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夜の猫を片手に、電線からお送りします。

南口のトイレは改装中で閉鎖されていた。しかし扉の奥から何やら音が聞こえてくる。ガリガリガリ。

深夜1時。
忍び込んだ駅構内をできる限りの大股開きで、ひたすらに歩いていく。
天神筋橋商店街を踏破するほどの距離を過ぎ、やっとホームが見えてきた。

駅の上から見える線路上には、8mおきに、信楽焼のタヌキが配置されていた。

深夜はやっぱりちげぇや!エキゾチックや!
深夜はやっぱりちげぇや!エキゾチックや!

2回目の方が、1回目より大きな声で言えた。
過去の自分に勝ったんだ。他を抜くんじゃない。

自分を抜いていく。

深夜はやっぱりちげぇや!エキゾチックや!
3回目。

その声はタヌキのボディに吸い込まれリフレイン。
やがてハウリングを起こす。駅の外まで響きは強まっていく。

やがて隣のタヌキへ。
8mおきの連鎖が始まる。

大量のタヌキたちによる重音は、小さい頃にテレビで見た国民の声ほどまでに大きくなっていた。他を抜こうとしてないかい?

最後尾でポツンと丸まっていた猫が顔を上げた。
音が伝わる前に気づくなんて。賢いね。

その猫に届くか否かで、彼ら"帰る肉体のない者達"は、叫ぶような顔付きだけした。

諦めも肝心。
居た堪れない。初めておしっこを漏らした時のような。

猫は音にびっくり。4つの足に走行テスト用として付けていた、猫用生活力向上ミニ四駆シューズを外して、自足で電柱を駆け上がっていった。

毛は逆立ち、ちょっとおしっこをちびった猫。
夜の風が乾きを与える。居た堪れなさに包まれる猫。

"帰る肉体のない者達"は「タヌキって夜になんで並べられてるんだっけ?」と井戸端会議を開始していた。

4台のミニ四駆が、電柱の足元で電柱を登ろうとして、ウィィン、ウィィンと虚しく空回りしてエンジンを鳴らしている。電柱をガリガリガリと削りながら。

"電柱の角度には対応していないこと百も承知です。知っておます。そんなにきっつい言い方せんでもええやないですか。"

降りられない猫は、風に乗って聞こえてきた、その声の方向を向くと少し頷いた。
賢いね。降りたら危なかったよ。まだまだけたたましい音が線路の上を埋め尽くしていたからね。

降りられないことがわかると、ちょっと気になりだした猫。
残りのおしっこを一思いに出した。電柱の一番上から。

"ちびる" と "出し切る" では印象が違う。

過去の自分より印象を良くしていく。他の猫を抜くんじゃない。
自分を抜いていく。

猫はその信念を諦められなかった。少し逞しくなりましたね。
ミニ四駆シューズも登るのを諦められなかった。電池が切れるまでガリガリガリしようね。

怖いな。今まで何も思わなかったのに。
電柱から降りるのなんて。


音と印象。
愛情と憎悪。

"なんでこんなことに巻き込まれないといけないのか"
という事の連続な一生。

憤る猫にも愛は訪れた。裏切りも失敗も挫折も訪れた。
おしっこをちびったなら、乾きが訪れていた。

平等に何もかも訪れていた。
君が何を選択して、どんな自分を見つけていくか。

どんな印象にしたいか
どんな音にしたいか
どんな洗濯の仕方なら母猫に濡れた布団のことがバレないか

掴んだものを絶対に離さないでほしい。

その頃、俺は猫の間近にいた。
猫の様子を見ていることしかできなかったんだ。

ギャンブル中毒だった。
もう何も残っていなかった。

ニュータウンにできた、余りにも広大な駅。
駅の南口と北口を繋ぐ、電柱と電柱の線上にいた。

彼ら"帰る肉体のない者達"はモニターの向こうで賭けている。
何も道具を使用せずに電線と電線の間を渡りきって、永遠に遊んで暮らせるチケットを俺が手に入れるか。

落ちていくまでの時間を提供して、ショータイムの1人として楽しませるか。

南口のトイレがなんで改装中かなんて知っていた。
前回の出演者が落ちたからだ。

俺は世界なんてどうでもよかった。ただ面白く生きてきた。最後に面白く死ねるだけだと思って参加した。
死を賭けることで、何も持たずに電線の上を進むたび、生きているのだと改めて実感した。

生きたいと思えた。
しかし、もうすぐ朝になる。時間切れになってしまう。

3時間かけてゴールは目の前だっていうのに。猫がいてゴールできないじゃないか。

モニターの向こうで、彼ら"帰る肉体のない者達"が嬉しそうに見ている。
叫ぶような顔付きをしている。

猫は俺を見て、俺は猫を見ている。
とりあえずおしっこをしてみよう。猫から感化されよう。

線上から、ジョーっと。
放物線を描いて、数メートル下の重音に触れる。おしっこは少し震えてから落ちた。

すると近くの猫も再びおしっこを始めた。
コラボレーションじゃん。

"電柱の上からおしっこしてはいけないこと百も承知です。知っておます。そんなにきっつい言い方せんでもええやないですか。"


風に乗ってなんか聞こえてくるじゃん。
京都の人かな。

俺の黄色みがかったおしっこ。猫の透明無色なおしっこ。
コラボおしっこは弧を描き混ざりあった。

キレイな "M形状" を地上から数メートルの高さに作り上げた。

深夜はやっぱりちげぇや!エキゾチックや!
深夜はやっぱりちげぇや!エキゾチックや!
深夜はやっぱりちげぇや!エキゾチックや!
深夜はやっぱりちげぇや!エキゾチックや!

4回!!!!

突然、下から応援が聞こえた。
すっかり音が止んだ様子の信楽焼タヌキ達の声援だ。

そして4月には考えられない冷風に包まれた。

この様子を伺っていた、冬の大将軍が感動しながら、せめてもの願いを込めて息を吹き付けをしてくれたらしい。

"M形状"  おしっこは急速な冷気によって凍り始めた。


道になった。架け橋のような。
掴んだものは絶対に離しちゃいけない。

俺は猫のもとへ駆け抜けて、時間ギリギリでゴールに辿り着いた。


近くのモニターから声が流れてくる。

「331番失敗だ。猫を使った。おしっこもだ」


猫とおしっこNG...


「どうだ?猫か331番、どちらが先に死ぬか。新しい賭けを始めないか?」


もうすぐ夜が明けそうだ。
考える力も残っていない。

俺は一思いに猫を抱えた。
ジャンパーの中に猫を包み入れ、冬の大将軍の冷気に支えられて勢いよく電線に戻った。そして駆け抜けていく。

彼ら"帰る肉体のない者達"は、今ごろ叫ぶような顔付きでもしてるかな。
猫と俺が逃げ切るかどうかで、新しい賭けでも始めたかな。

まぁもうどうでもいいや。
俺は大事なものを胸に抱えてる。

このニュータウンを抜けるまで。監視のないところまで電線を伝って走っていく。猫も俺もすっかり乾いていた。また一緒におしっこしような。

そのまま丸まっていてくれ。

掴んだものを離さずに生きていく。
絶対に離さないからね。掴まっていて。

夜の猫を片手に、電線からお送りしています。
どうか皆さんお元気で。

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