるのが定番のようですが、自分の職業について知られたくないという諸事情があり、迷っていました。
 しかも、今までの経歴も変わりすぎているため、知り合いにすぐに特定されてしまいそうで…。

 そこで、自己紹介がてら、文学賞の最終選考に残った時の話をすることにしました。noteには小説家を目指して文学賞に応募している方も大勢いらっしゃるので、参考にしていただければ幸い

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さよならなんか、言わない。 ~あとがきにかえて

さよならなんか、言わない。 ~あとがきにかえて

 3か月間連載してきた『愛なんか、知らない。』は、本日最終回となりました。
 この3か月間、毎日読みに来てくださった皆様、毎日スキをしてくださった皆様、ありがとうございます!
 とてもとても励みになっておりました。

 そして、みんなのフォトギャラリーのイラストや写真をたくさん使わせていただきました。私の作品を彩ってくださって、心から感謝いたします。何度も使わせていただいたクリエイターさんの作品も

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愛なんか、知らない。 エピローグ

愛なんか、知らない。 エピローグ

「鈴~、どこにいるのお?」
 私は鈴を呼びながら、ドアを開けた。
 そこには、鈴がいた。
 テーブルの上にある、ミニチュアハウスをじっと見つめてる。

「鈴。ここは、今日からママがお仕事する部屋だから、入っちゃダメだって言ったよね?」
 大輔さんが私の背後から鈴を注意する。
「だって、このミニチュア、何回見てもいいんだもん」
「気に入ってくれて、ありがと。これから来る相談者さんが、この作品のファン

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愛なんか、知らない。 最終章⑰私たちの、居場所

愛なんか、知らない。 最終章⑰私たちの、居場所

 お正月、大輔さんのご両親に挨拶に行くことになった。
 前の晩は緊張のせいであまり眠れなかったよう……。
 ガチガチに緊張して、「こここんにち、あ、いや、あけましておめでとう、ござ、ござ」ってどもりまくったら、大輔さんは爆笑していた。

「大丈夫、大丈夫。うちの親相手にそんなに気を使わなくていいから」
「大輔、失礼なことを言わないの」
「こんにちは。大輔から、あなたの話はよく聞いてますよ」
 優し

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愛なんか、知らない。 最終章⑯愛を知る家

愛なんか、知らない。 最終章⑯愛を知る家

 それからの1か月は、あっという間に過ぎて行った。
 今さらだけど、銀行口座を閉じて、別の銀行に口座を開いた。
 おばあちゃんがローンを払い終わってるから、家賃を払う必要はないのが不幸中の幸い。心に話したら、毎週のように料理を作りに来てくれて、大量に作り置きして行ってくれるし。
 あ、その時に彼女さんも一緒に来て、紹介してもらった。穏やかな人柄の人で、心にピッタリだった。

 それどころか、懐かし

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愛なんか、知らない。 最終章⑮ひとすじの光

愛なんか、知らない。 最終章⑮ひとすじの光

 塚田さんは、私の表情から何か察したのか、「それは、葵さんに問題があるからじゃないよ。自分より弱い存在に当たり散らしてるだけ。そういう人間、いるからね」と諭すように言う。

「オレが離婚した話、まだしたことなかったけど。オレは、浮気されたんだ、妻に。情けない話だけど。なんか、学生時代からつきあってた彼氏がいたみたいで、結婚した後も、そいつとは切れてなかったみたいで。相手も結婚してて、W不倫ってやつ

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愛なんか、知らない。 最終章⑭訣別の時

愛なんか、知らない。 最終章⑭訣別の時

 その日は、老人ホームのワークショップの日だった。
 久しぶりだから、どうなることかと思ったけど、前教えた入居者さんから「あの時作ったお弁当、まだ飾ってあるの」と声かけてもらったり、「再開するって聞いて、真っ先に申し込んだ」と言ってもらえたり。
 こんなに歓迎してもらえるなんて、ありがたいの一言しかないよ。ううう。再開してよかった。

 心地よい疲労感に包まれて、家路に着いた。
 陽が落ちるのが早

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愛なんか、知らない。 最終章⑬未来の扉

愛なんか、知らない。 最終章⑬未来の扉

「それとね、後藤さん、ここまでは過去の話。ここから、未来の話をしたいの」
「未来?」
 南沢さんの目がキラキラしてる。
「今、絵本を作らないかって話が来てるのね。私、その絵本を、後藤さんのミニチュアで作りたいの」
「えっ、ええほ、絵本ですか!?」

「私の世界観と、後藤さんの作品の世界観ってピッタリだと思うのね。だから、私が絵本を作るなら、後藤さんのミニチュアを使ってほしいと思って。絵本って言って

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愛なんか、知らない。 最終章⑫忘れることなんか、できない。

愛なんか、知らない。 最終章⑫忘れることなんか、できない。

 その日から、塚田さんと毎日のようにメッセをやりとりした。
 といっても、鈴ちゃんが図画工作で先生に褒められたとか、ワークショップで参加者さんからこんなことを言われたとか、たわいない話ばかり。
 鈴ちゃんの教室も続いてるし、塚田さんと鈴ちゃんと三人でテーマパークにも行った。

 だけど、お母さんの言葉がトゲのように胸に刺さって抜けない。
「血がつながってない子の親になれるの?」って。
 まだ付き合

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愛なんか、知らない。 最終章⑪幸せな一夜

愛なんか、知らない。 最終章⑪幸せな一夜

 塚田さんとディナーする日は、優の言葉を信じて青いワンピースを着て行くことにした。白いカーディガンを合わせて、ネックレスやバッグを変えて。
 待ち合わせの10分前に駅に着いたら、既に塚田さんの姿があった。
 えっ、早っ。

「こ、こ、こんばんは」
 声をかけると、塚田さんはスマホから顔を上げた。
「あー、こんばんは!」
「おお待た、お待たせしましました」
 緊張のあまり、どもりが全開になってるよ…

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愛なんか、知らない。 最終章⑩戸惑いと、ときめきと。

愛なんか、知らない。 最終章⑩戸惑いと、ときめきと。

 その夜。心に塚田さん親子と映画を観に行ったことと、塚田さんからのメッセージを報告した。
「でもでも、何かの勧誘の可能性もあるよね? なんか変なものを買わされたり、変な宗教に入りませんか、とか」
「なんでいきなり、怖い想像してるの?」
「だって、私をデートに誘うなんて、そんな珍しい人、世の中にいるはずないし」
「葵、人間不信になりすぎてるよ……。今までつらい思いをたくさんしてきたのは分かるけど。塚

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愛なんか、知らない。 最終章⑨秋の日、井の頭公園で

愛なんか、知らない。 最終章⑨秋の日、井の頭公園で

 ランチの後、井の頭公園を散策していた時、鈴ちゃんがスワンボートに乗りたいって言いだした。
 私は岸辺で待ってようと思ったけど、鈴ちゃんが「先生も一緒じゃなきゃヤダ!」とごねたから、私も乗ることになった。

「なんか、ホント、すみません。こんなのまでつきあわせちゃって」
「いいいえいえ、そんな」
 塚田さんに謝られてばっかだ。
 私もスワンボートに乗るのは初めてなんで、嬉しいです。とか、気の利いた

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愛なんか、知らない。 最終章⑧心躍る週末

愛なんか、知らない。 最終章⑧心躍る週末

 塚田さん親子の教室は、鈴ちゃんから「あれも作りたい、これも作りたい」というリクエストが相次いで、今年中には完成できないかも、って状況になった。
 いつの間にか、季節は秋になっていた。

「なんかすみません。鈴の作りたいものが増えていって」
「い、いえ、私はいいんですけど、隔週でここまで通うほうが大変なんじゃないかなって」
「そうでもないですよ。遠足気分みたいで、ここに来る時は前の晩から『明日持っ

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愛なんか、知らない。 最終章⑦鈴ちゃんのミニチュア教室

愛なんか、知らない。 最終章⑦鈴ちゃんのミニチュア教室

 9月に入って、塚田さんと鈴ちゃんがうちに来た。
「こんにちは~」
 二人とも汗だくだ。
「駅から遠かったですよね、大変でしたよね」
「いえいえ、鈴は電車もバスも乗れるから、大喜びでしたよ」
 塚田さんはTシャツにジーパンとラフな格好だ。食堂に鈴ちゃんを迎えに来る時は制服姿だから、なんか新鮮。

「こちらへどうぞ」
 リビングに招く。教室と同じように折り畳みのテーブルを用意して、使う道具をそろえて

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愛なんか、知らない。 最終章⑥にぎやかな8月

愛なんか、知らない。 最終章⑥にぎやかな8月

 お父さんがバッグに荷物を詰めていると、「パパ、これ見て」とリンちゃんは純子さんのミニチュアのところに引っ張っていった。
「うお~、すごい、細かいなあ。これは、この食堂をミニチュアにしてるのかな?」
 目黒さんは子供たちに料理を出しているので、私が「そ、そうなんです。このミニチュアを作ったのは、私の恩師なんです」と応じた。

「そうですか。いや、すっごいリアルですね。この椅子が乱れてるところとか、

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愛なんか、知らない。 最終章⑤ステップ・バイ・ステップ

愛なんか、知らない。 最終章⑤ステップ・バイ・ステップ

 2回目のワークショップは一気に7人増えた。
 1回目のワークショップを受けた子供たちが、あちこちで「面白かった」「こんなの作れたんだよ」と言って回ったので、「私もやってみたい」っていう子が増えたんだって。初めてこども食堂に来る子もいるみたい。

 一昨日、目黒さんから連絡が来た時は、「え、それって、初回の子と2回目の子を同時に教えなきゃいけないってことですか?」と戸惑いを隠せなかった。
「そうな

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